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以下の文章は、今年12月に発表予定の自作空母戦ゲーム「海空戦、南太平洋1942」のデザイナーズノートです。
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「海空戦!南太平洋1942」は自作の空母戦ゲームです。
作品についての詳しくは-->こちらを参照して下さい。
入手方法は-->
こちらを参照して下さい。
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世界一「わくわく」する空母戦ゲーム

空母を中心とした機動部隊同士の戦いを「空母戦」というが、歴史上、空母戦が行われたのは太平洋戦争の間だけであった。戦ったのは日本海軍と連合国海軍(実質的には米海軍)で、つまり日本海軍と米海軍だけが歴史上空母戦を体験した組織となる。
そう言った意味から日本では空母戦に対する人気が高く、海外製又は国産で数多くの空母戦ゲームが発売されてきた。古典的なAvalon Hill社の「Midway」は未だに一部のマニアの間では人気のある作品であり、また同社の「Flat Top」は日本で紹介された最初の本格的な空母戦ゲームで、高い人気を博した。かくいう筆者も、「Flat Top」の発売を心待ちにし、札束を握りしめて玩具店に駆け込んだ1人である。Victory Gamesの「Carrier」は、ソロプレイで空母戦を再現する作品であり、日本でも和訳がTactics誌に紹介されていた。
1980年代になると国産のシミュレーション・ウォーゲーム(以下、SWG)が発売されるようになり、その中でも空母戦は人気の高いジャンルであった。現在でも再販されているエポック社の「日本機動部隊」は、シンプルなルールで空母戦の多様な局面を再現することに成功し、一部では「日本で最も多く売れたSWG」とも言われている。またツクダホビーが発表した「航空母艦」は同社特有の精緻な戦闘システムと独特の索敵システムによって一部のマニアには今でも伝説的な存在である。同社のタスクフォースシリーズは、「航空母艦」を簡略化したシステムで太平洋から地中海を含めた様々な状況を再現する野心作であった。
そのような「激戦区」から新しい空母戦ゲームをデザインするからには、それなりの理由がなければならない。その理由は簡単。一言で言えば、

「世界で一番わくわくする空母戦ゲーム」

作ってみたかったからに他ならない。
かつてFlat Topを手にしたとき、あるいはAir Warを手にしたとき、さらにはSPIやGDWのビックゲームの巨大な箱を手にしたとき。その時感じた「わくわく感」を感じることができるような空母戦ゲームを作ってみたかったのである。

索敵は最重要課題か

「空母戦は索敵が命」とよく言われる。まず私が疑問に思ったのはこの点である。
空母戦で索敵が重要な事は間違いない。しかし索敵・偵察等に代表される情報収集の重要性は空母戦に限った事ではない。全ての軍事行動において情報収集は重要な位置を占めており、空母戦だけが特殊な訳ではない。
にもかかわらず空母戦ゲームで索敵が重視されるのは、恐らくミッドウェー海戦の影響であろう。ミッドウェー海戦で敵空母発見に遅れを取ったことが日本艦隊の敗因と信じられることが多いため、索敵の重要性が強調されることになったと思われる。
しかし空母戦の一般的な傾向を調べてみると、ミッドウェー海戦の事例がかなり特殊な事例であり、必ずしも一般的な空母戦の姿を現していないことがわかる。同海戦では、日本軍は基地航空兵力を運用できず、索敵力を潜水艦と艦載機のみに依存した。これはミッドウェー基地を利用し、その基地航空兵力を広範に利用できた米海軍とは対照的であった。さらに事前の戦略情報戦でも米軍が優位に立っており、米軍が日本艦隊の出撃状況をほぼ把握していたのに対し、日本軍は米艦隊が近海で行動していることすら予想できなかった。
つまりミッドウェー海戦は戦う前から情報収集の意味で両軍に大きなハンデがあり、この戦いの結果を以て「日本軍が索敵を軽視したから敗れた」と考えるのは余りに表層的な判断だと言わざるを得ない。

ミッドウェー海戦以外の空母戦において、索敵の良否が海戦の帰趨を決した事例は皆無と言って良い。珊瑚海海戦では両軍とも空母戦に不慣れな事もあって索敵その他で多くのミスを犯したが、それらのミスが海戦の帰趨を決する事はなかった。また第2次ソロモン海戦や南太平洋海戦でも索敵の良否が勝敗を決める決定的な要因ではなく、いずれも兵力の大小と戦術能力の差異(対空火力、対艦攻撃力等)が勝敗を左右した。これらの戦例が示すことは、空母戦で索敵の良否が勝敗を左右する決定的な要因になることは決してなかった、ということである。
こう考えると、過去の空母戦ゲームにおける索敵に関する議論は、少なくともシミュレーションという観点から見れば殆ど無意味だと思える。ブラインド方式だろうがダミー方式だろうが、シミュレーションという観点から見れば殆ど意味のない話。極端な話、通常の陸戦スタイルの空母戦ゲームであっても、シミュレーションとしては大きな問題はないと言える。
一方でゲームとしての観点から見た場合、索敵ルールには別の意味がある。「わくわく」する要素だ。
かつて「レーダー作戦ゲーム」というゲームがあった。衝立でお互いに見えないようにした盤上に空母や戦艦のプラスチック駒を配置し、相手側の座標を読み上げながら「命中」「外れ」を報告し合うというゲームである。細かいルールは忘れたが、確か一定の手数の間に多くの敵艦を「撃沈」(艦船駒には複数のマスがあり、全てのマスに「命中」が発生したら「撃沈」扱いとなる)した方が勝利になった。このシステムは古典的なブラインドサーチ方式と言えるが、メカニズムは単純で、そこに戦術の介在する余地は少なく、少なくともシミュレーションゲームと言える代物ではない。ただ、単なるゲームとして見た場合、このようなシンプルなモデルでもそこそこ面白い。何故なら「見えない敵との戦い」という要素が競技者を興奮させるのである。多くの空母戦ゲームが索敵ルールに拘り続けているのは、シミュレーションとしてではなくゲームとしての魅力を追求するものであったと言えるかもしれない。
そう考えると、索敵ルールについて競技者に対して過剰な負荷をかけるようなシステムは本末転倒といえよう。そもそも索敵は空母戦を再現する上での本質的な項目ではないのだから、そこに投入すべきリソースは競技者が「ゲームを楽しむ上で許容できる範囲内」に留めておかなければならない。一部の空母戦ゲームでは、索敵における索敵実施側の位置を欺瞞するため、ブラインドサーチにダミー方式を組み合わせたり、盤上を埋め尽くすようなダミーマーカーを配置した索敵システムを採用しているが、「本質から外れた事項の再現について競技者へ過大な負担を強いたシステム」と言わざるを得ないだろう。
また多くの空母戦では索敵において「見つかった、見つかっていない」という二極化した状態で再現する傾向にある。だから未発見の敵空母を発見するには多大な労力を必要とし、一旦「敵空母発見」すると、そこで一仕事終わったような気分になる。だから空母戦ゲームの索敵問題は、「敵空母発見」を得るための過程に多くの競技リソースを注ぎ込むような仕組みになっている。
しかし実際の戦例を見ていると、「敵空母発見」自体は実は左程困難ではない。自軍にとっての脅威海域を設定し、その海域を捜索するために必要十分な索敵兵力を投入しさえすれば、比較的高い確率で「敵空母発見」の結果が得られる。そして「脅威海域を捜索するために必要十分な索敵兵力」というのは、必ずしも大きいものではない。逆に必要十分な兵力を上回る索敵兵力を投入しても、敵発見の可能性が大きく増す訳ではなく、むしろ兵力の無駄遣いとなる。
実際の索敵戦で重要なことは、敵空母発見を得ることではなく、ノイズを含んだ数多くの情報を如何にして正しく評価し、評価に基づいた正しい行動を行うことなのである。従って競技者の競技リソースは「敵空母発見」を得る過程ではなく、数多くの索敵情報を処理する過程に投じられなければならない。
「海空戦、南太平洋1942」(以下、本作)では、基本的な索敵システムについては計画用紙を利用したブラインドサーチ方式を採用している(「FLAT TOP]と同じ)。しかし索敵をヘクス単位ではなくエリア単位で解決することでプレイアビリティの向上を図っている。またエリア方式の索敵ルールは、ダミーマーカーとの親和性も良く、比較的簡単なルールながらも索敵実施側の位置をほぼ隠匿する事に成功した。従って本作では索敵実施に伴う逆探知の問題はほぼ解消されている。
またこのような索敵ルールを採用することで、競技者の立ち位置を明確化することができた。競技者は空母機動部隊の指揮官であって航空参謀ではない。指揮官たる競技者がすべき事は、航空参謀のそれとは違う。航空参謀は指揮官の求める索敵計画を実現するために必要な兵力量の算出や索敵計画立案に腐心するが、本作では索敵ルールがエリア単位で簡略化されているので航空参謀的な作業はほぼ不要になっている。それよりも指揮官が行うべきことは、脅威海域の設定、索敵投入兵力の決定、他の友軍部隊(基地航空隊、潜水艦等)との調整等である。いわば「作戦レベル」の視点が求められているのであり、ゲームシステムも「作戦レベル」の視点を与えるものでなければならない。本作の索敵システムは、まさに「指揮官から見た航空索敵」を再現するために必要な粒度とシステム特性を備えているのである。
さらに画期的なことはプレイアビリティだ。本作では、1ターン中それぞれの陣営が最大2回まで索敵を実施できる。しかし1回の索敵を解決するために必要な時間は約5分に過ぎない。つまり競技者は、「本質ではない」索敵問題にリソースの多くを吸引されることなく、空母戦のより本質的な問題と向き合うことができる。

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