戦史叢書-海軍捷号作戦2-フィリピン沖海戦

良い世の中になったものである。戦史叢書がネットでいつでも読めるようになった。本書は捷号作戦のクライマックスとも言うべきレイテ沖海戦についての戦史書である。またレイテ戦以降のフィリピン戦、すなわち多号作戦、ミンドロ島上陸戦、ルソン島上陸戦にもページ数を割いている。
本書「むすび」にも記されている通り、捷号作戦はレイテ沖海戦での栗田艦隊の反転を以て事実上終了していた。従ってそれ以降の戦いは米軍にとっては掃討戦に近い内容のものであったといえよう。にも拘らず日本側はあくまでレイテ決戦の意思を捨てず、それどころかレイテ海戦直後は「あと一歩で勝てる」とまで認識していたというから「知らないこと」は恐ろしい。
捷号作戦における一連の流れを「当時の視点」で考えてみると、日本側の認識は常に「あと一歩で勝てる」というものであった。レイテ沖海戦についても今では大敗北であることが知られているが、当時は米軍に大打撃を与えたと思われていたし、栗田艦隊にしも「米機動部隊を撃破した栄光の艦隊」だったのだ(実際にはジープ空母にすら勝てない弱小艦隊だったのだが・・・)。思えば台湾沖では「空母19隻を撃沈破」し、レイテ海戦でも「空母7~8隻を撃沈」したとなっている。これはプロパガンダというよりは「本当にそう思っていた」と考えるしかない。無論、現場に近いレベルでは「そんなに勝っている訳ないよ」と思っていたかもしれないが。それが集団として共有されることなかった。それどころか誤った情報に引きずられて作戦指導自体が誤った方向に導かれている(レイテ決戦の強行)。捷号作戦の敗因で一番大きな部分は質量両面における劣勢だが、その敗北をより悲惨で惨めなものにしたのは、適切な情報処理の欠如にあったといえよう。

「先の戦争で旧日本軍は、希望的観測、机上の空論、こうあってほしいという願望にしがみついたために国民に多大な犠牲を強いた」

映画シンゴジラの中のセリフだが、まさに至言である。

お奨め度★★★★