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世の中に「第6艦隊」(Sixth Fleet)というタイトルのついたウォーゲームは、私の知る限り3つある。1つは1975年にStrategy & Tacitics誌75号の付録ゲームとして発表されたジェームズ・ダニガン氏デザインのゲーム。次は1985年に米Victory Games社から発売されたジョセフ・バルコスキ氏デザインのゲーム。そして最後が2019年にModerm War誌#41の付録ゲームとして発表されたジョセフ・ミランダ氏デザインの作品だ。今回紹介する「第6艦隊」は、最後に紹介したミランダ氏デザインのゲームを日本の国際通信社が2021年にライセンス発売した作品である。

本作の基本システムは、2008年にStrategy & Tactics誌の付録ゲームとして発売された近未来仮想戦ゲーム「Red Dragon Rising」(通称「レッドラ」、国際通信社からコマンドマガジン92号の付録ゲームとしてライセンス生産された)のシステムを使用している。このシステムを一言で言えば、「将棋のように両プレイヤーが一手ずつ刺し合う」システムである。すなわち両軍プレイヤーは提示されたいくつかの命令(艦戦移動、陸上移動といった一般的な命令の他、増援、補充といった兵站系の命令、コマンド攻撃や空挺作戦といった特殊作戦の命令等)の中から1つの命令を選択し、実行する。相手が1命令を実行したら、今度は自分が1命令を実行する。この組み合わせが1Turnとなり、それを複数Turn繰り返すことでゲームが進行していく。
レッドラシステムの特徴としては、基本システムを「軽く」デザインできるということ。兎に角命令を交互に繰り返すだけのエンジンなので、難しい理屈はいらない。難しいルールは全て命令の中に入れてしまえば良い。プレイヤーは命令を全て頭の中に入れておく必要はなく、何かをやりたいときに使える命令を探し出し、そのルールを読めば良い。無論ゲームの勝率を上げたければ、全ての命令を頭に入れて適材適所で使いこなしていく必要がある。
またレッドラシステムは応用範囲が広いという特徴もある。基本システムはシンプルながらも陸海空立体作戦を再現できるので。派生作品が数多く出版されている。私が過去にプレイした範囲に絞っても、近未来における日中の南西諸島争奪戦、フォークランド紛争、WW2における南東方面太平洋のキャンペーン、1940年のノルウェー侵攻作戦、台湾海峡を廻る中国国民党と同共産党の戦い等がある。

「第6艦隊」について説明すると、レッドラシステムをベースとしつつも、戦略的要地の支配によってアクション数を増やしたり(1Turnに2回以上命令が実行できるようになる)、ソ連軍の開戦奇襲を現すルールがあったりする。あと空母と艦載機が別ユニットになっているのも特徴といえる(他のゲームでも例はあるが)。あとシナリオが2種類あり、1970年代と1980年代を選択可能になっている。1970年代の場合、イージス艦や米アイオワ級戦艦は登場せず、同じくソ連のキエフ級空母やキーロフ級巡洋戦艦は登場しない。

本作を特徴づけているのは、戦略的要地に関するルールである。戦略的要地としてイスタンブール、キプロス島、クレタ島、マルタ島、西地中海が設定されているが、これらのエリアの支配や(西地中海については)潜水艦ユニットの有無によって勝利得点が得られたり、両軍の命令数が増減したりする。従ってこれらのエリアの支配がゲームの勝敗を分けるカギとなる。

我々がプレイした際の例を紹介しよう。ちなみに以下のプレイ例は両プレイヤーとも手探り状態でのプレイだったので、ベストムーブではないし、ルールミスもいくつかある。その点はご容赦頂きたい。プレイしたシナリオは1980年代で、私はNATO側を担当した。

序盤、ソ連軍はイスタンブール占領を目指して総攻撃を加える。イスタンブールにはトルコ軍の機械化旅団2個が展開していたが、度重なる空爆を受けてトルコ軍部隊は壊滅。イスタンブールはソ連軍の支配する所となる。

さらにソ連軍は地中海に展開していた主力艦隊でキプロス島に上陸作戦を敢行。同地を占領する。NATO側としては東地中海に展開中の米空母艦載機で攻撃したい所だが、艦載機だけによる攻撃は返り討ちにあう可能性が高いことと他にも優先度の高い仕事があったので、ソ連主力艦隊への攻撃は差し控える。

その優先度の高い仕事というのは西地中海の制圧。初期配置を間違えて対潜哨戒機を分散配置してしまったため、基地機の再配置その他で余計な手番を使ってしまったが、対潜哨戒機をイタリア半島に局所集中し、西地中海に対する対潜攻撃を繰り返した結果、第3Turnだか第4Turnだかにようやく西地中海のソ連潜水艦を一掃した。これによりNATO側が使える命令数が、毎Turn1個増えた。

そうこうしている間にソ連軍が「お試しに」とばかり長距離爆撃機を使ってクレタ島北方海域に展開中の米空母をミサイル攻撃。「バンパイア、バンパイア」と米空母が対応に追われる、はずだったが、そうはならない。局所集中した米空母の防空能力は凄まじく、バックファイア等のソ連軍長距離爆撃部隊は1発もミサイルを発射することなく海の藻屑と消えてしまう。これがレッドラシステムの恐ろしい所。局所集中した艦隊は無敵の存在なのだ。

あまりの出来事にショックを隠せないソ連軍プレイヤーであったが、気を取り直してクレタ島に強襲上陸。基地のルールを見落としていたのでクレタ島はソ連軍は無血占領した。これによって折角増えたNATO軍の命令数は、またもや1つ減ってしまう。
NATO軍はクレタに上陸したソ連軍海軍歩兵を空爆で吹き飛ばし(単独でいる地上部隊は艦載機で簡単に始末できる)、その後海兵旅団をクレタに上陸させた。そしてクレタ島の基地修理を試みるが、出目悪く失敗。そうこうしている間にクレタ島南東沖に展開中のソ連地中海艦隊がクレタ島の猛烈な艦砲射撃を浴びせてきた。クレタに上陸した米海兵隊は艦砲射撃を前にして空しく壊滅。クレタ奪回の夢は断たれてしまう・

その後NATOは増援を引いたり(空母が欲しかったが出なかった。その代わりイージス艦やアイオワ級戦艦が出てきた)、西地中海で暗躍するソ連潜水艦を小まめに沈めたり、そんなこんなでTurn数が過ぎていく。しかし第8Turn頃だったか、意を決して決戦を仕掛けることとし、西地中海のフランス艦隊をクレタ方面へ進出させる。途中でイタリア艦隊を拾った仏伊聯合艦隊がクレタ島近海に到着。ここで米空母2隻と合流し、圧倒的アルマダになった所で、クレタ島南東部のソ連艦隊に決戦を挑んだ。

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圧倒的兵力を誇るNATO艦隊。ダイス目はやや振るわないかったが、兵力差は如何ともし難い。ソ連艦隊は遂に壊滅し、地中海の制海権はNATOが握った。

その後NATO艦隊は無敵艦隊を率いてエーゲ海に進出。さらにトルコ海峡から黒海方面を伺うが、ここで無情のゲームオーバー。VPを数えると、42対34でNATO優勢であったが、勝利条件的には引き分けに終わった。

NATO側の反省点は決戦に挑むのが遅すぎたこと。西地中海の制圧が完了した後、増援を待たずに仏伊艦隊を東進させ、艦隊決戦を挑むのが正解だった思う。一旦ソ連地中海艦隊を壊滅させることができれば、空挺作戦でクレタ島を奪回し(事前の空爆でクレタ島の敵基地を破壊しておく)、アクション数を戻してエーゲ海侵攻するのが良いと思う。勝利得点的にはクレタ奪回だけでも勝てるのだが、イスタンブール奪回、周辺海域制圧まで行けば、勝利レベルをさらに上げる事が出来たと思う。

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ゲームとしての感想だが、レッドラシステム共通の難点として「極端に有利な大艦隊主義」が挙げられる。戦力の集中は戦いの原則だから集中が有利なのは理解できる。しかし兵站面や指揮統制面、さらに現代戦では核兵器対策という面からも過剰な兵力集中は必ずしも有利ではない、というのが定説になっている。実際に現代海戦を扱った多くのゲームでは、そのことを反映し、過剰なスタックを禁止するルールが用意されている。
しかし本作の場合、スタック制限に関する制限がないため、艦隊を局所集中するのが有利となる。さらには移動についても艦隊を集めた方が有利なので、「とにかく艦隊を集める」という展開になりやすい。勝利条件その他で兵力集中を抑制する部分がない訳ではないが、それとて「兵力集中が有利なはずだけど、集中する暇がないだけ」という消極的な理由で集中しないだけである。リデル・ハートが唱えた間接アプローチを実現するための兵力分散ではない。つまり戦略モデルがあまりに単純化され過ぎて戦略ゲームとしても面白さがスポイルされてしまったいる感がある。

「そうか、わかったぞ」

このゲームをプレイした時、今から30年ほど前にHarpoon Captains Edtionというゲームをプレイした時と同じような感覚が蘇ったのだが、システムも戦場の異なる2つのゲームで感じた奇妙なデジャブの理由が。
両方のゲームとも戦略が狭いのだ。兵力集中。それが全てなのだ。多様な海軍作戦を実施するために兵力を展開させる。あるいは相手側の兵力分散を強いるために積極的に兵力分散する。そういった戦略を取る意味が見いだせないのだ。

とはいえ、今回のプレイでは両プレイヤーともポカミスが多く、またベストな戦略ではなかった。ルールミスもあったことは否めない。そういった意味で両陣営が「よりマシな」戦い方をすれば、また違った側面が見えてくるかもしれない。
そういった意味では、もう一度ぐらいプレイしてみたい気持ちもある。