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(写真1)空母艦上で爆弾の搭載作業を行うSB2C
(写真2)シブヤン海海戦で爆撃を受けている「大和」型戦艦

米海軍公式レポートに見るレイテ沖海戦(8)


興味深い史料を見つけました。

タイトルは「BATTLE EXPERIENCE - BATTLE FOR LEYTE GULF」。訳すると「レイテ湾海戦における戦闘経験」とでもなるのでしょうか?。レイテ戦における米軍の戦訓をまとめた資料だと解釈できるように思います。日付は1945年4月1日ですから、レイテ海戦から半年以内にまとめた資料ということになるのでしょう。そういった意味からは極めて史料性の高い内容だと理解することができます。

前回は、米軍の対空陣形について考察しました。今回は米軍の航空攻撃について考察することにします。

対艦攻撃用兵器

本海戦は米海軍空母艦載機が日本の大型戦闘艦に対して初めて本格的な航空攻撃を実施した戦いです。10隻以上の高速空母、1000機以上の艦載機を有する米高速空母部隊の打撃力は圧倒的なように思え、日本の水上部隊を無力化することなどは一見容易な仕事にも思えます。しかし彼らはこの海戦で空母による対大型艦攻撃の限界を思い知らされことになります。

< 空母Hornet >
10月25日、26日における艦隊行動の結果は、日本軍の戦艦に対して効果のある航空兵器が1600lb以上の徹甲爆弾か魚雷だけであることを実証した。500lb爆弾を搭載した雷撃機は殆ど効果がなかった。また1000lbGP弾は対空火器を制圧し上構にいくらかの損害を与えた。またGP弾は着弾時に爆発する傾向があり、確認できる命中数を減らすことが認められている。

< CTF38 >
1.AP爆弾に関する貫通表によると、急降下爆撃時にはわずかに約3インチの装甲を貫通できるだけであった。それゆえそれらは戦艦に対しては小さな打撃しか与えられなかった。実際、今回の戦闘で戦艦相手に使用されたすべての爆弾はAP又はSAPであり、それらは装甲板によって阻まれ、そのためGP弾に匹敵する効果は得られなかったと信じられている。瞬発信管付爆弾を入手すべきである。
2.内部に損害を引き起こして船底に穴を開けるために必要な貫通力を得るためには、ある種のロケット弾が必要である。1000lbAP爆弾に匹敵する大型ロケットを可能な限り速やかに開発すべきである。現用の艦艇が装備するすべての装甲板を貫通できるロケット弾が、航空機用の次の兵器であると信じる。

< 空母Enterprise >
大和級戦艦に対して投下された8本の魚雷は12フィートに設定されていた。これは大和級相手にしては恐らく浅すぎる設定であった。翌日は16フィートの設定で空母、軽空母、そして伊勢級戦艦に対して使用され、より大きな効果を上げた。

< ComBatDiv 9 >
1.今回の一連の戦闘は、航空戦力の潜在能力を完璧に実証した。言い方を変えれば、十分な装甲や十分に防護された敵部隊に対する航空戦力の非力さを立証した。1944年11月5日にUSS"Lexington"の艦載機によってマニラ湾で撃沈された那智級巡洋艦はその一例である。最初の攻撃は艦を無力化した。2回目の攻撃終了後、彼女は激しく後部から炎上していた。しかし彼女は航行不能になった後、3本の魚雷攻撃を受けた後に2つに分かれて沈没した。10月24日午後の攻撃は敵がサンベルナルディノ海峡を通過して外洋に出るのを阻止するためのものであった。しかしこれは失敗した。それは我々の勇敢なCVEグループによる絶え間ない攻撃によって達成された。

< CTF 38 >
1.通常、例えばルソン東方海戦のような空母戦闘にて敵戦闘艦を攻撃する場合、空母と巡洋艦は戦艦を攻撃するのに先立って爆撃、雷撃、そして撃沈されるべきである。この目標優先順位は攻撃前にCTF38によって明示されていた。また爆弾や魚雷よりもロケット弾や機銃掃射の方が有効な駆逐艦に対する攻撃は厳禁されていた。戦艦は他の戦艦以外には殆ど阻止することが不可能である。多くの艦船が我々の攻撃により大きな損害を受けながらも沈没を免れて逃亡したのは、あまりに多くの努力が戦艦に対して費やされたからである。
2.上記ルールの例外は、10月24日に敵水上部隊がスリガオ海峡とサンベルナルディノ海峡に接近してきた時である。この状況下では、敵戦艦に対して速度を落としたり、その射撃管制装置に損傷を与えるために、戦艦に対して最大限の努力を傾注すべきである。

< CTG38.3 >
1.10月24日,25日に敵戦艦に対して使用された我々の爆弾と魚雷の性能は失望的でった。日本の艦船は考えていた以上に頑丈であるか、あるいは我々の爆弾や魚雷が日本の大型艦に対して十分に有効ではないか、のいずれかである。
2.日本戦艦に対する魚雷の深度設定は10フィートと20フィートの複合であった。10月24日の戦闘で、魚雷3本が1隻に、4本が他の1隻に命中したが、両方とも停止させることはできなかった。25日には2隻の伊勢級"XCV"が合わせて9本の魚雷を受けたにも関わらず、未だに20ノットで航行可能であった。
3.そこで魚雷をより効果的なものにするために爆薬を強化することを推奨する。このために魚雷の射程距離が短くなったとしても、航空魚雷の射程距離は3000ヤードで十分だと思える。

とまあ、空母群の側から見た場合、「あれだけ命中させたにも関わらず日本側に大きな損害を与えられなかった(やられた側から見れば散々な目に会っているのですが・・・)のは、日本艦が頑丈すぎるのか、あるいは我々の爆弾・魚雷に欠陥があるのか、いずれかである」ということになりそうです。

しかし米パイロット達が報じた命中数はかなり誇大に報告されているのも事実です。

< ComBatDiv 9 >
我々のパイロット達が艦が炎上し操舵不能になったと報告することは驚くべきことではない。彼らは目標エリアに長時間滞在することはできない。彼らは攻撃を実行し、それから可能な限り速やかに危険地帯を離脱する。例えば経験豊かな観察者であっても、艦上から立ち昇る煙を本物の炎上によるものなのか、あるいは重対空火器の射撃によるもののなのかを区別する際には困難を伴う。我々のパイロット達の大半は若く、そしてその見たままのことを報告したり攻撃後にそれらの煙が彼ら自身の攻撃によって引き起こされたと信じることは極めて自然なことである。
敵巡洋艦や戦艦は、推進装置や機関部といった致命的な箇所に命中を受けない限り、2乃至3発の魚雷や数発の爆弾で無力化できるとは信じられない。我々自身の戦艦や巡洋艦も同様に致命部に命中を受けない限り無力化されない。そして敵魚雷は我々よりも大きな炸薬を搭載することが知られている。これは航空戦力の威力を減らすものではない。しかしこれは事実であり重視されるべきことである。その一方で我々自身の水上戦闘艦は、レイテ湾南部から進入してきた敵艦隊に対して短い仕事を行い、その戦闘で我々は殆ど損害を受けなかった。それゆえ可能な場合は、我々の装甲艦は敵装甲艦を沈めるために使用されるべきである。

戦艦群の側から見た場合「飛行機屋の報告はアテにならない」「戦艦は戦艦で沈めるべきである」ということになりそうですね。

戦闘評価

航空攻撃について別の観点から考えてみたいと思います。それは戦闘評価についてです。

この公報の序文で述べられているように、日本人達は、東京が早くから主張していた彼らの飛行士達が台湾東方で我々の艦隊に大打撃を与えたということを、本心から信じていたようである。

< CTF 38 >
1.敵は航空戦闘の報告により明らかに間違った方向へ誘導され、彼らが我が艦隊に対して大きな打撃を与えたと信じた。

2.米太平洋艦隊司令長官は、太平洋艦隊秘密文書(Pacific Fleet Secret Letter) ISL-44の中で、航空攻撃によって与えた打撃の評価は未だに困難で、かつエラーの余地がある、と述べている。次の抜粋は下に引用されている。

(戦争初期のマーシャル攻撃時における米軍の過大な戦果報告が引用されている)

12.これは、関与した指揮官や参加者に対する非難ではなく、信頼に基づいて作成された評価結果と後に検証された冷徹な事実との間に存在する可能性のある大きな差異を示すという意味で引用されている。先の戦闘以来、評価に関する大きな改良は行われてきた。しかし航空攻撃によって与えた損害に関する評価は未だに困難であり、以下の理由によってエラーになりやすい。

a.命中を受けた又は命中を受けたとされる艦の最期を見届けることができないという航空攻撃固有の性質

b.攻撃に参加し報告してきた航空機の数に伴う観測と命中数や撃沈数の重複

c.命中弾に対する過剰評価。艦上で大きな爆発があり、それでも沈没せずに基地へ帰還することもある。

d.至近弾に対する過剰評価。至近弾でも(それが十分に「至近」であれば)顕著な損害を与えることができるが、至近弾を宣言するのに寛大である傾向がある。

e.命中弾を受けた艦船での火災や煙に対する過剰評価。小さな、そして無害な火災でも大量の煙を生じる可能性がある。さらにいえば、艦首から艦尾まで炎に包まれた艦船が、それにも関わらず生還したという事例は大量に存在する。

f.艦船の「座礁して沈没」に対する過剰評価。命中弾を受けた艦船について損害の範囲が不明確な場合、彼女が攻撃が終わるまで浅い海に移動して軽く座礁することは全く論理的である。これは決して彼女の完全な損失を意味しない。

g.大多数のパイロットにとって艦船は身近な存在ではないこと。それは目標の種類や大きさを識別したり、損害の深刻さや沈没の可能性を評価する際にハンデとなる。

13.上記の要素はすべて考慮する必要がある。そして彼らが引き起こすエラーを最小にしようと努力しなければならない。これらのエラーは我々自身の戦術、戦略上の妨げとなり、さらには敵の利益につながるからである。

次回は護衛空母について紹介します。