イメージ 1

(写真)空母を守って行動する戦艦「ウィスコンシン」。特攻攻撃の激化により米艦隊は新しい対空陣形の構築を余儀なくされた。

米海軍公式レポートに見るレイテ沖海戦(7)


興味深い史料を見つけました。

タイトルは「BATTLE EXPERIENCE - BATTLE FOR LEYTE GULF」。訳すると「レイテ湾海戦における戦闘経験」とでもなるのでしょうか?。レイテ戦における米軍の戦訓をまとめた資料だと解釈できるように思います。日付は1945年4月1日ですから、レイテ海戦から半年以内にまとめた資料ということになるのでしょう。そういった意味からは極めて史料性の高い内容だと理解することができます。

前回は、米軍の対空射撃を追ってみました。今回は米軍の対空陣形について考察することにします。

輪形陣

まずは対空陣形に関する一般的な考察を取り上げます。

1.自殺機の脅威は、空母任務群の対空陣形に新たな考察の必要性を与えた。「陣形5-V」(Disposition 5-V)は、雷撃機に対しては非常に満足すべきものであることを証明したが、一方で急降下爆撃機や緩降下爆撃、さらには自殺機に対しては不十分な防御であることを実証した。

2.敵が1年以上に渡って主要な対艦船攻撃戦術としていた雷撃に対しては、すべての艦船が空母を守るスクリーンとなる「陣形5-V」が、敵機に対して最大火力を発揮できた。

3.しかしマリアナ作戦の時は、日本軍は急降下爆撃および緩降下爆撃に回帰した。それは高高度でスクリーンを突破し、雲から飛び出して高速で空母めがけて降下してきた。そのような攻撃に対しては、スクリーンを構成する各艦は、彼女らの強力な対空火力が空母を守るために実質的に役に立たないことを自覚せざるを得なかった。レイテ作戦では、通常の対空防御陣形の無力さがより明白になってきた。そこでは日本軍は彼らの急降下爆撃をより熱狂的な自殺攻撃という手段に変えてきたからだ。

4.9月におけるフィリピン方面の掃討戦において、Task Force 38の各Task Groupは、雷撃機と急降下爆撃機の両方の脅威に対抗する上で最適なものを見つけるために、「陣形5-V」のいくつかの派生形を試みた。Task Group 38.1では、空母をCircle 2に、巡洋艦、駆逐艦をCircle 7に配置した。この配置は、後にスクリーンをCircle 4に配置するように改められた。

5.Task Group 38.3では、巡航隊形"5-R"(Cruising Disposition 5-R)を使用した。それは駆逐艦をCircle 9に配置し、戦艦及び巡洋艦をCircle 4に配置した。

6.陣形の問題は、未だに流動的な段階である。艦隊の各艦からは様々な提言が寄せられ、最終的な決定は以下の考察に基づいて行われるであろう。
a.最も危険な攻撃形態は何か?
b.どの陣形がその攻撃に対して最大限の火力を発揮することが可能か?。またその陣形では他のタイプの攻撃形態との複合攻撃を受けた時に防御上不必要な弱点を出すことはないか?

7.我々が日本本土に近づくにつれて、敵はより熱狂的に反撃してくるだろう。また、その熱狂性が、彼らの攻撃形態そのものに反映されてくることも間違いない。それは、かつて敵が実施してきた戦術の中では最も危険なものである。それゆえ究極の対空陣形は、それらの攻撃に対して最良の防御を提供するものでなければならない。

8.急降下爆撃機や緩降下爆撃機にとって空母は空母任務群の中では主要な攻撃目標であり、従ってその火力はスクリーン上の他の艦船によって補完されなければならない。スクリーンから戦艦や巡洋艦のような大型艦を持ち込むことはこの目的に合致したものである。しかしそこには深刻な問題もある。射撃範囲は、外周部の駆逐艦の存在によって制約される。そして駆逐艦は非常に希薄に配置されているので、敵機の雷撃から数多くの重要な艦船を守るために殆ど価値がない。

9.急降下爆撃機や緩降下爆撃機の脅威に対抗するために、スクリーン全部を密集させることにより敵機を大型艦の自動火器の射程内に引き寄せるようなプランが開発されることになるかも知れない。これは、空母上に降下してくる敵機に対して射撃を集中するために、スクリーン上の艦艇をCircle 4に配置して空母をCircle 2.5に配置するか、またはスクリーン上の艦艇をCircle 5に配置して空母をCircle 3.5に配置することになるかもしれない。雷撃機に対抗するために、最小限の混乱でスクリーンをCircle 5まで拡張することができた。

とまあ、長々と紹介してきました。ここで着目したいのは、彼らの対空陣形が雷撃機相手にはほぼ完成された形になっていたということ。そして日本側がその攻撃手段を雷撃から急降下爆撃、あるいは特攻攻撃に変更していくにつれて、対空陣形の再構成を余儀なくされていくのがわかります。
雷撃に対する効果という点から考察すると、日本軍はブーゲンビル、マリアナの戦いで大規模な昼間雷撃を米空母部隊に対して行い、そして失敗しました。そういった意味から言えば、彼らの雷撃阻止に対する自信は確かに裏づけがあったといえます。
一方、急降下爆撃に対しては、マリアナでも「バンカーヒル」「ワスプ」の2艦が急降下爆撃による至近弾を浴びて損傷していたし、レイテ戦では「プリンストン」が撃沈されてしまいました。彼らにとって少数機による急降下爆撃、あるいは新しい脅威となった特攻対策がクローズアップされてきたのでしょう。

もう1点、米軍の対空陣形の広さにも着目したいです。
上記の資料が示す所によれば、米空母群は2重乃至3重の輪形陣を構成し、その大きさは、外周部が半径4000ydから最大9000yd、内周部が半径2500yd~4000ydです。これを同時期の日本艦隊と比べると、シブヤン海海戦での栗田艦隊は2重の輪形陣を2個構成し、それぞれ内周部は半径2km、外周部は3.5kmでした。我々の印象だと「日本艦隊は疎開度の大きな陣形」「米艦隊は凝縮度の大きい陣形」という印象があるのですが、そう単純なものではないようです。

他のコメントもいくつか紹介します。まず戦艦Alabamaです。

2.外周駆逐艦への誤射の危険は心理的な障害となり対空火力の減少を引き起こした。特に夜間にレーダー管制で射撃を行う場合は顕著である。もし駆逐艦群が同じ円周上に位置していたなら、対空火力は著しく増加するだろう。確かに駆逐艦を外周に配置することは、日本軍の雷撃機に対して距離的な余裕を提供するかもしれない。しかしその僅かな空間の確保は日本軍の45ノット長距離魚雷に対しては気休めに過ぎない。

これは少し追記が必要でしょう。上記ではAlabamaは輪形陣の内周に位置し、その外周1500ydに駆逐艦群を配する陣形について論評しています。実際には駆逐艦群は距離5000yd離れて配置されていました。
それにしても「日本軍の45ノット長距離魚雷(Japanese long-range 45-knot torpedo)」と書かれていますが、酸素魚雷と航空魚雷を混同していたのかもしれません。

次に重巡Bostonのコメントです。

1.第2次及び第3次攻撃の際にTask Group 38.1が構成した「陣形5-V」では、巡洋艦と駆逐艦が3000ydの円周上に、空母1隻が円周中心に、そして残りの3隻の空母が2000ydの円周上に位置した。これは、巡洋艦群と駆逐艦群の両方からの空母に対する効果的な火力支援を行うためには、開き過ぎであったと思われる。それは空母を急降下爆撃する敵機が外周スクリーンから6000-7000ヤード以下の距離においても射撃を受けずに接近できるという事実から証明された。

3.これらの戦闘の後、Task Groupの指揮官は、「陣形5-V」を以下のように変更した。巡洋艦と駆逐艦を4000ydの円周上に、空母1隻を円の中心に、他の空母3隻を2000又は3000ydの位置に配置した。これは空母に対する航空攻撃の際、より効果的な火力支援を得られる陣形であることが明白であった。

次に軽巡Mobileのコメントです。Mobileは台湾沖航空戦でAlabamaと同じ空母群に所属していました。

「特別巡航隊形5-R」は本作戦で使用された。これは駆逐艦群をCircle 9に配置し、大型艦をCircle 4に配置した。対空陣形として規定されている駆逐艦群をCircle 5.5に、大型艦をCircle 4に配置する方法は採用されなかった。この方式は低空攻撃機に対しては効果的であった。その一方で、夜間、スクリーン内側に位置する大型艦の火器を遮蔽しないという観点から大きな問題を示した。

夜間における陣形変更

対空陣形とは少し違う話ですが、夜間における陣形変更について、第6巡洋艦戦隊が面白いコメントを残しています。

10月25日早朝におけるTask Force34の陣形構成は、夜間における大型陣形構成の困難さ、あるいは少なくとも長時間を要するということを明らかにした。Task Force38に所属する様々なTask Groupから抽出された艦船が、Task Force 34内でそれぞれ適切な位置を占めるまでに要した時間は、約2時間30分であった。この間もし敵水上部隊と接触したならば、我々の部隊は大きなハンディキャップを背負うことになったであろう。しかしながら、実は夜間における大部隊の陣形変更の困難さは考慮の中にあり、Task Force34は、敵と接触とするまでに大量の準備時間を以って構成するよう命じられた、のかもしれない。しかし以下の注意を与えることはできる。すなわち、夜間において敵水上部隊と接触する可能性について妥当な理由が存在している場合、夜間に先立って大量の戦艦、巡洋艦及び駆逐艦をそれぞれ個別のグループに分割し、展開を自由にし、短い通知で敵を攻撃できるようにすべきである。

[上官の見解]
巡航隊形への要求は、接近、接触、及び戦闘隊形へ即座に移行することである。

防空軽巡

最後に防空軽巡の運用について、軽巡San Diegoのコメントを紹介します。

Atlanta級軽巡をスクリーンとして使用する場合、「大きすぎる駆逐艦」のように感じ、そのように扱われていたのかも知れない。艦長は、本級の運動特性は他の巡洋艦と類似していること指摘するよう希望する。

だそうです。だから今後は防空軽巡を「大きすぎる駆逐艦」として扱うのはやめましょう(笑)。

次回は米軍の航空攻撃について紹介します。