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(写真)地上発射型トマホークミサイル。トマホークのような中距離核戦力は、限定核戦争という新しいシナリオを生み出した。

第3次欧州大戦は核戦争に発展しえたか?


今は昔の話になってしまいましたが、あの冷戦時代では米ソ両国が「東側陣営」「西側陣営」ということでそれぞれ縄張りを張って争っていました。その最前線の1つが今や統一されてしまった東西ドイツ国境です。

「ワルシャワ条約機構軍、西ドイツ国境に侵攻す」

このネタは、ゲーム業界のみならず、出版業界や映画等、様々なメディアにとっての「格好のネタ」になっていたのです。

さてさて、現実にこのような「悲劇」が起こらなかったことは我々に取っても大変目出度いことなのですが、私にとって気になるのは、

「もし第3次欧州大戦が勃発した場合、それは核戦争に発展し得たか?」

ということです。

この点について有識者の間でも定説はないようで、例えばハケット将軍の「第3次世界大戦」では数発の核弾頭による応酬があって、それがキッカケでソ連が崩壊。トムクランシーの「吹き荒れた赤い暴風」では確か通常戦争に終始していたような・・・。あるいは一部では「ソ連が先制核攻撃をおっ始めてそのまま全面戦争に雪崩れ込み」というような悪夢のようなシナリオもあり、あるいは佐藤大輔氏の某作品のように「ソ連の先制攻撃で米国が壊滅」というネタも必ずしも珍しくないような・・・・。

とまあ、様々な説が飛び交った「平和な時代」だった訳ですが、ではでは実際の所、どうなんでしょうね?。と考えて見るのも悪いことではありますまい。

シナリオ1、最初から派手に行こうぜ

最悪のシナリオです。ソ連(別に米が先に仕掛けても良いのですが、大概悪者は「赤」なので・・・)が「いっちょ派手にやったろかい」とばかりに西側陣営の軍事施設や人口密集地域に向けて数百発の核ミサイルを撃ち込むというパターンです。当然ながら、このような攻撃は米英仏による報復攻撃を引き起こし(地上基地は壊滅しても、彼らには潜水艦があります)、この地上から文明というものは崩壊するでしょう。死者の数は億単位から数十億単位にも及び、ひょっとしたら人類は全滅するかもしれません。

考えるだけでも恐ろしい話なのですが、ある意味一番可能性の高かったシナリオかも知れません(あな恐ろしや)。当然ながら米ソ両国はそのような事態は「ありうる事態」として想定に入れて軍や国家体制を整備してきているでしょう(それがかかる事態でどの程度有効に機能し得たかは永遠の謎ですが・・・)。

しかしそのような事態では、最早欧州大陸における地上戦闘に果たしてどんな意味があるのでしょうが。ワルシャワ条約軍「作戦機動群」による華麗な機甲突破に対し、西側諸国が「エアランドバトル」で対抗する。このようなある意味「戦争芸術」も、想像力を絶する巨大なメガトン級水素爆弾の前に果たして意味があるのでしょうか・・・?。

でもこのあたり、あまりゲーム化されていないので、ゲーム化してみたいテーマではあります。米国は、仮にこのような事態が勃発した場合も、オンステーションにあるソ連海軍核ミサイル搭載潜水艦の全てをミサイル発射前に撃沈できる自信を持っていたとか・・・。彼らの自信がただのホラ話がどうかは、ゲームという世界で試してみたい気がしますね(うーん危ないなあ・・・)。


シナリオ2、最初はちょぼちょぼと、後から派手に

最初は通常戦争から始まって、次第にエスカーレーションしていき、最後は核ミサイルの打ち合いになる、というシナリオです。ウォーゲームでこのテーマを扱った場合、ダイスが悪いとこのパターンになってしまいますね(笑)。ちなみにこのパターンでは大抵「核戦争の引き金を引いた方が負け」という勝利条件になっているのですけど、核戦争が始まっちゃったら、勝ちも負けもないような気がするのですが・・・・。

この場合、気になるのはどちらが核の引き金を最初に引くかです。多くの場合、WP機甲軍の圧倒的な機甲突破を前に、通常戦力での阻止に限界を感じたNATO軍指揮官が、戦術核弾頭によって事態の打開を図ろうとして最初の1発を撃ってしまう、というパターンになるみたいですね。しかしこのパターンで疑問を感じる点は、NATO軍指揮官が自国領内での核使用を是とするか、という点です。目標となるWP軍集結地域は当然西ドイツ領内になります。そこには逃げ遅れた自国民もいるでしょう。そのような場所に果たして核兵器を撃ち込む事ができるのか・・・?

 「軍事行動に犠牲はつきものだ。彼らのことは考えなくて良い」

と割り切れる人がいたら、撃っちゃうかもしれませんね(笑)。


シナリオ3、あなたの家には撃ちませんから

シナリオ1の変形です。ソ連側からの先制核攻撃は変わりませんが、その時使用のは中短距離核のみ。目標も米国本土ではなく、欧州やその他西側諸国(当然日本も含む)のだけに絞ります。攻撃目標も軍事目標に重点を絞り、都市部に対する攻撃は可能な限り避けるというパターンです。

1980年代に入って、トマホーク、パーシングやSS-20といった着弾精度の高いINF(中距離核戦力)が広く展開するに至ってかなり説得力を持ってきた見解です。このやり方だと米としても反応に困っちゃいますね。

「我が同盟国に対する核攻撃はすべて我が国に対する核攻撃とみなす」

などと息巻いても、仮に米が全面報復に近い反応を示したら、今度はニューヨークやロサンゼルスが蒸発することになるかもしれません。そのような危険を果たして米国が犯すか否か。「柔軟対応戦略」というある意味「軟弱な」戦略と取りつつあった米国に対し、いわゆる「欧州限定核戦争」という考え方は興味深いものがあります。

でも人間って理性ではなく感情の動物なんですよね。いくら理論的に優れた戦略でも、相手が「ぶち切れた」らどうしようもありません。さらにその相手が「逆ギレ」しちゃったら、事態は赤、いや悪化するだけです。「限定核戦争」と都合の良いコトを称していても、結局は「ICBMの飛び交う素敵な世界」になっちゃうのかなあ・・・。


シナリオ4、海の上には穴は空きませんよ

旧ソ連にとって忌々しいのは米国の空母機動部隊です。こいつらは海上を30ノットで走り回り、自由気ままに祖国の沿岸に接近。場合によっては核をも含む強力な攻撃力を祖国に対して向けることができます。しかもこいつらは洋上にいる限り、ICBMやIRBMといった核ミサイルをもってしても撃破するのが困難な目標です。

その一方、米大型空母というのは戦術核ミサイルにとっては格好の「餌」なんですよね。マトが大きいから外し難い。それに通常弾頭では10発以上当てないと無力化できないこの洋上要塞も、戦術核ミサイルを使えば恐らく1発で無力化できます(いや、ひょっとしたら1発ぐらいなら耐えちゃうかも・・・・)。さらに都合の良いことに、海の上には「穴が空きません」。つまり証拠が残らないということです。民間人が死ぬこともありません。放射能障害に苦しむ兵士については、「空母の原子炉から放射能が漏れたんでしょ」とでもシラを切ればよろしいかと・・・。

ましてや水中戦なら核魚雷使おうが、核ミサイル使おうが誰も知ったこっちゃない。第一、原子炉抱えた潜水艦が数十隻単位で走り回っていて、そこらで魚雷やアスロック食らって「ボコボコ」と沈没していくのですから、放射能の問題も「気にする段階ではない」ようにも思えてきます。

という訳で「核戦争は海に限定」というのもひょっとしたら「あり」かな?。


シナリオ5、やっぱり戦車が好き

これは一番平和かつ我々にとって望ましいケースです。WP軍が大規模な機甲兵力で東西ドイツ国境を突破。NATO軍は圧倒的なWP戦車群に苦戦を強いられながらも航空兵力や米国からの増援部隊を頼りに戦い続けるというシナリオです。戦闘は通常兵器レベルに終始し、我々の「大好きな」イーグル、レオパルド、アパッチ、トムキャット、ニミッツ、フランカー・・・といった「スーパーウェポン」達が所狭しと駆け回るパターンです。いやー、気持ち良いですね(笑)。

ある意味「あまりに楽天的な」と思われるこのシナリオ。ただこの説に対する裏づけとしては、1945年8月9日以降、我々は実戦で核兵器を使っていないのですよね。例えばあの朝鮮戦争の時、マッカーサーは何度も核使用許可を本国に求めましたが、米本国はそれを認めませんでした。あの時期、核戦力は米が他国を圧しており、空軍力においても米国が優位を占めていました。核兵器の総量や破壊力も今よりは遥かに小さく、少なくとも「全人類を数十回皆殺しにできる」程の量ではなかったはずです。そのような状況下でも核を使用しなかったということは、「核の敷居」は案外高かったのかも知れません(やっぱり楽観的かな?)。

そういえば毒ガス

我々にとってもう1つ気になるのは化学兵器の存在です。核についてはタブー視する傾向の強いゲーム業界も、化学兵器ついては割りと無頓着で、例えばSPIの「セントラルフロント」シリーズではWP軍は毒ガス攻撃を行うことで3コラムシフトを得(まるで「リング・オブ・ファイヤ」の対要塞砲撃じゃ)、VGの「NATO」では毒ガス攻撃でNATO軍の航空戦力半減といった感じです。極めつけはGDWの「サードワールドウォー」で、デザイナーズノートによると「化学兵器使用は当然過ぎることなのであえてルール化しなかった」とか・・・。
しかし化学兵器戦力で東側に劣る西側諸国の場合、毒ガスの応酬となれば不利なことは否めません。そうなると化学兵器に対する報復手段として戦術核の使用。そして行き着く先は「ICBMの飛び交う素敵な世界」って、おーい、結局オチは同じかい。