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Task ForceはSPI社が1981年に発表したシミュレーションゲームである。テーマは1980年代の海上戦闘で、1Turn=2時間、1Hex=25海里、1ユニットは艦船1隻、航空機1個中隊(約10機)を表わす。ゲームの設定では一応1985年となっているが、今から思えばキーロフ級やオスカー級といった艦船が出てこないとか、F/A-18が出てこないとか、イージス艦が出てこないとかあるので、1980年前後の方がしっくりくる。デザイナーはJ.M.バルコスキー。後に本作の発展形であるFleetシリーズ(VG)をデザインし、好評を博した。

イメージ 5本作の特徴はダブルブラインド方式を採用していることだ。両プレイヤーが1枚ずつマップを持ち、お互いを見えなくする。索敵はお互いに索敵対象となるメガヘクスをコールし、そこに艦隊か潜水艦がいれば、ダイスチェックによって探知される可能性がある。
索敵方法には、アクティブ索敵、パッシブ索敵、ヘリ索敵の3種類があり、さらに索敵対象によって水上、水中の2種類がある。つまり合計6種類の索敵方法がある。加えてEMCOM(電波発射管制)モードになっていない艦隊は、逆探によってそのメガヘクスを申告しなければならず、さらに上級ルールでは航空機による哨戒も加わる。つまり索敵の方法は10種類近くになる。これはFleetシリーズの計4種類(戦略/戦術の区分と水上/水中の区分)に比べると遥かに多く、索敵が本作のメインテーマであることが伺える。

イメージ 6逆に戦闘システムは驚くほどシンプルである。例えば対艦ミサイル(以下、ASM)戦闘。艦隊陣形シートを使用するとか、ASMが1発単位で登場するとか聞くと、一体どんなモンスターゲームかと思いってしまうが、解決方法は単純明快。艦隊陣形シートには艦艇を置くだけ。ASMは陣形の外周から進入してくるので、外側の艦が狙われやすいことを再現しているに過ぎない。ASMは1ラウンドに1歩づつ内側に向かって進んでいくが、その間同一エリアにいる艦艇から対空射撃を浴びる(長距離SAM装備の艦艇は隣接エリアに射撃可能)。対空射撃はd6を振って対空火力以下の目が出れば、出目の差分だけ相手のASMを撃墜できるというもの(出目=対空火力の場合は1発撃墜)。例えば対空火力が4の艦なら、出目が1で3発撃墜、2で2発撃墜、3~4で1発撃墜、5~6で外れとなる。こうしてみるとあまり強力ではないように思えるが、ASMの1波が10発以下と規定されているので、輪形陣を突破して中心の空母に到達するのは容易ではない。
目標に到達したASMは、相手の妨害(この妨害は電子的なソフトキルとCIWS等によるハードキルを含んでいると思われる)を受け、それを突破したASMが命中判定を行う。ASMの命中精度(1~4)以下の目が出れば命中となり、目標に損害を与える。ASMの威力は差がなく、巨大なSS-N-12もSeaDartやStandardのようなSAM転用のものも威力的ASMに対する耐久性は船の種類によって異なるが、致死量で言えばミサイル艇やフリゲート、駆逐艦クラスで1~2発、大型駆逐艦、巡洋艦クラスで2~5発、大型空母なら5~14発となる。巷に言われているように「アルミの船がASM何発食らっても沈まない」ということはないが、ミサイル艇と駆逐艦が同一扱いというのは少し違和感を覚える。

イメージ 7他にも対潜戦闘、砲撃戦等のルールもあるが、基本的なシステムはシンプル。対潜戦闘はd6でASW値以下の目を出せば命中だし、砲撃戦もしかり。潜水艦による魚雷攻撃もほぼ同様だ。上級ルールになると航空機が登場してくるが、航空機による爆撃もASM戦闘と大差はない。

イメージ 8今回、本作を対戦プレイすることになったので、まずは練習ということでソロプレイをしてみた。ブラインドサーチのゲームをソロプレイするのは実際には難しい面もあるが、そこはご都合主義と二重人格で対応することにした。選択したシナリオは、入門用シナリオの一番手である「ヨム・キプール戦争」。1973年に起こった第4次中東戦争におけるイスラエル海軍とアラブ連合の海戦を再現した半仮想戦シナリオだ。登場兵力はイスラエル側がサール3型ミサイル艇6隻、対するアラブ連合はシリア海軍のミサイル艇8隻(ソ連製オーサ型)が登場する(駒はソ連海軍用のものを代用)。隻数ではアラブ連合が有利だが、個艦性能ではイスラエル側が上。搭載ASM数、ASM性能、対空火力、妨害能力で勝っている。特にASMの差が顕著で、イスラエル側は各艦8発のASMを搭載しているのに対し、アラブ側は各艦4発。さらに命中精度はイスラエル側が1.5倍、妨害能力もイスラエル側が1.5倍。全てを加味するとイスラエル側1艦の攻撃力はアラブ側の4倍近くになり、アラブ側の数的優位はけし飛んでしまう。そして実際のゲーム展開もそれを裏付ける形となった。

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1Turn

イスラエル側はハイファ沖、シリア側は東地中海に展開している。両軍ともまだ距離があるので接触はない。戦意に溢れるイスラエル側は、シリア艦隊を求めて東地中海を北上した。

2Turn

イメージ 9先手をとったイスラエル艦隊がアクティブ索敵でシリア艦隊を発見した。精確な報告を受けたイスラエル艦隊は、直ちに手持ちのガブリエルASM計48発を一斉に発射する。第3次中東戦争での駆逐艦「エイラート」沈没を受けて、イスラエルが急遽開発した国産のASMだ。

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イメージ 10ASMは6発ずつの8グループに分かれてシリア艦隊を襲う。それぞれ1つのグループに襲われる形となったシリア海軍は対空砲火を打ち上げ、チャフ、フレア等を撒き散らして妨害を図る。2隻のミサイル艇は妨害に成功。ミサイルの命中を回避した。また1隻にはガブリエル1発が命中したものの、急所を外れていたので戦闘継続が可能であった。
しかし残った5隻の運命は悲惨だった。いずれも複数のASMを食らったシリア海軍ミサイル艇は、全く反撃の暇もないまま東地中海の波間に消えた。

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イメージ 11残ったシリア側ミサイル艇3隻は、レーダー索敵で漸くイスラエル艦隊を捉えた。P-15「テルミート」、NATO名SS-N-2「スティックス」と呼ばれるASM計12発が発射される。先の戦争でイスラエル駆逐艦「エイラート」を葬ったのと同型のものだ。6発単位の2グループに分かれて発射されたASMは、イスラエルミサイル艇2隻に狙いをつけた。妨害に失敗した1艦は複数のASMを受けて轟沈したが、もう1隻は妨害が奏功して命中弾を1発に抑える事に成功。沈没を免れた。

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この段階でシナリオの勝敗は決したと判断し、状況終了とした。

感想

攻撃力、防御力ともイスラエルが有利なので、シナリオ上イスラエル有利は動かない。とはいえ海戦は不確定要素が多いのでシリア側にもチャンスはある。シリア側としては兎に角先制攻撃あるのみだろう。後の記事にも書いたが、先制攻撃に成功すれば、イスラエルミサイル艇の半数を葬り去るのも夢ではない。行き残ったイスラエル艦の反撃によって手痛い打撃を被ることは避けられないが、少なくとも互角の戦いに持ち込むことは可能だ。逆に今回のように先制攻撃を受けてしまえば、まず勝ち目はない。

おまけ

後でASMの最適分配率を検討してみると、今回の分配方法は必ずしも最適解ではないようだった。すなわち目標に対して過剰命中(オーバーキル)が発生しており、最適分配だともっと戦果は上がったと思われる。イスラエル軍の場合、2~3発を1グループととして割り振っていく方法が良いようだ。試しに攻撃側イスラエル、防御側シリアとし、無傷の艦には3発割り当てて撃沈又は撃破を狙い、損傷艦に対しては1発ずつ割り当ててオーバーキルを避ける当て方をしたところ、シリア側の8隻全てを撃沈するのに要したASM数は34~35発であった(実験は3回行った)。撃沈1隻あたりの平均所要弾数は4発強である。つまりイスラエル軍は最初の一斉射でシリア艦隊を一掃でき、さらに10発以上のASMが余る計算となる。勿論、現実の世界ではASMの配分を上記のように緻密に実施できるとは思えず、実際には特定目標に集中したり、あるいはまったく狙われない艦が発生すると思われる。しかしこのゲームの扱っている1980年代ではなく現在のようにITが進化した世界なら、あるいはASM自体が最適火力配分を計算し、目標を追尾する、な~んてことがあるかもよ。

ちなみに上記のような話は、OR(オペレーションズ・リサーチ)における最適火力配分の問題であり、真面目に検討してみてみるのも面白いかもしれない。例えばイスラエルミサイル艇の最適火力配分はどのようになるのか。その時の戦果期待値はどうなるか。あるいは相手がより抵抗力のあるイスラエル艇が目標の場合はどうなるのか、等。
実は私もExcelで頑張ってみましたが、途中で数学的素養がないので諦めました。やっぱり数学的素養って大事だなぁ・・・。