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(写真)軽巡Mobile(CL-63)艦上の各種レーダー

米海軍公式レポートに見るレイテ沖海戦(5)


 興味深い史料を見つけました。

 タイトルは「BATTLE EXPERIENCE - BATTLE FOR LEYTE GULF」。訳すると「レイテ湾海戦における戦闘経験」とでもなるのでしょうか?。レイテ戦における米軍の戦訓をまとめた資料だと解釈できるように思います。日付は1945年4月1日ですから、レイテ海戦から半年以内にまとめた資料ということになるのでしょう。そういった意味からは極めて史料性の高い内容だと理解することができます。
 前回は、米軍の射撃技術を追ってみました。今回はレーダーについて考察することにします。


射撃管制用レーダー

スリガオ海峡海戦


1.Mark 8射撃管制用レーダーは現用のどのタイプのレーダーよりも大きく優れていたもので、その結果は議論の必要がないほど満足すべきものであった。

2.戦列艦旗艦のMississippiはMark 8を装備していなかった。MississippiはSGに全面的な信頼を置いていて、それによりCICは戦闘を通じて敵味方の鮮明な画像を表示することができた。しかしSGスクリーン上に現れた2つのグループの輝点の相対的な重要性は明白ではない。また相対位置を常時表伝え続けることもできる訳ではない。

3.Mississipiの射撃開始遅延とPennsylvaniaの射撃失敗は、装備・人員両方に起因している。両艦とも目標識別と満足すべき解析値を得ることに困難を覚えた。Mississipiは最終段階で射撃を行うことができたが、Pennsylbaniaは遂に射撃を実施できなかった。戦列指揮官は、もし両艦がMark 8射撃管制用レーダーを装備していたならば彼女らは他の戦列艦と同様に射撃を実施したであろう、と信じている。

続いてComBatDiv 4のコメントです。BatDiv4(第4戦艦戦隊)は、3隻のColorado級戦艦より編成されていますが、レイテ戦に参加したのはMarylandとWest Virginiaの2艦だけでした。

FH型レーダーを装備した艦がFC型レーダーよりも遥かに優れた性能を持つことが、MarylandとWest Virginiaの間で図らずも実証された。後者は射撃対象となった艦を距離約41,000~42,000ヤードから追跡し、その間目標の方位と距離を完璧に追尾した。それはすぐにでも射撃開始できるほどであった。他方、FCレーダーを搭載したMarylandは、距離22,000ヤードでWest Virginiaが射撃を開始した時、単一の目標を確認できていなかった。最終的にはMarylandの射撃目標となる敵先頭艦は、West Virginiaが射撃を開始した頃に針路を変更し、それによって舷側を見せた敵艦をMarylandの火器管制レーダーが捕捉に成功、それに基づいてMarylandが射撃を開始した、というのは可能性の高いことだと思われる。

水上捜索用及び射撃管制用レーダーは1944年10月24-25日の夜間戦闘でその価値を証明した。West Virginiaが用いた水上捜索レーダーの操作手順は、他のすべての艦船に推奨された。

最後にCTG.77.2のコメントを紹介します。

(前略)。目標は魚雷艇によって早期に発見され、駆逐艦によって追跡された。駆逐艦からは目標の位置を既知の地表物を基準として報告された。それゆえ目標は射撃管制用レーダーによって容易に捕捉され、追跡にさほど困難を感じなかった。

これらの報告を信じるならば、Mark 8型射撃管制レーダーの性能については、大きな問題はなく、満足すべき性能を発揮したものと推測することができます。

エンガノ岬沖海戦

次にエンガノ岬沖で日本水上艦と交戦した米巡洋艦の記録です。

最初にComCruDiv 6のコメントです。

敵巡洋艦の回避運動は大変効果的であり、それは射撃管制班や射撃管制機材にとってまたとないテストの機会を提供した。一般的には機材の性能は満足いくものであった。しかしレーダー管制における距離と方位両面における限界も示された。New Orleansによると、レンジキーパーの問題はとりわけ深刻で、それは方位計測がしばしば偏差するレーダー波によるレーダー走査に依存しているためであった。Wichitaによると、レーダーによる距離計測の良く知られた遅延は、目標を撃沈するのに必要とする時間へ直結した。またWichitaの報告によれば、mark 8レーダーは射撃時の衝撃に対して敏感すぎる。その結果、夜間戦闘における最初の段階では驚くべきほど失望的な結果となってしまった。射撃管制用レーダーの信頼性向上は、重要かつ緊急の要件だとみなされる。

ここではMark 8射撃用レーダーの計測精度や信頼性について必ずしも満足すべきものではなかったことが示されています。もっとも、巡洋艦用と戦艦用とでは、同じマーク番号のレーダーでも性能が異なっている可能性もあります。

次にComCruDiv 13のコメントを紹介します。CruDiv13は、

1.突然かつ急激な運動を行う目標に対して、完全レーダー射撃管制によって目標の速度やコースの変更を決定する場合、大きな誤差、とりわけ方位誤差、が発生する。

2.射撃用レーダーは未だに相変わらず目標を「見失う」可能性があり、それが大量の弾薬消費につながるかもしれないと留意する必要がある。

とのことです。レーダー射撃についても色々な見解があるみたいですね。動きの早い目標に対しては、高性能レーダーをもってしてもなかなか難しい目標のようです。

STATION KEEPING

以下は戦艦Californiaのコメントです。

1.夜間戦闘において、位置保持(station keeping)は明らかに重要な要素であり、SGレーダーによる方位・距離計測が不可欠である。本艦については、単縦陣では前方のSGレーダーのみが位置保持のために利用できた。これについての本当の理由は、後方SGレーダーのアンテナが前方構造体よりも低い位置に取り付けられていて、それゆえに直前方で艦への距離を後方SGレーダーを使って計測することが不可能であったためである。戦闘中、厳格な位置保持要求に応じるため、艦橋からは頻繁に直前方の艦への方位、距離の問い合わせが発せられた。それゆえに前方SGレーダー(主CIC)の使用が位置保持とレーダー位置固定(radar navigation fixe)にために最も実用的な方法となった。後方SGレーダー(補助CIC)は、捜索及び追尾に使用された。この装備は満足すべきものであったが、もっと複雑な戦闘における事象に対する評価機としては不十分なものであろう。

2.もし後部SGレーダーのアンテナをより高い位置にすれば、単縦陣で航行中に補助CICを位置保持のために使用できるであろう。そうすれば前方SGレーダーを捜索・追尾用として使用できるようになる。

レーダーって便利ですね。夜間における艦隊の位置保持にも使えるなんて。

水上捜索

駆逐艦Haggardはこんなことも言っています。

本戦闘に於けるレーダーの価値は大きいものではない。敵水上部隊を友軍の艦船や航空機から分離することはできなかった。敵航空機を最初に発見したのは注意深い見張員による目視確認である。繰り返す。レーダーに過度の信頼を置くことはできない。そして、最終的な解析段階で見張員の絶叫と警戒は未だに主要な手段である。

駆逐艦用の小型レーダーだからレーダー性能が低かったのでしょうか?。
続いて軽巡Denverのコメントです。

レイテ湾海域における捜索レーダーの問題点はとりわけ困難なものであった。地上及び地上のエコーはしばしば敵航空機の奇襲を許し、小型艦船は海岸線に沿って近づくことによりSGレーダーに探知されることなく接近することができた。このような状況にも関らず優秀な対空警戒システムとSKレーダーによる捜索は接近する敵機に対するいくつかの早期警戒警報を発した。

少し本論から外れますが、護衛空母Fanshaw Bayのコメントも紹介しましょう。

1.水上戦闘に続く航空攻撃において、レーダーは殆ど価値がないことを証明した。SKのスクリーンはその時比較的クリアであったが、敵機は我が艦隊の数マイル以内に近づくまで海面上の低高度を接近してきた。彼らはSKで探知されなかった。その一方で1機か2機の低空攻撃機が距離10マイルまでの間に時々SGスクリーンで探知されたが、その経路は散発的であった。彼らを探知するために十分なゲインを設定すると、近傍の艦船からのサイドローブがそのエコーを殆ど消し去り、その結果満足すべきトラックを得ることは殆ど不可能になった。

2.前述の状況から敵は我々のレーダー機材の限界に熟知している、と結論付けることができるだろう。このケースにおける敵の攻撃は、SKレーダーの有効高度より低い高度より接近し、彼がレーダー探知を無視できると認めることができるほど近く、つまり目視可能距離まで接近し、それから自殺攻撃を行うために必要な高度まで上昇するように計画されていた。

CTG77.4はこんなことも言っています。

1.Sangamon級に対するレーダー設備は常に心配の種である。というのも高度10000ftを越えて接近してくる様々な航空機を捕捉できないし、そのためレーダー邀撃の距離は30マイルを越えることはめったにない。その結果として本分遣隊の艦船は他部隊からの報告に依存せざるを得ず、旗艦からの戦闘機誘導は不満足なものであった。艦船は戦闘機を来襲する敵機に向けさせるのに大きな苦労があった。というのも、高度についての情報は推測以上に良いものは何もなかったからである。

[上司らしい人からのコメント]
 SC/SKは君に推測よりも少しましなものを与えるだろう。


なんか今回はレーダーに関して適当に集めた感じになってしまいましたね。
次回は対空射撃についてでも取り上げましょうか?。