SCS_IC表紙


Iron Curtain(以下、本作)は、SCSシリーズの1作で、西ドイツ周辺で起こり得た東西両陣営の直接対決を作戦レベルで再現した作品である。本作の特徴は、年代別にシナリオが複数用意されている事で、1945年、1962年、1975年、1983年、1989年の各シナリオの中から、好みの時代を選択してプレイできるようになっている。

今回プレイするのは1989年シナリオである。ヴェトナム戦争で打撃を受けていた米陸軍の再建がほぼ完了し、質的な面では冷戦時代を通じて米軍が最も充実した時期である。対する東側陣営も新兵器群で武装し、まさに「スーパーウェポン同士の華麗な激突」。トムクランシーの名作小説「レッドストームライジング」が描いた世界がそこに広がる。

今回はVASSALを使ったソロプレイを試みてみた。

前回までの展開は --> こちら

SCS_IronCurtain_Map


7Turn(X+18 Day)

このまま終わりにするのはあまりに惜しいので、もう少し続けてみようと思う。悪名高き「宇垣裁定」の如く 仮に"1"が出なかったとしよう。
再び晴れ渡った空の下、NATOとWTO軍の大空戦が繰り広げられる。制空権はNATOが握ったが、航空兵力の損害は両軍とも差はなかった。

核爆発


突如、カッセル南方で巨大なキノコ雲が上がった。米軍の第1機甲師団を主力とする機動グループが集結している付近である。WTO軍は遂に禁断の兵器、「戦術核兵器」の使用に踏み切ったのだ。この時、WTO軍が使用した戦術核弾頭は計55発(ゲーム中の1発をここでは核弾頭5発と換算して表現している)。同時に使用可能な戦術核弾頭の70%以上をWTO軍は一度に使い切ったのだ(WTO軍が使用可能な戦術核弾頭は合計75発)。
核弾頭が爆発したのは、カッセル周辺(計15発)、ブレーメン南方(計5発)、ルール工業地帯(計15発)、マンハイム(計5発)、その他の人口過疎地域(計15発)である。一連の攻撃でNATO軍は米機甲旅団6個、西ドイツ装甲旅団2個、攻撃ヘリコプター5個旅団/連隊が失われ、機械化歩兵5個旅団がステップロスした。単純計算で機械化部隊4~5個師団に相当する兵力が1度に失われたのである。
一方、NATOも即座に核反撃を行った。自国領内での戦術核使用は心理的な抵抗があったとも思われるが、「相手が使用するからには、報復は必要」という理屈で、自国民の頭上にも容赦なく戦術核兵器の雨を降らせた。この時NATOが使用した戦術核弾頭は計30発。これはNATOが即時使用可能な戦術核弾頭の約半数である。それがハンブルグ、ハノーバー、カッセル、ニュールンベルグ、その他で炸裂した。核攻撃によるWTO軍の損害は、壊滅=機械化師団3個、攻撃ヘリ旅団3個、ステップロス=戦車師団2個、機械化師団1個で、その総損害はほぼNATOと同程度と思われる。他にWilhelmshavenでNATO軍が使用した化学兵器によってWTO軍はさらに2個機械化師団の兵力を失った。

Turn7a


民間人の損害については言うまでもないだろう。100発近い核弾頭が国内で炸裂した西ドイツの惨状は筆致に尽くしがたく、死者は数百万、負傷者を含めると一千万を超える規模に達した。国内のインフラも大損害を被り、当然ながら医療機関も崩壊状態。人口密集地帯でもあるハンブルグ、ドムトムント、ミュンスターに投じられた核弾頭は今後数百年に渡って深刻な放射能問題を残すことが懸念される。

核弾頭が炸裂する中、WTO軍は現戦線を死守すべく布陣する。新たなる核攻撃の危険があるので密集隊形は禁物。疎開隊形を採りつつ「広く浅く」守る布陣を敷く。NATO軍は得意の機動力を生かしてWilhelmshavenとBremerhavenを奪回したNATOは、北海シーレーンへの脅威を取り除いた。またNATO軍の先鋒は西ドイツ領内を東へ向けて進撃し、途中に布陣するWTO軍を撃破しつつハンブルグ運河まで到達した。一方のWTO軍は、放射能に汚染されたハノーバー、カッセル、ミュンスター、ニュルンベルクに立てこもり、死守の姿勢である(大丈夫なのか、この人たち・・・)。

Turn7b


8Turn(X+21 Day)

天候は晴れ。遂にWTO側が制空権を確保した。2d6で"3"の目を出したのである。数に勝るNATO軍の航空部隊は、その数の多さが仇となり、実に5ユニットを失うという空前の大損害を被った。

思わず制空権を獲得したWTO軍は、空挺2個師団をWilhelmshaven付近に降下させて同地の奪回を図る。虎の子の化学兵器を投入し、なんとかWilhelmshaven奪取を図るWTO軍。ここを取れば、再びサドンデス勝利の可能性が見えてくる。Wilhelmshavenを守るNATO軍はベルギー軍の機械化旅団が僅か1個のみ。75%の確率でWTO軍がWilhelmshavenを取れるはずだった。しかし出目が恵まれなかったWTO軍。Wilhelmshaven奪回作戦は失敗に終わり、このTurnにおけるWTO軍のサドンデス勝利はなくなった。
両軍とも核攻撃を警戒し、これまでの「拠点巣籠り防御」から、翼を広げたようなスクリーン防御に移行する。お互い機動戦による華麗な機動突破よりも、鑢で削るような戦いになる。

Turn8a


そしてこの戦いはNATO側の圧倒的な勝利に終わった。ハンブルグ運河沿いに薄い戦線を張るWTO軍に対して、機動力を生かしたNATO軍が正面攻撃に出る。数に勝るNATOの攻撃ヘリ部隊が戦線背後に回り込んでWTO軍の後方を断つ。正面からNATO軍数個旅団がWTO軍の弱体化した各師団を正面から火力を集中する。WTO軍が核兵器で反撃しようとしても、核兵器発射の準備を整わない間に攻撃を仕掛けてくるから(核兵器の使用には色々と面倒な手続きを経なければならない。それは世界共通なのだ)、WTO軍は成す術もない。ハンブルグ運河に並んだWTO軍は悉く撃破され、東ドイツを守るWTO軍は文字通り壊滅した。

Turn8b

Turn8c


この時点で第3次世界大戦は事実上終了した。

感想

この時点でWTO軍の勝機はほぼなくなったので、ゲーム終了とした。実際には第6TurnでWTO軍が一旦勝利条件を満たしているので、WTO軍が勝っているのだが、その点を踏まえて感想戦と行きたい。

まずNATO側の敗因だが、ブレーメンとミュンスターを失ったことだろう。ブレーメンを失った時点でWTO軍はNATO崩壊の第1条件である「北海シーレーンへの脅威」がほぼ達成できる。あとはダイスで1を出せば良い。NATOはそれを防ぐためにブレーメンは何が何でも死守しなければならない。しかしWTO側には切り札「戦術核弾頭」がある。これがブレーメン上空で使用されれば、NATO軍による死守は難しくなる。そして一旦ブレーメンを奪取されたら、その奪回のためにNATOが戦術核を使用することはできない。何故なら勝利条件に関係する都市でNATO側が核兵器を使用した場合、その都市は実際の支配者に関係なくWTO側の支配とみなされるからだ。
NATOとしてはブレーメンの陥落を阻止するため、その前面であるハンブルグやハノーバーの線で守り切りたい。逆にWTO軍としては序盤が損害を顧みずハンブルグ、ハノーバーを落しに行くべきだろう。そのために化学兵器の使用は必須。当然ながら西ベルリンは可及的速やかに陥落させる必要がある。こちらも損害を顧みずだ。化学兵器を使用し、オーバーランを多用して一刻も早く。当然NATO軍の空挺部隊等が増援が入ってこれないよう全周を固める必要がある。空爆による損害は計算のうちだ。

ゲーム全体の感想に移る。まず対戦ゲームとしてみた場合、プレイ時間がかかるのが気になる。1Turnの所要時間が1~2時間。これにセットアップの時間も含めると、8時間のプレイ時間でも精々3Turn程度しか進めない。通常のシナリオをある程度満足できる所までプレイするためには、2日間は欲しい所だ。しかしルールがシンプルでシミュレーション性はそれほど高いとは思えない本作にそれだけのリソースを投じる意味があるかどうか。
また戦い方がやや技巧的過ぎる点が気になる。通常移動で「挟んでポン」した後、全速力で後方へ下がって巣籠り。これが果たしてリアルと言えるかどうか。まあ勝利条件や核兵器ルールによって全体的に見れば「巣籠り」が必ずしも「必勝法」にはなっていない点、救われているともいえる。

次に褒める点。まずルールがシンプルな点。基本的には、移動・戦闘・移動で、オーバーランが挟まるだけなので基本システムはシンプルである。CRTがやや特殊だが、慣れれば大したことはない。むしろ現在戦における火力戦を上手く再現している。航空戦もシンプルながら雰囲気は出ている。航空戦における適度なギャンブル性も良い。
そして現在戦といえば大量破壊兵器。本作でも化学兵器と核兵器が登場するが、その再現方法が独特である。これらの兵器は要するに「どこでも使える威力の大きな砲兵」(ただし使用できるのはTurn開始時点だけ)なのだが、それに加えて残留汚染物質による追加損害がある。化学兵器のそれは1Turn経過すると消滅するが、核兵器の場合はゲーム終了まで残留する(放射線の半減期を表しているらしい、それにしては核汚染されたヘクスに留まるユニットが半永久的にその場に留まれるのは不思議だが・・・)。これらの兵器の破壊力は一見すると派手なのだが、通常戦闘でもユニットが次々と吹き飛ぶシステムなので、仮に大量破壊兵器を全力使用したとしても、それによる損害は通常戦闘の損害と比べれば「誤差の範囲」である。無論、戦局の決定的な場面で使用された大量破壊兵器は、戦局全体に無視できない影響を与えるが・・・。

本作の最大の魅力は多数用意されたシナリオだ。1945年の戦いと1989年の戦いが同じマップ上でプレイできるというのは素晴らしい。また1962年の東西対決など、今までゲーム化されたことがあっただろうか?。そういった意味で本作の価値は高い。私自身、機会があれば1945年シナリオなどをプレイしてみたいと思っている。

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