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Iron Curtain(以下、本作)は、SCSシリーズの1作で、西ドイツ周辺で起こり得た東西両陣営の直接対決を作戦レベルで再現した作品である。本作の特徴は、年代別にシナリオが複数用意されている事で、1945年、1962年、1975年、1983年、1989年の各シナリオの中から、好みの時代を選択してプレイできるようになっている。

これまでに 1962年シナリオの対人戦1989年シナリオのソロプレイ を紹介してきた。そこで今回はさらに別のシナリオを紹介しよう。

今回紹介するのは1983年シナリオ。本作の中では5つ設定されている年代のうち、4番目に新しい年代である。
1983年といえば、米国ではレーガン政権が生まれて3年目にあたり、600隻艦隊構想に代表される軍拡によってソ連との対立を深めつつあった時期でもある。一方のソ連側はブレジネフ体制で強化された核・非核戦力が文字通り最高潮の時期にあり、ソ連軍にとっては「最も輝いていた」時期でもあった。

このシナリオは。ジョン・ハケット将軍がその著書「第3次世界大戦」で描いた時期そのものといえる。ヴェトナムの泥沼から這い上がり、生まれ変わりつつあった米軍と、今や最高潮にあったソ連軍。世界大戦の危機が本当に高かった時期を描いたものである。

今回は対人戦。私はNATO側を担当した。

準備段階

これまでの2度の戦いを通じて私はいくつかの教訓を得ていた。

 (1) 後退無視地形(大都市、山岳)以外で守るのは徒に損害を増やすだけで足止め以外の意味はない。
 (2) 従って戦法は一撃離脱。通常移動・通常戦闘で敵を包囲殲滅した後、第2次移動で大都市や山岳へ籠る。決して前では守らない。
 (3) 自身が攻撃する際には、大都市や山岳に対する攻撃は必要な場合を除いて行わない。またもし大都市攻撃が必要な場合には、オーバーランを駆使して可能な限り速やかに落とす。その理由は、大都市・山岳では敵側が後退免除になるため、敵を完全に殲滅しない限り、攻撃部隊はその場で拘束されてしまう(ZOC内のユニットは第2次移動できない)。その結果、攻撃者が敵の包囲反撃にあってしまうからだ。
 (4) ヘリ部隊は極めて有能である。だから敵のヘリ部隊は最優先で撃破しなければならない。


上記方針に従い、RunUp(戦争準備)段階では、NATO軍は西ドイツ各地に展開している地上部隊を可能な限り大都市や山岳地帯に「避難」させ、これらを死守せんとした。また最前線には一部の部隊を除いてすべての部隊は大都市防御に投じられることになる。

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1Turn(X Day)

戦争が始まった。WTO軍は鉄のカーテンを超えて西側に侵攻する。空ではNATO機とWTO機による激しい制空戦闘。しかし航空戦力で優位に立つNATO軍は、戦場の制空権をガッチリ握って離さない。

TornadoADV


WTO軍は開戦当初から化学兵器をベルリン攻略戦に使用してきた。西ベルリンはWTO軍の猛攻を受けたが、西ベルリンを守るNATO軍部隊は辛くもそれを凌いだ
先にも書いた通り、NATO軍の主力は大都市に籠っているので、WTO軍は大都市に向けて攻撃を仕掛ける。ハンブルグ、ハノーバー、カッセル、ニュルンベルクがWTO軍の攻撃を受けたが、都市を守るNATO軍は強力であり、簡単には撃破できない。

NATO軍の反撃は大都市を攻めるソ連軍機甲部隊に対して指向された。大都市を包囲攻撃中のWTO軍部隊はNATO軍による側面からの反撃に対して頑強に抵抗することができず、次々と包囲撃破されていった。特にNATO側が優先的に狙ったのはWTO軍の攻撃ヘリ部隊で、航空戦力を主に対ヘリ攻撃に使用。それ以外でも不用意に前線に取り残されていた攻撃ヘリのスタックを包囲攻撃。このTurnだけで5個の攻撃ヘリ旅団を撃破した。
NATOは例の「一撃離脱」戦法を徹底。通常戦闘でWTO軍に一定の損害を与えた後は、後方に下がって大都市に籠る。

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2Turn(X+3 Day)

WTO軍は西側への侵攻を断念。攻撃目標を西ベルリン一本に絞り、残りは東ドイツ領内に後退していく。航空戦力も積極的な運用を行わず、NATO軍の航空戦力が戦場を支配する。WTO軍はNATO空軍機による損害を極限するため、部隊を散開させて対応する。西ベルリンに対する攻撃は今回も化学兵器を使用。2ヘクスの西ベルリンのうち、1か所をWTO軍が支配することに成功した。
NATO軍は西ベルリン付近に英空挺部隊を降下させた。化学兵器汚染地域に向けて前進する英空挺部隊。彼らの運命はWTO軍の包囲下で化学兵器の攻撃を受けて全滅するだけという過酷なものであったが、彼らは西ベルリンにおける友軍を助けるために敢えて過酷な運命を受け入れた。

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西ドイツ領内のNATO軍はWTO軍の後退を追って東ドイツ領内に逆侵攻・・・、はせず、あくまでも「一撃離脱」戦法に徹して前線に残ったWTO軍を個別に撃破していく。またWTO軍が攻勢に出てきているデンマークに対して増援部隊を投入。先行部隊として英独の攻撃ヘリ部隊をコペンハーゲンの守備に加わり、さらに西ドイツ軍の機甲旅団2個がユトランド半島に進んでいく。

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3Turn(X+6 Day)

デンマークでNATO軍が反撃に出る。WTO軍の機械化師団2個がコペンハーゲン周辺に展開していたが、それに対してNATO軍の攻撃ヘリ部隊(米英独)と西ドイツ軍機甲旅団が反撃を実施。これを撃破してデンマークに侵攻したWTO軍を一掃した。
西ベルリンでは新たな増援部隊としてフランス軍空挺部隊が西ベルリンの守備に投入された。彼らの過酷な運命については言うまでもない。そのせいもあってか、このTurnも西ベルリンは持ちこたえた。しかし西ベルリンで苦戦する友軍を後目に、NATO軍は相変わらずの「一撃離脱」戦法。これでは「苦戦する友軍を見捨てるのか」という世論が沸騰しそう。映画「遠すぎた橋」ではないが、前線では「なぜ救援に行かないのか」「上からの命令だから仕方がない」的な会話が会話が交わされていたのかもしれない。

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感想

時間の関係で今回はここまでとした。ここまでの所要時間はセットアップを含めて約8時間である。時間のかかった理由は、主に3つある。
1つはセットアップに時間がかかること。マルチシナリオゲームなので、ユニットを探し出さなければならず、それに時間がかかる。さらにセットアップシートも昔ながらの「ユニット名を羅列する」タイプ。最近のゲームでよくあるカラーのユニットリストのようではない。従ってユニットを探し出すのがより困難である。OCS等でも言えることだが、どうしてシナリオをこうも「読みにくい」ようにするのだろうか。カラーのセットアップシートをつけるだけでどれだけセットアップが楽になることか・・・。今回、セットアップに要した時間は2時間以上になった。
2つ目は、RunUpと呼ばれる事前手順が必要なことである。戦争が始まる前の両軍の事前準備を再現する手順だが、これが思いのほか時間がかかる。今回も1時間以上かかった。そんなこんなで、今回セットアップ開始が10時過ぎだったのが、実際にゲームを始めたのが午後2時少し前。休日の時間を潰すには少し痛い時間の長さである。
3つめの理由は、言うまでもなく各Turnでの所要時間が長いことにある。このゲーム、ルールは比較的シンプルなのだがユニット数が多く、考えることが多い。またシステム的な特性も大きい。ZOCが緩く攻撃側が有利なシステムなので、どんどん攻撃しなければ勝てない。そのため本来は守る側のNATO軍も攻撃に精を出すことになるが、その時戦闘比は3-1以上(地形効果がある場合は4-1以上)に持っていく必要がある。何故なら2-1以下の戦闘比では、後退の結果が得られない場合がある。もし後退せずに相手がその場に留まってしまったら、2次移動が使えないので、攻撃した部隊が「一撃離脱」できなくなる。そうなると今後は攻撃側が敵の包囲攻撃の餌食となってしまう。

「3-1,4-1以上の戦闘比で包囲攻撃をできるだけ多く実施する」

これが命題になるが、この命題をこなすためにパズル的な思考を要求されるため、その分時間がかかることになる。これはシステム特性上仕方がないが、正直、私がSCSなるシステムを好きになれない理由がここにある。

ともあれ、これで8本のシナリオのうち、3本を体験したことになる。あと5本。できれば1945年シナリオ等は試してみたい気がするが、果たしてどうだろう。時間を投入する価値が果たしてあるのか・・・。