欧州海域戦_表紙


「欧州海域戦」( 「ソロモン夜襲戦」 の欧州戦線版)のシナリオ作成である。

前回のフランス に続いて「今度はロシア」と思ってシナリオを作ってみたが、史実シナリオではロクなものがない。バルバロッサ作戦の初頭にルーマニア海軍とロシア海軍の駆逐艦同士が撃ち合った戦いがあったのでそれをシナリオ化しよう(仮想設定でロシア巡洋艦「キーロフ」も登場させよう)なんて夢を描いたが、史実のオチが「触雷でロシア駆逐艦大破」という内容だったので断念。実現できれば沿岸砲台等も登場する面白い内容に化ける可能性があったのだが・・・。

という訳で「穴埋め」という訳ではないが、「練習用として戦艦同士の撃ち合いだけのシナリオを」(シナリオ1としての利用を想定)ということで取り上げたのが「ベルリン作戦」だ。

「ベルリン作戦」は1941年初頭にドイツ戦艦「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」の仲良しコンビが実施した通商破壊戦のこと。約2ヶ月間で22隻(約11万6千トン)を撃沈乃至捕獲したとされている。この作戦途上、ドイツ艦隊は2度に渡って戦艦を含む輸送船団を遭遇した。1回目は英戦艦「ラミリーズ」に護衛されたHX106船団。2度目が戦艦「マラーヤ」に護衛されたSL67船団である。いずれの場合もドイツ艦隊はリスク回避の観点から船団襲撃を諦めたが、もしドイツ側がより積極的だったらどのような結果に終わっただろうか。

今回のシナリオは、そのうちの第2回目の遭遇、すなわち戦艦「マラーヤ」に護衛されていたSL67船団をドイツ艦隊が襲撃した場合を想定した仮想シナリオである。

Turn00


1Turn

ドイツ艦隊は左は120度旋回。T字戦法に出る。「シャルンホルスト」が距離27kmで「マラーヤ」に向けて主砲射撃開始。しかし距離が遠いので当然外れ。

Turn01


2Turn

「マラーヤ」はなおも突進する。彼我の距離は24kmまで接近した。ドイツ側2戦艦は共同で「マラーヤ」を狙う。しかし全弾外れ。「マラーヤ」も主砲射撃開始。「シャルンホルスト」を狙うが、主砲は外れる。

3Turn

ドイツ側は接近戦を嫌って左へ120度回頭。英戦艦を斜め後方に見る。「シャルンホルスト」のみが射撃を継続。しかし外れ。
「マラーヤ」は距離の関係上後続する「グナイゼナウ」に目標を変更する。距離21kmで初めて全力射撃。しかし砲弾は無情にも逸れた。

Turn03

4Turn

GE_BB1a「シャルンホルスト」の主砲弾が「マラーヤ」を捉えた。目標を見事に夾叉した9発の28cm砲弾のうち、2発が「マラーヤ」に命中したのである。しかし「マラーヤ」の装甲部に命中した2発の28cm砲弾は、いずれも「マラーヤ」の装甲に跳ね返された。
「マラーヤ」の砲火は依然目標を捉えきれない。

5Turn

「シャルンホルスト」の主砲弾がさらに3発が「マラーヤ」に命中した。しかし距離24kmから放たれた28cm砲弾は、その悉くが「マラーヤ」の装甲板に跳ね返された。「マラーヤ」は全く無傷である。

6Turn

CW_BB10aドイツ側戦艦部隊が船団から十分に遠ざかったことをみた「マラーヤ」は、右120度回頭でドイツ艦隊への追撃を中止する。このまま追撃を続けても優速なドイツ艦隊を捕捉できないと判断したためだ。
「シャルンホルスト」からの射撃は目標を逸れたが、今後は「グナイゼナウ」の主砲弾が命中した。しかし相変わらず「マラーヤ」の装甲に阻まれて実害はない。

Turn06


7Turn

このままでは埒が開かないと見たドイツ艦隊は再び左120度回頭して英船団に向かう。接近戦で「マラーヤ」を仕留める戦術だ。

Turn07


8Turn

再び接近コースに入ったドイツ艦隊。彼我の距離は21kmまで接近した。「マラーヤ」は距離が近づいた「シャルンホルスト」に目標を変更して射撃開始。しかしその砲撃は外れ。
一方のドイツ艦隊は「グナイゼナウ」の主砲が目標を捉えた。3発の28cm砲弾が「マラーヤ」の非装甲部に命中。小規模な誘爆を引き起こし、死傷者が出る。初めて「マラーヤ」に実質的な損害が出た。

9Turn

GE_BB2a「マラーヤ」は「グナイゼナウ」の砲撃を躱すため左60度旋回する。しかし「グナイゼナウ」は「マラーヤ」を逃さない。連続して3発の28cm砲弾が「マラーヤ」の上構に命中した。そのうちの1発は「マラーヤ」の方位盤に命中し、「マラーヤ」に砲側射撃を余儀なくさせた。また別の1発は「マラーヤ」の艦橋付近に命中。幹部に多数の死傷者を出した「マラーヤ」は一時的に戦闘力を失う。

Turn09


10Turn

「良き羊飼いは羊のために命を捨てる」

手負いの「マラーヤ」はキリストの言葉を身を以て示すしかなかった。しかし「狼たち」は容赦なく近づいてくる。距離13Hex(約20km)から「シャルンホルスト」は主砲弾を放ったが、目標を逸れた。

Turn10


11Turn

ドイツ艦隊はなおも迫ってくる。距離12Hex(18km)。「マラーヤ」は砲側照準で反撃を実施。「シャルンホルスト」に対して主砲の一斉射を放った。1発の38cm砲弾が「シャルンホルスト」に命中。上構に命中したその徹甲弾は、「シャルンホルスト」の通信室を破壊した。一時的に混乱を起こすドイツ艦隊。「シャルンホルスト」はお返しとばかり3発の28cm砲弾を「マラーヤ」に命中させたが、その悉くが「マラーヤ」の装甲板によって跳ね返された。ここまで「マラーヤ」に命中した28cm砲弾は計15発。それでも「マラーヤ」は十分に戦闘が可能であった。

12Turn

MS01a燃料に不安を感じ始めたドイツ艦隊は、目標を「マラーヤ」から輸送船に変更した。輸送船から9Hex(13km)まで接近した2隻のドイツ戦艦は、主砲と副砲で輸送船を撃ちまくる。4隻の輸送船に命中弾を与えたが、いずれも沈没には至らない。
一方の「マラーヤ」は方位盤の修理が完了し、距離12Hex(18km)から「シャルンホルスト」を狙った。38cm徹甲弾2発が「シャルンホルスト」に命中した。しかもそのうちの1発は水中弾となって「シャルンホルスト」の舵機の一部を破壊し、「シャルンホルスト」は運動の自由を奪われた。

Turn12


13Turn

ドイツ戦艦2隻は輸送船に対して砲火を浴びせ続ける。3隻の輸送船が被弾し、うち2隻が中破状態まで損傷を広げたが、沈没する船はまだ出ない。

14Turn

輸送船1隻が「グナイゼナウ」の集中砲火を浴びて沈没した。最初の沈没船である。しかしドイツ側にもタイムリミットが迫っている。果たして・・・・。

15Turn

最終Turnである。ドイツ戦艦は輸送船団の壊滅を狙ったが、結局このTurnは1隻も撃沈できなかった。一方「マラーヤ」は2発の38cm砲弾を「シャルンホルスト」に命中させ、そのうちの1発は「シャルンホルスト」の主装甲を貫いたが、「シャルンホルスト」の損傷状態は小破に留まった。

Turn15


結果

英軍の損害

沈没:輸送船1隻
大破:輸送船1隻
中破:輸送船2隻
小破:戦艦「マラーヤ」

独軍の損害

小破:戦艦「シャルンホルスト」


勝利条件から英軍の勝利。

感想

今回は英艦隊の勝利となったが、バランス的にはドイツ側が有利と思われる。英艦隊が勝利できた要因はドイツ側が逡巡して一貫性の欠いた戦術を採ったためで、決然と接近戦に持ち込めば、砲力の優越がモノを言って「マラーヤ」を撃破できただろう。事実、この後に実施した第2回目のテストでは、ドイツ戦艦2隻が「マラーヤ」を袋叩きにし、中途で同艦を大破させて勝利を得ている。
ドイツ軍にとってネックなのは主砲の威力の低さである。現時点の評価では、ドイツ製28cm SK C/34の評価は、射程距離が長い(46cm砲と同等)ことを除けば、他の28cm砲と差異はない。当然ながら英戦艦が装備する38.1 cm Mark 1に比べると、貫通力と威力の両面で見劣りする。今回のシナリオでも「マラーヤ」は計15発の28cm砲弾を食らったが、損傷レベルは「小破」に留まっている。中距離砲戦に固執したドイツ側の失敗もあるが、28cm SK C/34の評価についてやや貫通力が弱いと思われる。一度大口径砲の貫通力を並べて再評価したいと思う。

このシナリオの目的は砲戦システムだけの練習用シナリオを提供するということであった。純粋に戦艦対戦艦の対決ということで仮想戦としてベルリン作戦を選んだ。そういった意味で練習用としては上手く機能していると考える。もし上級者と初級者が本シナリオで対戦する場合は、初級者がドイツ側を担当し、上級者が英側を担当するのが良いだろう。

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