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ゲームの概要

「第三帝国最後の戦い」(以下、本作)は、2015年に国際通信社からコマンドマガジン123号の付録ゲームとして発売されたシミュレーションゲームだ。テーマは1945年における東部戦線。スケールは1Hex=約20km、1Turn=0.5ヶ月、1ユニットはドイツ軍が師団、ソ連軍が軍団である(例外あり)。デザイナーはJavier Romero。2018年発表の「嵐の8月、満州1945」のデザイナーでもある。因みに「嵐の~」はテーマ的には興味があったのだが、「何だか面白くなさそう・・・」という先入観(というか"勘")で購入していない。

ゲームシステムの解説である。
基本システムはシンプルで、移動と戦闘を繰り返すタイプ。EZOCで停止。EZOCからEZOCへの直接移動は禁止。戦闘はメイアタック。等である。しかし特徴的なルールもある。 一番の特徴は、ソ連軍による戦闘後前進と機械化予備ルールである。このゲーム、戦闘結果に「後退」がない。つまり劣勢な側も全滅するまでその場に留まり続ける訳であるが、ソ連軍が攻撃側で敵を全滅させた場合、必要な戦闘結果を超過した分だけ戦闘後前進が移動力の形で与えられる(ただし機械化部隊か騎兵部隊のみ)。さらに戦闘終了時点で戦闘に参加せず敵に隣接していない機械化/騎兵部隊は、移動力の半分で戦闘後前進ができる。この時恐ろしいのは、戦闘後前進ではEZOCを無視できるということ。従って一旦戦闘後前進を許すと、前線の部隊はごっそりと包囲されてしまう。ちなみにこのルールはソ連軍のみ利用可能であり、ドイツ軍は利用できない。
対するドイツ軍は、機動突撃というルールが用意されている。これは一種のオーバーランだが、スタックして移動するドイツ軍機械部隊は、移動中に攻撃が実施できるというもの。これで敵を全滅させれば、移動を継続できる。が、実の所、このルールはあまり使い道がない。理由は後述する。
戦闘ルールにもクセがある。このゲーム、1つの防御スタックに対する複数回攻撃が許されている。例えば独軍スタックXに対して、ソ連軍ユニットA,B,C,Dが隣接していたとしよう。この場合、ソ連軍はまずA,B,CでXを攻撃する。もしXが生き残ったら、今度はDでXを攻撃する、というようなワザが許される。そこでソ連軍としては、先の突破ルールとも相まって、目標に主攻撃部隊の他に機械化部隊のスタックを隣接させる。第1次戦闘では機械化部隊を攻撃に参加させない。第1次攻撃で首尾よく敵スタックが全滅すれば、機械化部隊で機械化予備移動を実施する。そうそう、機械化予備移動の判定は戦闘直後である点に注意が必要だ(際通信社のエラッタ参照)。全滅しなかった場合には、機械化部隊で第2次攻撃を仕掛けて敵の撃滅を期す。

これらのルールによって表現されているのは、ソ連軍の凶悪なまでの突破能力だ。戦闘後前進や機械化予備移動でEZOC無視の効果が大きい。従ってドイツ軍としては下手に戦線を張っても抜かれて包囲殲滅される公算大である。従って確実に守り切れそうな所以外は真面目に戦線を組まず、防御スクリーンで我慢する。そして敵に接敵できない第2戦に切れ目のない戦線を張るのが得策だ。この時、重戦車大隊や補給部隊、司令部等も戦線つくりに協力させる。ややゲーム的な戦術だが、こうでもしないと守り切れない。何だかなぁ・・・。
因みにこのような姑息な防御手段も、選択ルール12.2「縦深突破」を採用した時点で崩壊する恐れがある。困ったものである。
ちなみにドイツ軍はこのような「姑息」防御を強いられるので、機械化部隊スタックによる機動防御など望むべくもない。ドイツ軍としては最終Turnまでベルリンやプラハが持ちこたえてくれればよいので、遅退戦術で時間稼ぎをしつつ、フルスタックを3大都市(ベルリン、プラハ、ケーニヒスベルグ)に籠らせる。なお、3大都市とダンツイヒは補給源扱いなので補充が可能。ただし補充には司令部が必要なので、司令部も一緒に籠らせること。また補給源ヘクスではユニットの再建も可能なので、積極的に利用したい。

ポイント
・ドイツ軍は最前線の後方に切れ目のない防御ラインを敷く
・大都市はフルスタックで守らせる。その時司令部も一緒に籠らせる
・補給源ではユニットの再建も可能

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対戦

という訳で、本作を対戦してみることになった。ダイス判定の結果、ソ連軍を担当する。目指すは史実通りの大勝利。ケーニヒスベルクとプラハの攻略がポイント。戦線突破の脅威を与えて都市部に籠らせないようにし、後は包囲して力押しである。本格的な攻勢は第4Turnから。

第1Turn(1945年1月後半)

ドイツ軍プレイヤー(対戦者氏)は、上記の「姑息」な防御戦術を採用せず、一般的な2線防御で対応しようとする。しかしそのような配置が無力であることはすぐに証明される結果となった。

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戦線南方では第1ウクライナ軍が第1白ロシア軍と共同でドイツ第4装甲軍の主力を包囲する。また戦線北方では、東プロイセンで第2、第3白ロシア軍がドイツ第3装甲軍主力を包囲殲滅する。戦線中央のワルシャワ(1506)がロシア軍の猛攻を受けて陥落する。ドイツ軍としては、主力となる装甲2個軍がごっそり包囲されることなった。
包囲下のドイツ軍は懸命に解囲を図るが、ソ連軍の包囲網を突破するには至らない。

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第2Turn(1945年2月前半)

ドイツ軍が辛うじて築いたダンツイヒ南、ワイクセル川からヴァルタ川へ南北へつながる防衛ライン。それをソ連軍の先鋒部隊が襲いかかる。トルン(1114)北方とウージ西方で戦線を突破したソ連軍。得意の機甲突破で戦線後方を荒らしまわり、ブレスラウ、ボスナニ、ダンツィヒを包囲した。 ドイツ軍は機動反撃によって包囲網を一部で食い破るも、数個師団が包囲下に陥る。それでもドイツ軍の微妙な反撃によってソ連軍にも少なからず損害が出る。

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第3Turn(1945年2月後半)

ソ連軍は主力がボスナニ、ブレスラウのラインに進出する。ボスナニに対する集中攻撃で同地陥落。ソ連軍の先鋒はオーデル川に到達した。

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第4Turn(1945年3月前半)

ドイツとボヘミアの国境付近、ドレスデンをソ連軍が急襲した。守備隊を撃破したソ連軍はボヘミアに乱入。チェコの首都プラハを占領した。
東プロイセンではケーニヒスベルグに対するソ連軍の総攻撃が始まる。しかし装甲師団4個が籠るケーニヒスベルグの守りは固く、ケーニヒスベルグの守備はびくともしない。その他にダンティヒ、ブレスラウ等に対する攻撃を実施されたが、ドイツ軍の抵抗は激しく、陥落するには至らず。

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第5Turn(1945年3月後半)

このTurn、ソ連軍はブレスラウ、ダンツィヒへ総攻撃を実施。ダンツィヒは持ちこたえたが、ブレスラウは陥落。ザクセン地方に進入したソ連軍がライプツィヒ、ケムニッツ等を占領した。これでソ連軍の獲得したVPは13VPに達し、ソ連軍の勝利条件を満たした。

ドイツ軍プレイヤーとしてもこれ以上の抵抗は無意味と判断し投了。この時点でゲーム終了とした。

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感想

ゲームの勝敗という観点からいえば、今回のドイツ軍の初期配置はベストではなかった(そのことはドイツ軍競技者も認めている)。その結果第1Turnでドイツ軍機械化部隊の大半が包囲されるという結果になり、その後の戦いで戦力不足に苦しむことになる。ただし、歴史再現性からいえば、今回の結果の方が「それっぽい」かもしれない。上記に書いた「姑息な」戦術をドイツ軍が採用すると、ドイツ軍が史実以上に粘れる可能性があるからだ。
なお、ドイツ軍競技者の名誉のために付け加えると、この後第2回戦を同じ配役で戦った。その時は第3Turnまでのプレイであったが、ドイツ軍の「姑息な」防御戦術が奏功し、第3Turn終了段階ではドイツ軍がしっかりと戦線を維持していた。

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ゲームとしての感想であるが、ルールが簡単な点は評価したい。特別ルールの類が少ない点も好感が持てる。 ただしソ連軍の突破ルールがいびつな感じがする。移動力の半分で移動可能、しかもEZOC無視、というのはいくらなんでもやりすぎ、というよりも強引すぎる。しかもそれを防ぐ方法が「弱小なユニットを含めて横一列にユニットを並べること」というのもスマートさに欠ける。例えば最近のシモニッチ作品に見られる「機動強襲ルール」の方が遥かにスマートな処理に思えるのは身贔屓だろうか。

結論を書くと、悪いゲームではないが、ややいびつな処理が気になる作品、としておこう。

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