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「パットン第3軍」の魅力

普段陸戦ゲームをあまりプレイしない私ですが、先日プレイした「パットン第3軍」(CMJ#81)は久しぶりに「傑作」だと感じたゲームでした。
何故そう感じたのか。一言でいえば
「再現性と競技性が高いレベルで融合されている」
という点にあります。あるいは
「再現性と競技性が高いレベルで融合されている、ように感じることができた」
と言い換えることができるかもしれません。

私がSLGを愛好する理由の1つに「当時の軍事状況を実感できる」点があります。しかしながら長い間このホビーに関ってくると、左記の感想が実の所幻想に過ぎないことがわかってきました。どんなに趣向を凝らしても、駒と地図だけで当時の指揮官と同じ立場に立つことは不可能なのです。

しかし「当時の軍事状況を実感できる」ことはなくても「当時の軍事状況を実感できたと感じさせてくれる」こと、つまり「幻想」を与えてくれることは可能ではないのか。そう思えてくるようになりました。ゲーム的に作られた箱庭の中ではなく、当時の軍事状況を正確に再現した地図の上で、当時の軍事状況を正しく再現した駒とルールによって、当時の軍事的状況を正しく再現する。それがたとえ幻想に過ぎなくても、そのような一時を与えてくれるゲームはないものだろうか。そう思っていた私にとって「パットン第3軍」はそのような幻想を与えてくれる作品のように感じました。
兵力・装備に優越しながらも雨と泥の中を悪戦苦闘しながら前進する米軍部隊。砲兵部隊の重要性と諸兵科連合効果の意義。粘り強く抵抗する歴戦のドイツ軍部隊。戦ってみなければわからない部隊の戦力。やがて訪れる攻勢限界線。「パットン第3軍」の盤上で繰り広げられる数々のドラマは、「たぶんメッツ戦ってこんな感じだったのだろうな」と思わせてくれる何かがあります。

またゲーム展開についても、特別ルールの類で縛るのではなく、地形やユニット、さらには天候等によって自然と史実に近い展開に誘導されていく点も評価したいです。
我々は歴史書を読むことによって
「いつどこで何が起こったのか」
については比較的容易に知ることができます。しかし
「何故そのようなことが起こったのか」
という問いかけに対して歴史書は必ずしも答えてはくれません。
良いシミュレーションゲームは
「何故そのようなことが起こったのか」
という問いかけに対し、歴史書を読むだけでは得られない何かを答えてくれます。
この「パットン第3軍」においてもしかり。なぜ米軍が南翼からの攻撃を重視したのか。なぜ米軍の攻撃がモランジェ前面で阻止されたのか。なぜ米第20軍団はメッツ市を包囲・占領する必要があったのか。等等といった問いかけに対し、「パットン第3軍」をプレイするプレイヤーはそこに何らかの答を見い出すことができるはずです。

最近は競技性優位のゲームがもてはやされる傾向があるように思います。SLGの競技性を否定するつもりは全くありません。しかし競技性を重視するあまりにSLGにおける軍事的な再現性がややおざなりにされているのではないか。時折そう感じることがあります。当時の軍事的な状況や可能性を殆ど顧みず、ただ競技性のみを重視してデザインされたゲームたち。当時の軍事的な制約を無視して、ただ競技性のみを重視して組み立てられたゲームシステム。繰り返しになりますがSLGの競技性重視を否定するつもりは全くありませんが、時にはSLGの再現性にも目を向けてみても良いのではないか。そう思うことがあります。

ちなみに「パットン第3軍」の競技性についてですが、このゲームは少なくとも私にとっては十分楽しいゲームでした。決して「なるようにしかならない」ゲームではなく、両軍とも死力を尽くして戦う面白さはありました。テーマが地味な陣地戦なので派手な展開はあまり期待できないし、「相手の裏をかく」ような展開もないかもしれません。しかしその地味さが逆にリアルさを感じさせてくれるから不思議です。

個人的な感想なのですが、今まで国際通信社は旧SPIの作品に対してやや冷淡であったような印象を受けることがあります。しかし今後は旧SPIの傑作ゲームをどんどん再販して頂ければ嬉しいな。そう思いました。