MBT


MBTはGMT社が2016年に発表したシミュレーションゲームだ。テーマは1987年の西ヨーロッパを想定した戦車戦闘。いわゆる「1987年、ソ連軍が西ドイツに侵攻を開始、その時NATOは」的な仮想戦である。 ゲームシステムやスケールについては、既に何度か紹介済であるので省略する。基本的には車両1両、砲1門(又は砲兵中隊(盤外砲兵))、歩兵は班~分隊クラスのスケールで登場する。
今回紹介するシナリオ10「Forced Crossing」は、MBTの中でも最も規模の大きいシナリオである。今回はVASSALによるソロプレイである。

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17Turn

UH-1_263主導権は米軍に戻った。市街地周辺を迂回している米戦車部隊が、ソ連軍戦車を次々と撃破する。まずBMP-2がM1A1エイブラムスの徹甲弾による直撃を受けて撃破される。次にT-72BA 2両が次々とエイブラムスの徹甲弾を受けて爆発炎上する。右側面のAlpha-1に陣取る米歩兵分隊が対戦車ミサイルを発射。800m先のソ連軍対空ミサイル車両9K35の履帯に命中し、同車両は移動不能になった。
無論ソ連軍もやられっ放しではない。Charlie-5の市街地では、前進してきた米歩兵に対してソ連軍歩兵が猛烈な反撃を実施し、米歩兵の1個分隊が戦力半減の損害を受けた。またChalie-5の南側では、左翼を突破せんとしたM1A1エイブラムスがBMP-1Pの発射した対戦車ミサイルの直撃を受けて、爆発炎上する。 米軍はChalie-5に侵入したソ連軍歩兵を排除するため、2機のUH-1H輸送ヘリから歩兵分隊2個をChalie-5に向けて降下させた。身軽になったUH-1はサイドハッチからの支援射撃を仕掛けるべく旋回する。
写真17


18Turn

ZM_BUマップ上を見ると、ソ連軍は見る影もない状態になっている。稼働中の戦車は僅かに1両のみ(T-64BV)。しかも指揮統制ルールの関係上、そのT-64BVは何もできない(命令マーカーを置けない)。歩兵戦闘車はまだマシだが、それでも無傷で残っているのはBMP-1が1両のみ(この1両が先のTurnにM1A1エイブラムスをミサイル攻撃で撃破した)。他に損傷を被った歩兵戦闘車が3両。対空車両も苦しい状態。1両のミサイル車両は走行不能。もう1両のZSU-23-4は無傷だが、それもいつまで続くか・・・。

このTurn、米軍はChalie-5周囲のソ連軍を相当する。対空車両2両はいずれも米歩兵の放つDragonミサイルの直撃を受けて擱坐・炎上する。歩兵を運搬中のBMP-1はM1A1エイブラムスの射撃を受けて爆発。搭乗していた歩兵分隊は辛うじて脱出に成功した。そして走行不能になっているBMP-1PはAH-1Fコブラの放ったTOW-2対戦車ミサイルの直撃を受け、これまた爆発炎上する。

この段階でChalie-5周辺に残っていたソ連軍はほぼ壊滅。米軍にとって残る敵は、Chalie-5の市街地で抵抗を続けるソ連軍の抵抗を排除するだけであった。

写真18


19Turn

SO_InfChalie-5を巡る攻防戦が始まる。攻撃ヘリコプターAH-1Fコブラが市街地上空に侵入。市中に陣取るBMP-1Pが後方から攻撃ヘリの20mm機関砲による射撃を受けて撃破された。輸送ヘリも市街地上空に侵入し、懸垂降下で歩兵が市街地に降りていく。

その後

ZM_Turn_NATOこの後は21Turnまでプレイした。市街地に侵入してきた米軍部隊に対してソ連軍は乾坤一擲の反撃を試みるが、当然ながら兵力に勝る米軍の集中射撃を受けて反撃は失敗。逆に兵力が減少したソ連軍に対して米軍歩兵が突撃を敢行してこれを次々と撃破していった。
第21Turn終了時に、ソ連軍は混乱状態の歩兵が1個分隊、それから後方から支援射撃を行う砲兵1個を残すのみであり、この時点でゲーム終了とした。

写真21a
写真21b
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戦果と損害

; 両軍の戦果・損害は以下の通り。

米軍の損害

表1


VP換算で3865VPの損害となる。

種類別でみると、やはりM2A1ブラッドレーの損害が大きい。対戦車ミサイルを搭載しているので脅威度が大きい上、装甲が薄いので撃破しやすく、優先度の高い目標となったためである。同じくM901ITVも同じ理由で高い損害率を示している。
M1A1エイブラムスについては、装甲が厚くて撃破するのが困難であるが、それでも敵から見た場合の脅威度も大きいため、優先的に狙われた結果、比較的高い損害率を出した。
逆に意外に損害が軽いのが歩兵部隊。足が遅くて脅威度としては比較的低いということもあるが、戦線後方に取り残されて無視されたというパターンも結構多い。ただし脅威度については、対戦車ミサイルや砲撃誘導等でソ連側にかなりの打撃を与えており、現代戦における歩兵の強さは意外と無視できない。その事については後に触れる機会があるだろう。

次に撃破の原因を見てみよう。

表2


撃破原因の半数が戦車砲によるもので、特に重装甲のM1A1エイブラムスに対しては、戦車砲の有効性が際立っている。やはり「戦車に対抗できるのは戦車だけ」「戦車は戦場の王様」というのは本作では正しい認識と言える。

ソ連軍の損害

表3


表4


VP換算で7361VPの損害となる。
種類別の損害はあまり意味がない。何故なら殆ど全てのソ連側車両が撃破されてしまっているからだ。

最終的な勝利得点は、米軍12,661VP、ソ連軍3,865VPで、米軍の圧勝となった。

感想

戦車の性能差があるので、ソ連側にとっては苦しいシナリオと言える。M1A1エイブラムスの120mm砲は中距離以下ではソ連側の戦車を確実に貫通可能なのに対し、ソ連戦車の125mm砲は余程近づかない限りM1A1エイブラムスの正面装甲をぶち抜くのは困難である。さらにM2A1ブラッドレーのTOWミサイルにしても、ソ連戦車に対して有効打を期待できる。たとえ正面からでもソ連戦車の爆発反応装甲が不発に終わった場合、TOWミサイルはソ連戦車を葬ることが可能だ。それに対してBMPに搭載している対戦車ミサイルでは、M1A1エイブラムスの正面装甲を貫くのはほぼ不可能だ(エイブラムスの正面装甲はチョバムアーマーである)。

UM-2A_M1A1


歩兵もまた強い。米歩兵の持つDragonミサイルでは、流石に戦車の正面装甲相手では貫通力不足が明らかだが、戦車の後面装甲や歩兵戦闘車の正面装甲なら十分撃破可能だ。米歩兵を放置したまま後方へ突破すると、背後からミサイルを撃たれる可能性があるので、ソ連軍にとっては米歩兵を1個1個潰すしかない。時間をかければ戦車で敵歩兵を潰すことは不可能ではない。しかし伏せた歩兵を潰すのは物理的な見地から見てもかなり困難な上、時間が敵であるソ連軍にとってはノンビリ米歩兵と遊んでいる暇はない。

SM-2A_T-72BA


さらに今回隠匿ルールを採用したので、これもまたソ連軍にとっては不利に作用した。米軍の待ち伏せ地点がわからないため、ソ連軍にとっては無理矢理前進することは自殺行為に等しいからだ。そういった意味で本シナリオは隠匿ルールを採用しない方がバランス的には良いかもしれない。特に対人戦では猶更である。

今回初めてヘリコプターを使ってみたが、ルール自体はシンプルであった。分かりにくかったのはヘリコプターと命令マーカーとの関係。最初は車両と同様に命令マーカーを配置する必要があると思っていたが、どうやらヘリコプターには命令マーカーが不要ならしい。このあたりは固定翼航空機と同じ。

PanzerにしてもMBTにしても、戦車同士の撃ち合いを再現するには良いゲームである。ASLに比べるとドラマ性という点では見劣りするが(ASLはやや演出過剰かも・・・)、戦車を中心にしたシステムとしてはASLよりもこちらの方が納得感がある。WW2から現在戦まで様々なシチュエーションを再現できるのも嬉しい。

次は在欧英軍の活躍を見てみたいものだ。
写真98