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メルトダウン

大鹿靖明 講談社

2011年3月11日、未曽有の大地震が東日本一帯を襲った。東日本大震災である。この時の地震と津波の影響により東京電力福島第1原子力発電所は電源喪失の事態となり、冷却機能を失った原子炉は次々と炉心融解(メルトダウン)を引き起こした。世界最大規模の原子力災害となった福島第1原発事故である。
本書は地震発生及び津波による被害発生から電力喪失、炉心融解に至る事故の過程を追い、地震発生後1週間における福島第1原発と東京電力、そして日本政府の動きを明らかにしている。また本書は地震直後の状況のみならず、事故発生後の東電再生やエネルギー政策の推移、さらには大飯原発再稼働問題まで話を広げている。本書を読むと、地震発生後の東電及び日本政府の混乱した状況や東電の体質的欠陥が明らかになり、福島原発事故が単なる天災というよりは人災の面を強く持っていたことがわかる。
本書を書いた大鹿氏は朝日新聞系のライターなので、どちらかといえば「反原発」の姿勢が強い。しかし筆致は全般的に中立的な視線を保っており、その点は好感を持てる。ただ(これは好みの問題だが)福島原発の現場に関する記述が事故直後およそ1週間(自衛隊機による空中放水とその後の自衛隊、消防庁による地上からの放水まで)に限定している点、やや残念だ。一般に「危機を脱した」と認識された事故後1週間後以降について、もう少し詳しく知りたいと思った。
原発については賛否両論があり、国民的な合意形成はできていないと思う。私個人についていえば、事故前は原発推進派であった。しかし事故によりいわゆる「原発安全神話」が崩壊し、個人的な考え方も変えなければならないと思っている。勿論左翼的な「反原発運動」に与するつもりは毛頭ない。しかし東京電力を始めとする電力各社の時代錯誤的な体質や政府の無策ぶりを見るにつけ、原子力という「危ういエネルギー」をこんな人達に委ねるのは「危うい」と感じている。「原発を直ちにゼロ」というのは現実的な解とは思えないが、原発への依存度は減らしていく必要があるだろう。

お奨め度★★★★