飯豊山。福島県、山形県、新潟県の3県の間に位置する飯豊山系の主峰である。標高は2105.1m。ちなみに飯豊山系最高峰は標高2128mの大日岳である。日本百名山の一座であるが、山域が広く山が深いので、登頂するのは必ずしも容易ではない。そんな飯豊山に登ってみた。

7月終盤の週末。長かった梅雨がようやく明けようとしていたある日、喜多方市の温泉宿に前泊した私は、まだ明けきらぬ早朝から宿を出発。車で15分ほどの場所にある登山口へと車を走らせた。私が選んだ登山口は、川入登山口。しかも駐車場がある御沢の野営地である。駐車場は広く、車は止めやすい上、トイレも完備していてありがたい。
写真30


出発は0525。登山開始だ。登山口の標高が600m弱と思いのほか低いので愕然とする。最初は地蔵山に向けた長い登りだ。下十五里、中十五里、上十五里といくつものチェックポイントを通り過ぎる。短い間隔でチェックポイントがあり、少しずつ前に進んでいる感じが心地いい。登り始めて丁度2時間で標高約1400mの横峰小屋趾に到着した。コースタイム3時間なのでなかなか良いペースである。
写真31


そこからは地蔵山の頂上を巻いて牛ヶ岩山からの道と合流する。しばらく緩やかな登山路が続くが、いきなり岩稜に差し掛かる。剣ヶ峰の岩稜である。炎天下でこの岩稜を歩くのはかなり辛い。しかも両側の谷は深く切れ込んでいて、一つ間違えて滑落でもしたら、まず命はない。とにかく落ちないように慎重に歩いていく。

写真32
写真33
写真34

写真35


岩稜の終点である三国岳山頂に着いたのは0915。登山口からの所要時間は3:50であった。コースタイム=5:10なので悪くないペースだが、剣ヶ峰の岩稜で思いのほか時間がかかった。

写真36


山頂で20分ほど休憩して次の目的地である切合(きりあわせ)小屋に向かう。三国岳からのコースタイム=1:50なので大したことはないだろうと思ったが、甘かった。三国岳から切合小屋まではいくつものピークがあり、その度にアップダウンを強いられる。しかも稜線歩きなのでミスると危険なことは剣ヶ峰の岩稜と異なることはない。剣ヶ峰みたいに完全に両脇がスパっと切れている訳ではないのでまだ安心感はあるが、それでも危険なことは変わりない。しかも悪いことにこれまでは炎天下で熱中症の心配をするほどの天候がここにきて急激に悪化。いきなり叩きつけるような雨が降ってきたのだ。慌てて雨具を着込んで急場をしのぐ。幸いなことに、三国岳から切合小屋までは前半の方が厳しく、後半は比較的平坦で歩きやすい。私の場合、このコースを半分と少し歩いた所で雨にやられたので、大雨の中で危険個所を通過するという事態だけは免れた。雨に打たれながらひたすら切合小屋を目指す。
写真37


切合小屋に着いたのは1130。三国岳からの所要時間は2時間弱でコースタイムとほぼ同じだった。雨の中で少し雨宿りしたとか、雨具を着込むために時間を取ったことを思えば、このペースは悪くない。とりあえず切合小屋まで無事にたどり着けたのが一番の成果である。

写真38


今日の宿はこの切合小屋の予定である。飯豊山系にはいくつかの避難小屋があるが、食事提供があるのはこの切合小屋だけである。食事の量を少なくして荷物を軽くしたかったので、宿はここにした。可能なら初日に飯豊山登頂を果たして翌日は下山するだけにしたかった。しかし雨は上がったものの未だ天候はハッキリせず、山頂からの視界も望めそうにないので、今日はここで行動終了とし、飯豊山アタックは明日に決定した。従って午後は夕食まですることがない。持ち込んだ書物(kindle)を読みながら時間をつぶす。夕食は1700からでカレーライス。その後は少し宿の外をウロウロしたが、1900過ぎには寝床に入った。

写真39


翌日の起床は0345。山小屋の朝は早い。0400過ぎになるとあちらこちらでガサガサと動き始める。0500少し前に朝食。卵かけご飯だ。朝から炭水化物とは嬉しい。食事とトイレを済ませて出発は0520。昨日登れなかった飯豊山を目指す。
切合小屋を出発するとしばらくは緩やかな登りが続く。一部雪渓歩きがあって緊張するものの、大したことはない。1kmほど上がった所が草履塚という場所。天気が良ければ飯豊山が一望できそうな場所だ。
写真40


そこからは一旦標高を下げて御秘所という場所を過ぎ、最後の難所である御前坂の岩稜帯に差し掛かる。昨日歩いた剣ヶ峰に比べれば規模は小さいが、それでも緊張を強いられる場所には変わりがない。
写真41


岩稜帯を過ぎると尾根沿いの山歩きがあり、飯豊山に向けた最後の登りに差し掛かる。標高差300m程を上り詰めた所が本山小屋。飯豊山を目前に見る避難小屋だ。ここからはもう厳しい登りはなく、賽の河原のような平原を15分ほど歩いて飯豊山頂に到達する。

写真42
写真43
写真44
写真45



時計を見ると0709とある。切合小屋からの所要時間は2時間弱。コースタイム=2:40なので良いペースだ。山頂付近は風が強く、しかもガスがかかっていて視界が効かない。残念ながら記念写真だけを撮って早々に下山開始である。
往路と同じ経路で切合小屋に向かう。天候は相変わらず。曇天で時折ガスが晴れて飯豊の山々が見えることもある。しかし晴れることはない。昨日の大雨のこともあり、帰路を急ぐ。

写真46
写真47
写真48
写真49


切合小屋に到着したのは0855であった。復路の所要時間は1:40でコースタイム=1:50だからそれほど差はない。ここでデポしていた荷物を受け取り(一気にザックが重くなった)、下山の道を急ぐ。昨日のことがあったのでとにかく雨が気になる。特に剣ヶ峰の岩稜を突破し終えるまでは大雨には降られたくはない。しかし切合小屋から三国小屋までの道のりは思いのほか厳しく、いくつもの小ピークを根気よく超えて行かなければならない。往路と同じ苦しみが襲う。それでも三国岳には1021に到着。所要時間1:15は、コースタイム=1:40に比べるとかなり良い。

写真50


この時点でまだ雨の気配はなし。むしろ炎天下で熱中症に注意である。ここから最大の難所である三国岳下の剣ヶ峰に挑む。三国岳から剣ヶ峰までは痩せ尾根歩きなので緊張を強いられる。三国岳から剣ヶ峰の頂上まで25分ほどかかってしまう。この分では岩稜帯を突破するだけで1時間かかってしまうと危惧したが、剣ヶ峰から先は厳しい岩稜帯はあまりなく、比較的安定して降りていくことができた。

写真51
写真52


岩稜帯を突破したのは1107。所要時間は40分弱である。ここまで来たらもう雨が降っても大丈夫。安心して最後の下山を開始する。地蔵岳を巻いて水場で新鮮な山の水を堪能。横峰小屋前で軽くパンを食べる。後は長い下り坂を我慢して降りていくだけ。途中で2度ばかり休憩し、御沢のキャンプ場に戻ったのは1309であった。切合小屋からの所要時間は丁度4時間。コースタイム=5:30なので最後まで良好なペースを維持できた。

写真53


帰りは「いいでの湯」に立ち寄って日帰り入浴。登山明けの温泉は気持ちいい。湯上りに温泉提供の冷たい水が美味しい。

写真54


車で走っている間に空腹感を覚えたので、会津柳津の方向に少し足を延ばし、蕎麦屋に立ち寄って天ぷらそばを食べた。蕎麦の方はあまり旨くなかったが、天ぷらとアスパラが美味しかった。

写真55
写真56
写真57
写真58


飯豊山の感想だが、さすがに難易度の高い山であった。危険個所もいくつかあり、実際に滑落事故も発生しているらしい。特に悪天候の際は要注意で、無理に悪天候時に危険個所を歩くのは得策ではないと思う。もちろん飯豊山の魅力は今回の旅で全てではなく、飯豊本山からさらに奥の北俣岳を抜けて飯豊温泉に降りる縦走ルートも機会があれば歩いてみたいコースだ。

今回の飯豊山で私にとっては99個所目の百名山制覇である。いよいよあと1つだ。