Mirage5BR_BE


Red Storm(以下、本作)は、2019年に米国GMT社から発売されたシミュレーションゲームだ。テーマは1987年における東西ドイツ上空における航空戦闘である。実際に起こらなかった戦争を再現する本作は、一種の「仮想戦」ゲームといえる。ゲームシステムについては、 以前の記事 を参照されたい。

今回は、その中からシナリオRS12:Second Echelon Forcesをプレイしてみた。プレイスタイルは、VASSALを使ったソロプレイである。

前回までの展開は --> こちら

17Turn

BE_Mirage_LiegeNATO偵察機が目標上空に進入した。WP側は対空砲火の弾幕射撃、レーダー誘導の重対空砲(FireCan)、さらにはSA-13赤外線誘導ミサイルの斉射でこれを迎え撃つ。あらゆる砲火が4機のMirageに集中し、そのうち1機が弾幕射撃による至近弾を食らって軽微な損傷を被った。しかし偵察機は激しい弾幕をものともせず目標上空に突入し、戦果確認の写真を撮ることに成功した。

Turn17a


18Turn

RU_SA13_A3Tornado隊は全機がNATO占領地区上空へ引き上げた。残りは偵察機とその援護機だけである。離脱中の偵察機がSA-13赤外線誘導ミサイルの攻撃を受け、危うくそれを回避したものの、回避運動によって高度が低下してしまう。先が思いやられる。

Turn18a


19Turn

ZZ_StandoffJamming_A戦場離脱を図るNATO偵察機を援護すべくNATO電子戦機は生き残ったWP SAM部隊に対してスポットジャミングを仕掛けて制圧を図る。スポットジャミングの効果は大きく、発射されたWP側SAMは全く効果がない。このTurn、WP側に増援のQRA(Quick Reaction Alert:緊急即応体制)編隊が登場する。

「何をいまさら」

の感が無きにしも非ずだが・・・。NATO側のCAP機は敵機の出現に備えて包囲の布陣を敷く。しかしWP側戦闘機も友軍対空砲火に守られた「天の岩戸」に籠っているため、NATO側戦闘機も手出しができない。

Turn19a


20-23Turn

その後迎撃を試みたWP側のMiG編隊をNATOのCAP隊の集中攻撃をしかける。1機のMiG-21がAIM-7FのBVR攻撃によって被弾損傷して這う這うの体で逃げるしかなかった。NATOの編隊は無事戦場を離脱し、戦闘は終了した。

Turn23a

結果

NATO側の戦果

空中戦の戦果:撃墜3、軽損傷1
地上攻撃の戦果:侵攻目標完全破壊1、重損傷1、軽損傷1
侵攻目標以外で早期警戒レーダー1重損傷、SA-4大隊1重損傷、SA-11大隊3重損傷、FireCan1重損傷。

WP側の戦果

空中戦の戦果:なし
対空射撃の戦果:大破1(F-16)、小破1(Mirage5BR)


VPはNATO側が42VP、WP側が3VPで、差は+39。NATO側の決定的勝利であった。

感想

WG_Tornado_Emil無誘導兵器の使用を前提とした時、Tornadoの対地攻撃能力は抜群である。それは新鋭のF-16CやFA-18をも上回るもので、これを上回る能力を持つものは米空軍のF-111F Aradvarkぐらいで、Tornadoの対地攻撃能力の高さが伺える。
ただし・・・、この「優秀さ」には1つの前提が存在する。それは「無誘導兵器の使用」という前提条件である。
しかし史実における湾岸戦争でも明らかになったが、無誘導兵器による攻撃は当時既に時代遅れになりつつあった。ベトナム戦争で示された低空防御用の強力な対空火器が、有人機の無誘導兵器による攻撃を自殺行為に変えつつあったのである。対空火器をスタンドオフ可能で、しかも正確に目標を破壊できる兵器。すなわち誘導兵器が対地攻撃の主役になりつつあったのだ。
誘導兵器の使用をも考慮に入れた場合、Tornadoの対地攻撃能力はかなり割り引いて考える必要がある。本作のADC(Air Data Card:航空機性能表)によればTornadoは誘導兵器の運用能力がないのだ。そのためTornadoの実質的な対地攻撃能力は、LGB搭載可能なF-4D/E、F-111F、F-117A、A-7D、A-10Aといった米空軍機やJaguar、Harrier、Buccaneerといった英空軍機に劣る(ただしF-16A/CやCF-18はLGBを搭載できないのでTornadoの方が強い)。

US_F111_Jackal今回NATO側に損失機はなかったが、2機の損傷機を出した。その原因は弾幕射撃とレーダー誘導対空射撃(FireCan)によるものである。SAMについては完全にシャットダウンされた形になったが、その原因はNATO側各機の強力な内蔵ECM(欺瞞妨害装置)とスタンドオフジャマーの効果、そしてSEAD機の活躍による所が大きい。内臓ECMについては、NATO側攻撃機の殆どがレベル3の欺瞞妨害装置を装備していたため、SAMやレーダー誘導対空砲火はそれだけで不利な方向に3のDRMを受けることになる。さらに今回登場した3機のスタンドオフジャマー機がマップ全体を覆うような形で広域ジャミングを実施したため、WP側のレーダー誘導SAMはそれによりほぼ無力化されてしまった。このことは、比較的電子妨害の影響を受けにくい赤外線誘導SAMであるSA-13が比較的善戦している(Tornadoの1個編隊に爆装を投棄させたのはSA-13の戦果である)ことからも伺えよう。下図は今回の戦いにおける典型的なNATO側スタンドオフジャミングの実施状況だが、妨害電波がWP側防空部隊の殆ど全部を覆いつくしていることが理解できよう。今回の教訓として、NATO側の電子妨害手段としては、エスコートジャミングよりもスタンドオフジャミングの方が有利だと言えよう。妨害機の安全確保という観点だけではなく、同時に広範囲を制圧できるという制圧能力の観点からも左記の主張は正しいと言える。

Turn99a



SEAD機については、何と言ってもF-4G WildWeaselの活躍が大きい。強力なHARM対レーダーミサイルを2発搭載できるのはF-4Gだけなので(F-16CはHARMを1発のみ搭載可能)その能力はずば抜けている。無論NATO側SEAD機の全てがF-4Gのように優秀な訳ではなく、例えば英空軍のTornado/Jaguar、カナダ空軍のCF-18のようにARMを搭載できない機体も存在する。そのような機体が出てきた場合、NATO側はWP側地対空ミサイルへの対応に苦慮することになるだろう。

RU_MiG23_Budarin空対空戦闘については、今回NATO側の戦闘機はあまり強力なものではなかった。主力は米空軍のF-4E Phatom。これはルックダウンレーダーを持たない機体であるため、超低空に隠れているWP側戦闘機を積極的に狩り出すのは困難が伴う。ルックダウンレーダーを搭載した機体としてはSEAD任務のF-16Cがあったので、これをもっと積極的に戦闘機狩りに使うべきだったかも知れない。いずれにしてもWP側の迎撃機が旧式機ばかりだったので(最有力なのがソ連空軍のMiG-23M)NATO側は大した苦労もなく制圧できたが、もしWP側迎撃機の中に最新鋭のMiG-29が混じっていたら、NATO側は思わぬ損失を招いたかもしれない。

ここまで見てきたように、本作は登場する機体の性能によってゲームバランスが大きく変動する。今回はNATO側の圧勝に終わったが、登場した機体がNATO側にとって有利な組み合わせであったことによる影響が大きい。登場機体はプレイヤーが選択できずにランダムに決まってしまうため、純粋に勝敗を争うゲームとしてはやや不向きな所がある(その点「ソロプレイ」はあまりバランスを気にしなくて良いので楽である)。
ただし本作は現代航空戦が好きで、その雰囲気を楽しみたい方にはうってつけの作品である。特に東西両陣営の様々な軍用航空機がその本来の能力を盤上で存分に発揮できる作品は他にはないだろう。単なる空戦ゲームとは異なり、爆撃機や各種支援機、地対空兵器の活躍をこの目で確認できる点が良い(F-111やSu-24がこんなに「有難い」と思える作品が他にあっただろうか・・・)。現在航空戦が好きな方ならば、一度はプレイしてみて損のない作品だと思う。

EF-111A_Raven

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