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以下の文章は、今年12月に発表予定の自作空母戦ゲーム「海空戦、南太平洋1942」のデザイナーズノートです。
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「海空戦!南太平洋1942」は自作の空母戦ゲームです。
作品についての詳しくは-->こちらを参照して下さい。
入手方法は-->
こちらを参照して下さい。
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前号まで --> こちら

統一ゲームシステムの是非

本作は、シリーズ化を意図してデザインされている。具体的な予定はまだないが、個人的にはミッドウェー海戦、マリアナ沖海戦等も再現したいと思っているし、同じシステムで地中海やバレンツ海の戦いなどもシナリオ化したいと思っている。従って本作のシステムがある程度汎用性を持ったものであることは、ルールをお読みいただければ御理解頂けると思う。
とはいえ、本作ではシリーズゲームにありがちな「標準ルール」「特別ルール」という構成を採用していない。何故か。それは私自身が完全な意味での「統一化ルール」というのは、最適解ではないと考えるからである。
例えば空中戦のルールについて考えてみよう。本作では護衛戦闘機の効果をかなり高く評価しており、護衛戦闘機がいれば、攻撃隊はかなり高い確率で敵のCAPを突破できるようになっている。これは太平洋における空母戦で日本海軍の零戦隊がしばしば見せた「神業的な護衛戦」を再現できるようにしているからである。
しかし同じシステムを地中海の戦いに適用したらどうなるだろう。常にCAP側の戦闘機を超える数の護衛戦闘機を用意した独伊の基地航空部隊であったが、数と性能の優越にもかかわらず、守られるべき立場の独伊軍の爆撃機が英空母を飛び立った(比較的低性能な)迎撃戦闘機によってしばしば手痛い打撃を被っている。このような戦例を現時点における本作のシステムで再現したら、恐らく史実のような結果にはならず、マルタ島に向かう英空母は独伊空軍の爆撃機によって壊滅させられることになるだろう。従って仮に本作の続編で地中海の戦いを扱った作品をもし出版する事になった場合、護衛戦闘機の扱いについては本作とは異なったシステムになることが予想される。
同じ事が対空戦闘についても言える。本作では日米両軍の航空機と対空砲火の特色を再現するため、ダイス目に修正を加える方法を採用している。その結果、日本機については「落ちやすいが最後まで敵艦に対する攻撃を諦めず」、米軍機については「落ちにくいが簡単に攻撃を諦める」ようになっている。このようなルールは太平洋における空母戦を再現するためには効果的であるが、システムを汎化するという意味では必ずしも得策ではない。統一ルール方式で上記のような事象を再現する場合、これらのルールは特殊ルールの中に盛り込む形になる。
このように「標準ルール」+「特殊ルール」という構成で個々の戦いを統一化されたルールで再現しようとすると、どうしても特殊ルールのボリュームが大きくなり、競技者への負担を増やす傾向になる。さらに「標準ルール」+「特殊ルール」という構成の場合、標準ルールのボリュームが大きくなる傾向がある。例えば本作では誘導ミサイルやロケット弾に関するルールはないが、もし第2次世界大戦における海空戦を全て再現するような標準ルールを考えると、誘導ミサイル、ロケット弾、さらには誘導魚雷や特攻機に関するルールも取りこんでおく必要がある。しかしこれらのルールは1942年の空母戦を再現するには全く不要なルールであり、単に競技者に対してルールを理解する負荷を増やすだけの存在になる。
本作では、所謂「標準ルール」+「特別ルール」というルール構成は採用していない。標準化を意識したルール構成にはなっているが、あくまでも「1942年の南太平洋における海空戦」を再現するためだけのルール構成になっている。将来的に別の戦いを再現するゲームを製作する場合は、前作のルールを基本としながらも前作とは細部で異なった内容のゲームになるだろう。そして前作経験者に対する配慮としては、前作との相違点がわかるようなマーキングをルール上で実施し、ルールを読む負荷を下げるような配慮がなされることになるだろう。

本当に重要なことが見逃されていないか

これまで述べてきた事以外にも、本作では今までの空母戦ゲームでは見逃されてきたことがデザインに盛り込まれている。例えば索敵における位置誤認だ。これまで艦種誤認がルール化された事例はあったものの、位置誤認がルール化された例はなかった。索敵機の航路を細かく再現する従来の索敵システムでは、発見位置の誤認を盛り込むことは困難だったからだ。またダミーシステムでも位置誤認を導入することが困難なことは容易に御理解頂けよう。
本作では、索敵をエリア単位で抽象化すること、そして艦隊マーカーを盤上に配置するのを止めたことで、位置誤認を容易に再現できるようにした。さらに索敵力に応じた誤認発生確率を変動させることで、陸軍機と海軍機の索敵精度の違いを特別ルールなしで再現できた。索敵力4の陸軍機は、索敵力6の海軍機と比べると、誤認の可能性が高くなるようにデザインされているのだ。
艦隊任務や対地砲撃に関するルールも本作で新たに取り入れたものである。今までの空母戦ゲームはとにかく安易に対地砲撃が実施できすぎる。例えばミッドウェー海戦のシナリオで戦艦「大和」がミッドウェー島の米軍基地を艦砲射撃で吹き飛ばせるか、という問いに対して、現実の答えは「不可」だろう。能力的に足りないのではなく、ドクトリンや作戦構想が追い付いていないからだ。「金剛」「榛名」によるヘンダーソン飛行場に対する艦砲射撃は有名だが、それも即興的に実施された訳ではなく、事前に十分な下準備をし、万全の態勢で臨んだ作戦だったのだ。巷の空母戦ゲームで良く見られるように「思いついたら艦砲射撃」という感じで気楽に艦砲射撃を実施できるというのは幻想に過ぎない。
本作では、対地艦砲射撃自体を選択ルール化し、選択ルールを採用しない場合は対地艦砲射撃自体を禁止している。また選択ルール採用時でも対地艦砲射撃を行う際には事前の計画と目標設定が必要であり、しかも作戦中の目標変更や任務変更は許されない(任務変更は任務中止と同義である)。さらに対地艦砲射撃の能力自体も慎重に検討し、特別な支援がない場合の対地艦砲射撃能力を低めに設定することにした。これによって日本戦艦の艦砲射撃によってヘンダーソン基地が毎回毎回跡形もなく吹き飛ばされるような事態は発生しなくなった。
空対艦攻撃時における目標到達チェックと攻撃目標範囲については、やや蛇足的な感はあるが、これも本作で初めて採用されたルールである。これによって長距離攻撃時の目標発見の難しさが再現できただけではなく、前衛艦隊の意味も自然な形でシステムに取り入れることができた。また本作では採用を見送ったものの、レーダーピケット艦についても今後の作品でルール化が可能となっている。

わくわくする未来に向けて

先にも書いたが、本作はシリーズ化に向けた構想がある。
まずはミッドウェー海戦。マップの大きさとも相談したいが、ミッドウェーだけではなくハワイ又はウェーク島方面での作戦を再現できるようなゲームにしたい(あるいはA2マップを複数枚用意するか?)。さらには地中海やマリアナ、レイテの戦いをも将来的には視野に入れている。
またコンポーネントの向上も図りたい。まずは打ち抜きカウンターである。本作は15mmのユニットと12.5mmのマーカーが混在している。金型の関係で12.5mmの打ち抜きカウンターは現時点での実現は難しいが、もしある程度の売り上げが見込めるのであれば、将来的には検討してみたいと思う。さらにもし本作がある程度の人気を得られれば、どこかの出版社にお願いして、雑誌付録形式等でも出版してみたいとも思っている。

今後の「海空戦シリーズ」にご期待下さい。