俘虜記
大岡昇平 新潮文庫
「レイテ戦記」で有名な大岡昇平氏が、自らの俘虜体験に基づいて記した小説である。小説といっても恐らくある程度事実に裏付けされた小説であり、単なるフィクションではない。筆者大岡昇平氏は、京都帝国大学(今の京都大学)文学科卒業のインテリでありながら、一兵卒として徴兵され、フィリピンに送られた。そしてミンドロ島サンホセに暗号兵として赴き、1945年1月の米軍によるミンドロ島上陸に際して米軍の捕虜となり、レイテ島に送られる。そこでレイテ戦で戦った陸海軍の捕虜達と一緒になり、約1年間に渡る捕虜生活を送ることになる。
本書は捕虜の立場から見た捕虜達の生活を、少し滑稽に、少し皮肉を込めて、描いている。「日本人収容所長」として権力を奮った「イマモロ」(今本)、その腰巾着の「オラ」(織田)が代表格だが、その他にも様々な捕虜達が登場し、紙面を彩っている。また、筆者と関わりのある米軍関係者、ミンドロ島で共に戦った戦友達にまで話が及び、戦場及び捕虜という異常な環境下で筆者がどのように生きたかが生き生きと描かれている。
本書は、戦争という巨大な悲劇の中で繰り広げられる人間同士の喜劇を描いた作品であり、所謂「戦記」では描かれることのない戦争の一面を描いた傑作である。
お奨め度★★★★