190818失敗の本質

失敗の本質

戸部良一他5名 中公文庫

十何年ぶりに読んでみた。かなり話題になった著作なので、既に読んだ人も多いだろう。本書は大東亜戦争における日本軍の失敗を体系的に分析した著作である。本書によれば日本軍の戦略面での弱さを「あいまいな戦略目標」「狭くて進化のない戦略オプション」「アンバランスな兵器体系」とし、組織面の弱さとしては「強い属人性」「学習に対する軽視」等を取り上げている。現在の視点から見ると結果論的過ぎるとか、日本軍に対する評価が辛辣過ぎるとか(日本軍をして「学習しない組織」というのはやや極論過ぎ)、様々な批判も可能だろう。
ただ、現時点で本書を振り返ってみると、そのような批判が些事に過ぎないことがわかる。というのも、本書で指摘した日本型組織の弱さは、平成期における日本の停滞によって見事に証明されてしまったからだ。
本書の初版が出版されたのは1984年(昭和59年)である。筆者らはその中で、日本型組織の強みを「ブレークスルーを生み出すよりも1つのアイデアを洗練させていくのに強い」としている。また平成3年出版の文庫版では「今やフォローすべき先行目標がなくなり、自らゲームのルールを作っていかなければならなくなった」と警鐘を鳴らしている。その後約30年、新たなゲームのルールを作れなかった我々は、世界の中で失速している。そのように回顧すると、本書が危惧した日本型組織の弱点は、残念ながら平成期に顕在化してしまったと言って良い。
そういった意味では、今でこそ読み返す価値のある著作といえる。

お奨め度★★★★