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海上護衛戦 大井篤

太平洋戦争終戦直後、当時の東久邇宮内閣は、太平洋戦争の敗因のうち最も根本的なものは船舶の喪失と激減にあった、ことを明らかにしました。また米国戦略爆撃調査団はその報告書の中で「日本の経済及び陸海軍力の補給を破壊した諸要素のうち、単一のものとしては、船舶に対する攻撃が、恐らく、最も決定的なものであった」としています。奇しくも日米双方が太平洋戦争における日本商船隊の壊滅が戦局を左右する最も重要な要素であったことを認めた形になったのです。
本書は太平洋戦争時における日本商船隊の戦いを綴った著作です。筆者の大井氏は戦争後期に海上護衛総司令部参謀を務めた人物で、戦後派GHQ戦史課に勤務していました。本書は筆者の豊富な経験と調査に裏付けられた著作で、海上護衛戦というものを語る際になくてはならない1作だと言えましょう。これほどの名著が戦後僅か8年(本書の初版は昭和28年)で出版されたということは驚くべきことです。
本書を読めば、海上護衛戦における日本海軍の失敗が、単に国力の違いや技術力の差に留まらないものがあったことを気づかせてくれます。例えば日本海軍において海上護衛を専門とする部隊が編成されたのは昭和17年のことですが、その兵力は旧式駆逐艦、水雷艇、特設砲艦等計24隻に過ぎません。また日本海軍が輸送船団方式を採用したのは実に昭和19年トラック空襲の後であり、それ以前は商船は単独航行を行うか、あるいはせいぜい数隻の輸送船に護衛の海防艦がたった1隻という状態で運行していたのです。これでは国力がどうとか、テクノロジーがどうとかいった以前の問題でしょう。

それにしても当時の日本海軍のなんと愚かなことか・・・・、

台湾沖航空戦での大勝利に浮かれる聯合艦隊は、海上護衛隊の海防艦に対して米機動部隊に対する「追撃戦」を命じたという。狂気の沙汰である

大和の沖縄特攻に使われた数千トンの燃料は、海上護衛隊のストックから捻出されたものだった。この数千トンの燃料があれば、本土近海の対潜戦にどれほど役に立ったかわからない、と筆者は慨歎する。

太平洋戦争を考える際、一度は読んでおきたい著作だと思います。

お奨め度★★★★★