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(写真)戦艦ウェストバージニア

面白いページを見つけたので紹介する。
スリガオ海峡海戦における米戦艦「ウエストバージニア」のアクションレポート(戦闘詳報)だ。
Wバージニアは同海戦で日本艦隊と交戦し、そのレーダー射撃によって日本戦艦「山城」を撃沈している。
このレポートではWバージニアの行ったレーダー射撃の威力が克明に描かれている。

まず最初に驚かされるのはその命中精度の良さである。
レポートによると、距離約2万メートルからの第1斉射は目標を夾叉し、数発の命中弾を与えたとしている。その後行った計13回の斉射すべてで夾叉を確認し、命中確実4発以上、不確実命中も含めると13発以上の命中弾を与えたとしている。射撃開始後4分にして目標艦から顕著な爆発を観測したとあるから、Wバージニアの射撃は実際に極めて有効であったのだろう。

次に注目したいのは斉射間隔の短さだ。Wバージニアの行った最初の13斉射の平均斉射間隔は約40秒。これはカタログスペックに近い値だ。レーダーによる測距性能が正確なため、殆ど試射を行う必要がなく、従って第1斉射から全力射撃を実施できるということなのだろう(注1)。
これは同時期の日本戦艦による射撃と比較することにより、その優秀性がより顕著になる。
例えば同じ日に行われたサマール沖海戦の場合、日本戦艦「大和」が行った米護衛空母群に対する射撃成績は以下の通りである(最初の交戦のみ)。
 射撃距離=約3万メートル
 射撃時間=約10分
 射撃回数=5斉射(24発)
 命中数 =0

一部に「レーダーは精密部品なので自艦の発砲等による衝撃に耐えられない」という見解があるようだが、本レポートによれば、Wバージニアに搭載されていた2基の射撃管制レーダー(MK8Mod2)はいずれも自艦発砲による悪影響は見られなかった。
またレーダーの観測精度について疑問視する向きもあるようだが、Wバージニアの場合は自艦の射撃による水柱をも困難なく識別できたとある。それも他艦の射撃と混在する中でだ(水柱の大きさの違いによって分別したそうだ)。
要するに当時の米射撃用レーダーの性能は一部の日本人達が期待するほ低いものではないし、その信頼性も一部の日本人達が指摘するような脆弱なものでもないということなのだろう。


あと日本人がとかく気にしがちな散布界についてだが、Wバージニアの例では平均散布界300ヤードとあり、これは同条件下の日本戦艦と比較しても全く遜色ない。

以下はこのレポートを読んでの感想である。
1944年の時点においては、戦艦同士の砲撃戦では最早日本側に勝ち目は殆どないと思う。
特に夜間や悪天候時は言うまでもないだろう。スリガオ海峡海戦でも日本側は殆ど手も足も出なかったが、たとえ戦艦大和をもってしても、優秀な射撃指揮レーダーを有する米戦艦相手に夜間戦闘で勝利を収めることは殆ど不可能ではないだろうか。
昼間の戦闘ならもう少しマシな戦いになるかもしれないが、しかしこちらもかなり分が悪い。
例えば距離2万メートル前後で日米の戦艦が撃ち合ったとしよう。正確な射撃用レーダーを持つ米戦艦は初弾から目標に対して正確な射撃を実施できるだろう。対する日本戦艦は不正確な光学照準に依存するため最初の数斉射は不利な射撃を強いられる。数回の修正の後ようやく日本戦艦の射撃が敵艦を夾叉したとしよう。その時(あるいはそれ以前に夾叉されそうになった時点で)、米戦艦は大きな回避行動を行うことが予想される。そうなった場合、日本側の射撃諸元算出はまた最初からやり直さなければならなくなる。無論米側の射撃諸元も同様にクリアされるが、米側はすぐに正確な射撃諸元を算出し、有効な射撃を実施できるだろう。このような戦いが続く限り両者の撃ち合いは一方的なものとなる。日本側としてはとにかく距離を詰めて初弾命中の可能性を高めるしか勝機はないが、相手が劣速な旧式戦艦ならまだしも、速度性能に優れた新鋭戦艦(特にアイオワ級)相手には簡単には行かない。

「大和対アイオワ、もし戦えば」というようなレポートをよく見かける。米側の研究者はアイオワの優速と射撃レーダーの優秀さを根拠にしてアイオワ有利説を採ることが多い。これは日本側の研究者にとっては不愉快な説であるが、だからといって全くデタラメな説とはいえず、それなりの説得力を持つ識見であることは認めない訳にはいかない。ウエストバージニアのアクションレポートを読んで特にその感を強く持った。

http://www.ibiblio.org/hyperwar/USN/ships/logs/BB/bb48-Surigao.html

(注1)山城の死命を制したのは最初の6斉射で、時間にして4分弱でしかない。 その間、Wバージニアは47発を発射し4発以上の命中を観測した。 命中率8%以上は暗夜の砲撃とは思えない成績である。