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GDW「Air Superiority」のシナリオをAir Powerのルールでプレイする

Air Superiority(以下、AS)は、米国GDW社が1987年に発売したシミュレーションゲームだ。テーマは、ジェット機時代の空中戦で、当時最新鋭のF-14、F-15や、未だ実態の良く分かっていなかったSu-27、MiG-29等が登場する。1Turnは実際の12秒、1Hexは1/3マイルのスケールである。

1992年には類似のシステムを用いた空戦ゲーム"The Speed of Heat"が米国Clash of Arms社から発売され(テーマは朝鮮、ベトナム及び冷戦期)、システム的にはAir Superiorityの正統な発展形となった。このシリーズをAir Powerシリーズ(以下、AP)と呼ぶが、実際にAPとして発売されたのはThe Speed of Heatだけであった。

今回、ASのシナリオをAPのルールでプレイしてみることにした。参加者は3名である。航空機のデータカードはASオリジナルのものを利用したが、ルールはAPのものを使用し、空対空ミサイルの性能は「今日も6ゾロ」さんが発表された"View from the Cockpit #1"のものを使用させて頂いた。

H-1:シドラ湾、1982年8月

リビアのSu-22フィッターJ 2機が飛び立った時、アメリカ第6艦隊はシドラ湾の問題の海域で演習の最中であった。2機のF-14Aトムキャットが要撃に出た。前方にいたフィッターがリーダーの位置のトムキャットに対して1発のミサイルを発射し、戦闘が始まる。しかしミサイルは後方熱線追尾型で、反航状態から発射されたため命中するわけもなかった。F-14は素早く機首をめぐらし、別々の方向へ分かれて逃げるフィッターを2機とも撃墜した。(シナリオブックより抜粋)

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F-14A 2機とSu-22 2機との可変翼同士の対決である。可変翼同士といっても一方は世界最強の名を欲しいままにしてきたF-14トムキャット、片や戦闘機というよりは戦術爆撃機といった方が良いSu-22である。普通に戦えば-14Aの勝利は動かない。私はSu-22を担当した。

ヘッドオン状態ですれ違った両陣営はそれぞれ反転して敵の背後を狙う。バーティカルロールを使って敵機の背後に回り込んだSu-22は一度はF-14に乗るトップガン達を追い込むが・・・。

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しかし機首を起こしたF-14Aは、全角度追尾能力を持つ最新鋭のAIM-9Lで攻撃のチャンスを伺う。

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高偏差角で接近するトムキャットとスホーイ。1機のトムキャットはSu-22の右側前方約1.5マイルの地点からAIM-9Lサイドワインダー1発を発射した。

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狙われたスホーイはエンジン推力を絞りつつミサイルを真横に見るように機動した。これがミサイルの命中率を一番低減させる方法である。しかしサイドワインダーは騙されなかった。ミサイルはスホーイを追って正確に飛行し、目標機に直撃、これを粉砕した。

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残り1機のスホーイはF-14Aとの交戦を避けて上昇し、戦場を離脱していった。


H-2:シリアのベテランパイロット、1982年6月

1982年ベッカー峡谷で発生した空戦は、殆どF-15やF-16が経験もなく逃げ回るだけのMiGを虐殺していく、というものであった。しかし時には極めて積極的な飛行をし、戦いを恐れないMiG-21に出会うことがあった。何機ものF-16がミサイル警報を鳴らされ、優れた旋回性能で辛くも助かったのである。この好戦的なベテランパイロットたちは、シリア空軍の暗黒の日々に一条の光を投げかけた。(シナリオブックより抜粋)

僕の好きなシナリオの1つである。2機のF-16Aと4機のMiG-21MFの対決で、典型的な「質対量」の戦いといえる。F-16A各機はAIM-9Lサイドワインダーを2発ずつ搭載。MiG-21MFは、各機AA-8Aアフィッド、AA-2Bアトールを各2発計4発搭載している。僕はシリア空軍(MiG-21MF)を担当する。

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序盤、約10マイルの距離で接敵したイスラエル空軍(IAF)のF-16Aとシリア空軍(SAF)のMiG-21MF。距離約3マイルに近づいた所でF-16Aの1機がヘッドオンからAIM-9Lサイドワインダー1発を発射した。

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狙われたミグは右へ急旋回してミサイルの回避を図る。しかしミサイルは目標を逃がさず目標機の至近距離で近接信管を作動させた。ミサイルの破片がミグを襲う。ミグは辛くも撃墜を免れたが、大破して戦闘能力を失った。

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一旦すれ違った両軍機。左右に分かれるF-16Aに対し、MiG-21MFは2機と1機分かれてF-16Aを追う。1機のMiG-21MFが3マイル前方を横方向に移動するF-16Aを発見する。直ちにAA-8Aアフィッド空対空ミサイルを発射したが、これが作動不良を起こして墜落。残り1発のAA-8Aが辛うじて発射成功した。

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狙われたF-16Aはエンジンをアイドリングにし、排熱量を最小限にしつつミサイル回避を試みる。
ミサイルが十分に近づいた所でF-16Aはフレアを連続発射し、ミサイルを攪乱する。フレアに騙されたAA-8Aは明後日の方向に飛び去った。

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さらに同じMiG-21MFが、F-16Aの左側後方1マイル強の距離からAA-2Bアトールミサイルを立て続けに2発発射した。しかし高G機動中に発射されたミサイルはいずれも作動不良を起こし、敵機に向けて飛んで行ったミサイルはなかった。

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そうこうしている間に別のF-16Aが左後方から接近してきた。距離約4マイルからミサイルを発射するF-16A

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ミグは必死に回避を試みるが、今まで同様AIM-9Lを騙すのは至難の業であった。ミサイルはミグの胴体に直撃し、ミグは大空に散った。

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しかしこれまで苦戦を強いられてきたシリア空軍にも漸く反撃のチャンスが巡ってきた。ロール機動でF-16Aの背後に回ったMiG-21MFは、約1秒間の長いバースト射撃を行った。23mm連装機関砲GSh-23Lからたっぷり約100発の機関砲弾が発射され数発がF-16Aに命中した。F-16Aは操縦不能となり、墜落していく。無敵のF-16にとって、初めての敗北であった。

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残ったF-16A 1機は戦意を失って逃走。この戦いは双方1機ずつを失って痛み分けという結果に終わった。

感想

勝利条件的には兎に角、旧式のMiG-21で当時最新鋭のF-16Aを撃墜できたことは大満足である。

AS及びAPは決して簡単なゲームではない。ジェット機時代における戦術レベルの戦い(空対空及び空対地/艦戦闘)のほぼ全てをルール化しているため、ルール量が膨大であり、まさに「空のASL」という呼称が相応しい作品である。実際のプレイ中にもルールの細部を確認するために何度もルールブックをひっくり返していた。そういった意味では初心者が気軽にプレイできるゲームでは決してない。

それでも慣れればこれほど面白いゲームも少ないようにも思う。先にも述べたようにジェット機時代の戦術戦闘のほぼ全てを再現しているため、データさえ用意すれば朝鮮戦争からベトナム戦争、中東戦争、印パ戦争、湾岸戦争、さらには21世紀における空中戦闘等、ありとあらゆる場面を再現できる。

さらにボードゲームの良い所は、現在空中戦における航空機や武器システムの力関係を目に見える形で再現してくれる点があるだろう。例えば今回の戦いでAIM-9Lサイドワインダーは計3発発射され、2発が命中、1発が至近弾となり、2機撃墜、1機大破の戦果をあげた。有効率は実に100%で、正に「必殺野郎」と言うに相応しい。これは史実にもよく合致しており、シドラ湾やフォークランド紛争でのAIM-9Lの有効性は驚異的なものであった事実と符合している。しかし本作をプレイしてみるとAIM-9Lの優秀性は多分に相対的なものであり、単に相手が有効な防御策を講じ得なかったからなし得た戦果に過ぎないことがわかる。そして相手側が様々な防御手段を講じてくると有効性が低下してくることも理解できる。
すなわちAS/APは単なるゲームに留まらず、現代航空戦を理解するための格好の「教材」としても利用できることを意味している。

私自身、まだまだ本シリーズを遊び尽くしていないので、今後機会を見つけてどんどん遊んでいきたい。