210514_零戦撃墜王

零戦撃墜王

岩本徹三 光人社NF文庫

零戦を駆って撃墜202機(自称)の戦果を残しながら戦争を生き抜いた文字通り零戦撃墜王:岩本徹三氏が自ら綴った著作である。実戦経験者しか書けない壮烈な描写がいくつも見られる。無論、この種の戦史の常として戦果の誤認や誇張は避けられない。本書はあくまでも「一方の戦争参加者から見た戦争の姿」と捉えるべきで、本書の記載内容全てが完全な事実と捉えるのは危険である。
本書を読んで興味深いのは、個々の空戦場面もさることながら、必ずしも「零戦バンザイ」的な視点ではないことである。これは筆者が主に戦ったのが1943年以降の時期であったことも関係あると思われるが、筆者は連合軍機の優れた点は正直に評価している。特に速度性能については連合軍機が明らかに勝っていたことを認めている。
また海軍の同僚に対しても筆者の視線は厳しい。増援で現れた艦隊航空隊(恐らく第2航空戦隊と思われる)に対する辛辣な評価や、戦争末期に無茶な命令を下す参謀を「馬鹿参謀」と蔑む。特攻についても、「この作戦が知らされた時、搭乗員達の士気は明らかに落ちていった」と搭乗員視線から見た正直な感想を吐露している。
先にも書いたが、本書に記載されている戦果・損害をそのまま鵜呑みにするのは危険である。とはいえ、兵力において遥かに勝る連合軍はラバウル航空隊を「フォートレス・ラバウル」と称して恐れていたことは米側の戦記も記載されている。そういった意味で筆者らの奮戦は、評価されてしかるべきであろう。

お奨め度★★★