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軍閥興亡史

伊藤正徳 光人社NF文庫

日本の軍閥といってもやや漠然としているが、本書は明治維新から始まり、太平洋戦争開戦に至るまでの日本陸海軍、中でも日本陸軍の動きを追ったノンフィクションである。従来の戦史とは異なり、本書は戦場での動きを追うのではなく、軍と政治、外交との関係を追っているのが特徴である。原作が昭和30年代前半と古いので、現在の視点から見れば正確性に欠ける面があるかもしれない。しかし日本軍という組織が日本の政治、外交に与えた功罪を包括的に捉えた点で本書は未だに貴重な著作といえる。
本書を読んで一番印象の残ったのは、1930年代における満州事変、日支事変を引き起こした軍部の暴走についてである。自らの主義、主張を通すために暴力的手段によって政治に介入した日本陸軍。その行動自体許せない思いが禁じえない。しかし真に重要な点は、これらの行動が若手将校の所謂「正義感」から引き起こされたという事実だろう。なぜこのようなことが起こってしまったのか?。未成熟な民主主義、教育の問題、熱しやすく冷めやすい国民性、外国の侵略を受けたことがないという純粋性等等。近年での我が国における政治の動きを見るにつけ、潜在的な危険性は未だ残っていると言わざるを得ない。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
本書を読んでそのように感じた。

お奨め度★★★★