鋭意作成中の空母戦ゲーム「海空戦、南太平洋1942」(以下、本ゲーム)だが、珊瑚海空母対空母に続く作戦級シナリオの第3弾が「第2次ソロモン海戦」である。
この戦いは、1942年に戦われた4度に渡る日米空母対決の第3弾で、日本側3隻(内1隻は軽空母)、米側3隻(内1隻は燃料補給のため海戦当日には参加できず)の空母が参加した。結果は、日本側は軽空母「龍驤」が沈没、米側が正規空母「エンタープライズ」が中破し、ほぼ痛み分けという内容。しかし日本側はこの他に駆逐艦「睦月」沈没、軽巡「神通」、水上機母艦「千歳」損傷、さらには兵員輸送中の仮想巡洋艦「金龍丸」が撃沈され、これらを加味すると日本側の敗北は避けられない。さらに戦略的にも日本側が企図していた輸送船によるガダルカナルへの増援輸送は阻止されてしまい、戦略的な意味でも日本側が敗北した海戦とされている。

概要とデザイン思想

イメージ 5どんなゲームでもシナリオをデザインする場合は、より上位の目的を考慮して考える必要がある。というのも、海戦にせよ他のタイプの戦いにせよその背景には必ず両軍の戦略的な意図がある。例えばミッドウェー海戦でいえば、日本側の意図はミッドウェー島の占領と誘引による米空母の撃破、米側の意図はミッドウェーの確保と奇襲による日本空母の撃破である。そのような背景を理解して初めて勝利条件に手をつけることができるようになる。

余談だが、陸戦ゲームに比べて海戦ゲーム、空戦ゲームが今ひとつ不人気なのは、勝利条件の解り難さにも原因の一端があるのではないかと思う。敵に与えた損害の大小は分かりやすい勝利条件だが、その場合「自軍が損害を被るリスクを冒してもやらなければならないこと」が今ひとつ見えにくいのだ。陸戦ゲームの場合は、「モスクワを死守する」とか「ドニエプル川を渡河する」とか、見た目にわかりやすい勝利条件が与えられるので、プレイヤーもゲームに勝つためのメカニズムを構築しやすい。またその背景もプレイヤーにとって理解しやすいので、感情移入しやすい。
逆の例が空戦ゲームで、例えば戦闘機同士の戦いを扱ったシナリオで「なぜ敵の戦闘機を落す必要があるのか」と考えても納得できる答えは得られない。結局、無理やり自分を納得させてプレイするしかなく、それができないプレイヤーは空戦ゲームから離れていく。それを解消するため例えば無理やり「原爆機トーキョーへ」的なシナリオを作ったとしても、リアルではないのでやはり感情移入できない。
海戦ゲームでも似たようなところがあり、以前に紹介した珊瑚海海戦は比較的解り易いのだが、今回紹介する第2次ソロモン海戦や南太平洋海戦は、そもそも背景となる戦略的な意図が解り難い。勢い「敵空母撃滅」という本来は手段に過ぎない事項が目的になってしまう。空母戦ゲームが人気テーマにも関わらずプレイされる機会が少ないのは、手段が目的化することによって生じる違和感(あるいは薄っぺらさ)が原因かもしれない。

第2次ソロモン海戦には、いくつかの背景要因があるが、主要なものをピックアップすると、以下のようになる(X Dayは8月24日)。
(1) 8月20日(X-4日)に米海兵隊機がガダルカナル進出
(2) 8月20~21日(X-3~4日)に一木支隊によるガダルカナル第1次攻撃失敗
(3) 8月22日(X-3日)に米軍の輸送船団ガダルカナルの到着
(4) 日本軍の増援用輸送船団がガダルカナルを目指して南下中(23日の段階でガダルカナルから約300海里)

このような状況下で、日米両軍の目的、目標、手段を設定すると、以下のようになる。

日本軍
[目的]ガダルカナル島の奪回
[目標]増援部隊のガダルカナル島への派遣
[手段]輸送船の上陸を阻む敵空母部隊、基地航空部隊、水上部隊の撃破

米軍
[目的]ガダルカナル島の保持
[目標]日本軍増援部隊の上陸阻止
[手段]海空兵力による敵輸送船団及び敵空母、水上部隊への攻撃

このように整理すると、[目的][目標]の部分では完全に日米両軍のそれが対になっていることがわかる。これはゲームをデザインする上では解り易いという点では好都合だが、ゲームの流れが単純化するという観点では望ましいことではない。そこで基本は両軍の輸送作戦の成否を軸にしつつ、空母同士の艦隊決戦による太平洋の制海権掌握という副次目的を設定すれば、ゲームバリエーションを膨らませることができるように思える。

ミルン湾上陸作戦

イメージ 4もう1つ、この時期東部ニューギニアでは、日本海軍によるミルン湾上陸作戦が遂行されていた。これはニューギニア東部に拠点を築こうとする日本側の侵攻作戦で、海軍陸戦隊、軽巡「天龍」「龍田」等の水上部隊、台南空等の基地航空部隊が参加していた。
AHのFLat Topではこのことを考慮し、ミルン湾上陸作戦を盤上で再現できるようになっている(上手く行けばラビ飛行場が日本軍の手に落ちることもあり得る)。しかし実際の所、豪州兵2個旅団約9000名が守るラビ飛行場を1000名弱の海軍陸戦隊で攻撃を仕掛けるという無謀な作戦で、成功の見通しは殆どなかった。従って「海空戦、南太平洋1942」ではミルン湾上陸作戦を無視することにし、同作戦に参加した海空の兵力はOBから除くことにした。その代わり連合軍のニューギニア方面における航空兵力も大半をゲームから除外し(一部長距離爆撃機除く)、その代償として日本艦艇のニューギニア・オーストラリア付近での活動を禁止することにした。

戦闘序列

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日本軍の戦略

イメージ 6先にも述べた通り、日本軍にとって最大の目的は輸送船団による増援部隊輸送である。初期配置位置から全力で移動すると、24日22時にはガダルカナル沿岸ヘクスに到達する。そこから上陸を開始し、翌25日10時には上陸が完了する。問題は敵の妨害である。特に24日、史実で決戦の行われたこの日が最重要である。
日本軍にとって脅威となるのは、(1)敵空母部隊、(2)敵水上部隊、(3)敵基地航空部隊の3つである。
最初の空母部隊だが、24日は敵空母3隻中1隻が給油のため戦場を離れていてチャンスである。こちらは空母3隻(うち軽空母1隻)なので、初日に限れば有利に戦いが進められよう。従って24日の決戦日においては、空母部隊は積極的に敵を求めて南下するのが良い。ただし米軍の戦意が極端に低い場合は、無理に決戦に持ち込むのではなく、米空母をガダルカナルから十分に遠ざけつつ、自らはガダルカナルに対する航空攻撃を実施するのも良い。
イメージ 7(2)の水上部隊については、敵は新鋭戦艦1隻を有している。とはいえ、日本側は40cm砲装備の戦艦「陸奥」を初め、金剛型の高速戦艦4隻、8インチ砲装備の重巡13隻を擁している(米側の重巡は5隻)。水上兵力では日本側が圧倒的に優勢なので、米側が水上部隊を投入してくればむしろ好機だ。
問題は最後の(3)基地航空部隊である。ガダルカナルに配備可能な連合軍機は計5ユニット。しかし実際にはF4Fx2ユニット、P39x1ユニット、SBDx1ユニットの計4ユニットと言った所だろう。これを制圧するためには、ラバウル基地から発進する零戦と陸攻隊の活躍に期待することになろう。それでも少数のSBD艦爆による攻撃は避けようがないので、ブカ基地を発進する零戦隊と水上機母艦「千歳」の艦載機に上空援護を依存することになろう。また外南洋部隊の重巡部隊による艦砲射撃を行い、上陸当日の援護を担当させることになるだろう。

日本艦隊の編制

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空母部隊は正規空母2隻と軽空母1隻に分離した。これは米軍の攻撃を分散させるための配備で、可能な限り正規空母に対する攻撃を回避しようとする意図からのものである。


連合軍の戦略

イメージ 8連合軍の戦略としては、早期決戦と長期戦の2種類がある。早期決戦は24日の段階で決戦に持ち込むというもの。「ワスプ」隊が未登場なので兵力的には不利である。
一方の長期戦はその逆で、25日以降の決戦を企図するものである。この方法は兵力面では有利になるが、日本軍の上陸が完了した後に決戦となる可能性があり、上陸阻止が間に合わないかもしれない。仮に日本軍の上陸を許してしまうと、それによってVP的に「勝ち逃げ」される可能性もあるので、注意が必要である。

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