もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:戦史 > 第3次世界大戦

TheBattlefortheBalkans表紙

The DoomsDay Project Episode 2(以下、本作)は、CompassGamesが2021年に発表したSLGである。テーマは1985年を想定した東西両陣営の直接軍事対決で、実際には発生しなかった史実に基づいている。

前回までの展開は --> こちら



シナリオ4.四季ある土地へ

翌日は参加者が1名減って3名となったので、シナリオ4「四季ある土地」をプレイすることにした。1名はWPを担当、残り2名はNATOのそれぞれギリシア軍、トルコ軍を担当する。筆者はトルコ軍を担当する。
このシナリオは、トルコ、ギリシア戦線のみを切り取った中規模キャンペーンシナリオである。シナリオの長さは全14Turn。使用するマップは、最南端部に相当するギリシア・トルコマップのみ。
WP軍は、当初はブルガリア、ルーマニア、ユーゴスラビアの各国が登場し、後に本命ともいうべきソ連軍が登場する。NATO軍はトルコ軍とギリシア軍が登場し、さらに第3Turnからはアメリカ海軍の第6艦隊の空母艦載機が登場する。前回のシナリオでもそうだったが、米第6艦隊の空母艦載機はNATO側では最強の航空兵力であり、その登場はバルカン半島における航空戦力のバランスを一変する力を持っている。

ちなみに前回のプレイで重大なミスが判明した。というのも、トルコ・ブルガリア国境付近にWP軍の補給拠点があり、WP軍増援部隊のエントリーポイントになっているのだが、そこから1Hex以内はNATO軍ユニットが進入できないという特別ルールがあったのだ。

写真05


前回のプレイではそのルールを失念していたので、トルコ軍の1部隊がこのHexを押さえてWP軍の増援部隊登場を阻止していた。そのためWP軍増援部隊は遠くルーマニア国境付近から時間をかけてトルコ戦線に送られてくる羽目になっていた。
しかし上記ルールによりトルコ軍によるWP側増援登場Hexを押さえることは不可能となってしまった。これにより初期配置に弱点のあるNATO側は、いきなり窮地に立たされることになる。

写真06


1Turn

第1Turn特別ルールによりソ連軍特殊部隊スペツナツが降下してきた。狙いはクルクラーレリ、リュレブルガズといった東トラキア地方における大都市である。大都市を狙ったのは、トルコ軍の布陣を妨害するという意味もあるが、それ以上に大都市を戦場にすることによりNATO側の避難民を発生させてNATOの補給に負荷をかけるという意味もあった。

写真07


さらにソ連軍のヘリボーン部隊がエーゲ海沿岸に近い都市チョルルを占領。ブリガリア国境地帯からはブルガリア軍第3軍の機械化部隊が黒海沿岸を南下してきて、東トラキア地方に進入する。このためトルコ・ギリシア国境付近に布陣していたトルコ軍3個師団が後方遮断の危機に陥る。トルコ軍は予備移動で第8歩兵師団を出動。
リュレブルガズのスペツナツを撃破し、エーゲ海沿岸地帯に沿って薄い戦線を引く。

写真08


2Turn

さらに南下してきたブルガリア軍。それに対してトルコ軍はギリシア・トルコ国境付近に布陣していた3個師団のうち、何とか2個師団について連絡線を回復してイスタンブール方面に向けて後退させる。残り1個師団(第2歩兵師団)は後退を諦め、その場に留まって抵抗を続ける。

後退したトルコ軍2個師団(第3機械化師団、第4歩兵師団)と、後退援護のトルコ軍約4個師団がリュレブルガズ~チョルル付近にまで進出してきたブルガリア軍を包囲攻撃。しかし戦闘の出目が最悪で戦果なし。うぐぐ。

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3Turn

米空母登場。これでNATO側が制空権を確保した。WP軍は戦局を挽回すべくNATO側のインフラ網に対して化学兵器を使用した攻撃を実施。一部は有効打となりNATO側インフラの一部が破壊されてしまう。非道な奴らめ。

トルコ戦線ではブルガリア軍、ソ連軍の増援部隊が現れ、東トラキア地方を南下する。そしてリュレブルガズ~チョルル付近で包囲されているブリガリア軍を救援すべく包囲中のトルコ軍を攻撃する。ブルガリア軍のSu-25が航空支援のために出撃してきたが、米空母を発進したF-14がSu-25を撃墜した。ブルガリア軍の攻撃も失敗し、ブルガリア軍は大きな損害を被った。

写真10


今回も結局第3Turnまでプレイし、この時点で時間切れで終了となった。

写真11


感想

まず自身が担当したトルコ戦線について。
ギリシア国境に配置されているトルコ軍3個師団は、そのまま放置するとWP軍に後退路を断たれて壊滅してしまう。それを避けるためには完全に分断される前に可能な限り後退させてイスタンブール方面に収容するしかない。今回は3個師団中2個師団を戦線に収容でき、このためイスタンブール方面の守りを固めることができた。しかし、もし兵力の集中に失敗した場合、イスタンブール方面を守る兵力がかなり苦しくなる可能性がある。WP側の戦略としては、上記トルコ軍3個師団の後方を速やかに遮断し、その退路を断つのが良いのではないだろうか。そのためのチャンスが第1Turn、第2Turnの僅か2Turnしかないのが苦しい所だが、もしトルコ軍の戦線を分断できれば、可能性はあると思う。

とはいえ、このシナリオ、WP側が苦しいのは間違いないようだ。NATO側は旅団規模のユニットなのでユニット数が多く、WP側は師団規模なのでその逆である。このゲーム、戦闘の勝敗は関連するユニット数の大小に関わる部分が大きく、その点でユニット数の少ないWP側は打つ手が少ない。今回のプレイでもゲーム中盤のWP側は、戦線構築を半ば諦めて攻勢軸に攻撃兵力を集中投入してきた。NATO側もLOCによって機動を制約されるので、自由に戦線後方を襲撃できる訳ではないが、戦線を張れないことはWP側にとって弱点となりそうだ。

プレイをしてみての感想だが、戦闘解決に手間がかかりすぎる感は否めない。1回の戦闘解決で下手をすれば両軍合わせて10回以上ダイスを振り合う。1Turn1日の戦術作戦級ゲームとはいえ、そこまで戦闘解決の手間を増やすのも如何なものかな、と思う。案の定、今回も7時間ほどプレイしたが、3Turnまでしか進まなかった。シナリオ全体では14Turnもあるので、事実上完遂するのは不可能に近いと思う。

あと気になったのは、例外事項ともいうべきルールの多いことだ。最悪と思われるのが指揮官ルールで、指揮官の性格(積極性によって5段階に分かれる)によって活性化できるユニット数や戦闘修正が事細かく変化するのだが、正直面倒な上にわかりにくい。さらにルールの記載とチャートに矛盾があり、プレイ中に混乱を招くもとになっている。
戦闘時に適用される特殊イベントも効果が大きすぎて意味不明。大都市を防御していた部隊がいきなり「道に迷って」いなくなってしまうとか、いったい何をシミュレーションしたいのか意味不明である。しかも英文の書き方が曖昧でプレイの際に揉める要因ともなる。ただでさえ複雑で特殊な概念のゲームなのに、何を好んで「屋上に屋を架す」ような真似をするのか、全く理解できない。
このような特殊ルールは、前作Episode 1でもあったのだが、Episode 2でさらに過激になっている。筆者としてはEpisode 1でも面倒だったこれら特殊ルールを、さらに細かくする必要があるのかと疑問を禁じ得ない。
このデザイナー、こんな変な特殊ルールをつけるのが好きなようで、本人はニヤニヤしながらルールを作っているのかもしれないが、プレイする側は白ける。

とまあ色々書いたが、褒めるべき点もある。まずはシステムが同時進行を意識したものになっていて、現代戦らしい機動戦がさりげなく再現されているところだ。このシークエンスは秀逸なので、是非他のゲームにも生かしてほしい所だ。
航空戦ルールもやや複雑すぎるような気がしないでもないが、現代航空戦の雰囲気は良く出ている。地対地ミサイル攻撃等もあって盛り上がるのは良い点だ。まあ、1Turn1日の戦術作戦級ゲームで、航空戦や地対地ミサイルをここまで細かくプレイする必要があるかどうかは不明だが、デザイナーとしては拘りたい所なのであろう。理解できる。

総じて言えば、本作は決して悪いゲームではなく、プレイして楽しいゲームであることは確かだ。そういった意味でいわゆる「クソゲー」ではない。ただし細かいルールが多すぎ、プレイの爽快感を阻害しているのは確かだ。しかも今回のEpisode 2で行われた様々な改定は、「改悪」の部分が多いように思う。

「もう1度プレイしましょう」
と誘われても、丁重にお断りしたい作品である。

トルコF4E


TheBattlefortheBalkans表紙

The DoomsDay Project Episode 2(以下、本作)は、CompassGamesが2023年に発表したSLGである。テーマは1985年を想定した東西両陣営の直接軍事対決で、実際には発生しなかった史実に基づいている。
この手のゲームは1980年代に数多く出版されたが、1989年の冷戦終結、1991年のソヴィエト連邦崩壊により東西両陣営の対決自体が「嘘くさい」設定になったため(我々人類にとっては慶賀なことである)、1990年代に入ると出版数が激減した(これにはウォーゲームブーム自体の終焉も影響があると考える)。
この種のテーマが再び注目され始めたのは2010年代後半からである。アメリカを中心とする西側諸国と中露等との対立(朝鮮半島ミサイル・クライシスがあったのもこの時期)が顕在化し、冷戦終了時に描いた平和な世界の幻想が崩れ始めた時期と重なる。この種の作品は、過去作品のリメイクという形式のものと、完全な新作で設定のみを過去の仮想歴史から持ってきているものの2種類がある。前者の例としては、CompassGamesの「NATO」や「The Third World War」等があり、また後者の例としては、MMPの「Iron Curtain」、GMTの「Blue Water Navy」や「Red Storm」、CompassGames社の「The Fulda Gap」等がある。今回紹介する「The DoomsDay Project Ep.2」は後者に属する新作グループのゲームである。
本作の紹介に入る前にThe DoomsDay Projectシリーズの内容について説明したい。このゲームシリーズは1985年に想定される東西両陣営による欧州大陸における直接対決をテーマとしたSLGである。ヘクス・ターン方式の典型的なウォーゲームで、1Hex=12km、1Turn=1日、1ユニット=連隊、旅団、師団(一部大隊規模)または飛行隊規模の航空機を表す。基本システムについては 以前の記事で紹介済 なので簡単に説明すると、司令部を活性化して麾下のユニットを活性化し、その単位で移動、攻撃を繰り返すというもの。ただしGame Journalの「激闘システム」とは異なり、1ユニットは原則1Turnに1度しか活性化できない(「激闘システム」では司令部の活性化に合わせて特定のユニットが1Turnに何度も活性化できる)。また司令部の活性化はランダムではなく、プレイヤーが望む順番に実施できる。さらにTurn構成もWP側とNATO側のプレイヤーターンに分かれているので、基本的には「I GO YOU GO」システムと言える。

今回プレイしたEpisode 2は、その名の通りシリーズ第2作目。イタリア、オーストリア、ユーゴスラビア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、ギリシア、トルコといった南欧一帯での戦いを扱う。WP陣営にとっては戦線南翼を形成する重要地域であり、さらに主戦線であるドイツ方面へのNATO側の戦力抽出を妨害するといった意味もある。



シナリオ5.バルカン半島の戦い

本作には計6本のシナリオが用意されているが、今回最初にプレイしたのは、シナリオ5.「バルカン戦争」である。このシナリオは、本作に含まれるすべてのマップを使用する大規模なもので、マップを広げると、アルプス山脈から南はトルコのイスタンブールまでの広大な地域が広がる。

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今回、私はバルカン方面(ギリシア、トルコ軍)を担当した。この方面の主敵はブルガリア軍、ルーマニア軍、そしてユーゴスラビア軍である。同じCompassGamesのWW3ゲーム「The Third World War」では、ユーゴスラビアは西側寄りの中立国という位置づけになっているが、本作ではWP側についている。このあたりの歴史解釈については、本作では意図的にソ連側に有利な状況に至ったと仮想設定している。

下図は第1Turn終了時のイスタンブール周辺の状況である。地図の右上部分、ブルガリア、トルコ国境付近が地図に含まれていないことがわかる。そのためにWP軍はイスタンブールへの最接近経路を使えず、わざわざトルコ・ギリシア国境付近からのトルコ領内進入を余儀なくされている。このためWP軍はこのあと大苦戦することになるのだが、実はこれはルールミスであった。そのことについては後に説明する。

写真01


こちらはギリシア方面である。右上付近に青い駒が集結しているのがテッサロニキである。ギリシア第2の都市で、マケドニア地方の中心都市でもある。そこにオレンジの駒が近づいてきているが、これはユーゴスラビアのパルチザン部隊である。

写真02


全般的な戦局としては、トルコ方面では国境線付近をトルコ軍がガッチリ固めているので、WP軍は突破口を形成できていない。ギリシア方面では、WP軍部隊がテッサロニキ付近に進出してきたため、東マケドニア地方一帯のギリシア軍が連絡線切れになってしまう。連絡線が切れると活性化ができなくなるが、1Turn1日スケールのゲームにしては連絡線遮断の影響が大き過ぎるように思う(空挺や特殊部隊で簡単に連絡線が切られるので)。ドイツの場合は、道路網が縦横に走っていて連絡線が切られること自体が少なかったが、本作では道路網が貧弱なため(特にギリシア側は)結構簡単に連絡線が切られてしまう。
下図は第2Turn終了時点での状況である。

写真03


第3Turnに入ると米空母部隊が登場。航空戦力ではNATO側が上回るようになる。今回は結局時間の関係もあって第3Turn途中で一旦お開きとした。

写真04


この時点での感想としては、ルールブックはわかりにくいけど慣れればプレイできる感じ。航空戦やミサイル戦などの要素も含んでいて、そこそこ面白いゲームではないか、という所であった。

つづく

トルコM60A3


NATO表紙


CompassGamesの「NATO: The Cold War Goes Hot - Designer Signature Edition 」(以下、本作)は、2021年に米国CompassGames社から発売されたSLGである。テーマは冷戦時代に欧州正面で想定されていた東西両陣営の直接軍事対決。設定年代は1983年と1988年の2種類があり、後者の方がNATOにとって有利である。

今回、「戦略的奇襲シナリオ」の1988年版をプレイしてみた。これはWP側が何の前触れもなくいきなり西ドイツに侵攻してくるというNATO側にとっては悪夢のようなシナリオである。しかしWP側も十分な準備をしないまま攻勢を仕掛けたので、兵力が十分ではない。果たして勝利を収めるのはどちらか?

今回、私はNATO側を担当した。

前回までのあらすじは --> こちら

5Turn

WP側手番

WP軍も今までのような全正面を対象とした広域攻撃を行うような兵力の余裕はなくなってきた。そこで攻撃をウェーザー川上流部のミンデン以南に絞り、ルール工業地帯に向けた最短距離でライン川目指した。

NATO軍はドムトムント前面とフランクフルト前面を最重要地点とみて航空兵力を投入。WP軍の阻止を図る。
激しい戦い。例によって両軍共損害を強いられ、NATO軍も一部で後退を余儀なくされたものの、最重要のフランクフルトは守り切った。

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NATO手番

WP軍が兵力をドイツ中南部にシフトしてきたので、手薄になった北ドイツ平原でNATO軍が反撃に転じてきた。
ウェザー川西岸に布陣していたオランダ第1軍がウェザー川を渡河し、対岸に布陣するソ連第16戦車師団を包囲攻撃する。既にステップロスしていたソ連軍戦車師団は、オランダ軍の猛攻を支えきれずに壊滅。これによりNATO軍は、ハンブルクとブレーメンの間の連絡線を再確保した。

さらにその南では、イギリス第1軍団がウェーザー川越えにソ連第32親衛戦車師団を攻撃した。こちらも既にステップロスしている上、航空攻撃によって弱体化していたため英軍の攻撃に抗しきれず壊滅する。

写真19


西ドイツ軍もミンデン南方での反撃に成功させ、

その南では、最前線に登場してきたフランス軍は、ルール工業地帯東方の高地帯で3個師団を投入して反撃を実施。東ドイツ軍第7戦車師団を撃破した。

写真20


南部では、マンハイム東方30マイルまで迫ってきたソ連第31戦車師団(10-6-6)に対して、米第8機械化歩兵師団を主力とする米軍が包囲攻撃。米軍は化学兵器でソ連軍を弱体化させた後、集中攻撃を加えてこれに大損害を与えた。

写真21


6Turn

WP側手番

NATO軍による北ドイツ平原での反撃が功を奏した。WP軍はユトランド半島を前進中の部隊に後退を命じ、ミンデン、ハノーヴァー付近のWP軍を北上せしめて防衛ラインを敷く。さらにデンマークのコペンハーゲンを包囲中であったWP軍のヘリボーン部隊と海兵隊を東ドイツへ後退させて予備兵力とした。

それでもWP軍は南ドイツで進撃を継続する。WP軍は空挺部隊2個を投入してフランクフルトに対する再度の攻撃を試みる。空挺部隊の1部隊は途中で撃墜されたものの、もう1部隊は降下に成功した。

NATO軍はフランクフルトを最重要拠点とみなし、その前面に防御支援の航空兵力を集中する。さらに米軍のヘリ部隊も投入してフランクルト死守を図る。フランクフルトの戦いはギリギリで米軍が勝利し、フランクフルトを守り切った。

写真22


NATO手番

フランクフルト前面に展開中のWP軍4個戦車師団に対し、米軍とフランス軍が反撃を仕掛ける。北からはフランス軍が攻撃し、南側からは米軍が攻撃する。一連の攻撃で、フランクフルト前面にいたWP軍4個師団は、1個師団を残して壊滅。さらにフランクフルト南西に降下したポーランド軍空挺部隊も米軍部隊の反撃により壊滅してしまう。

この段階でWP側は突破力を失ったと判断。WP軍の投了でゲーム終了となった。

写真23


感想

プレイ時間は2日間でトータル14時間ぐらいであった。基本ルールはシンプルだが、対応移動や化学兵器、航空攻撃等でテクニカルな部分が多く、ルールも多いのでそれなりに難易度は高い。中級から上級の間ぐらいか。

ゲームとしては面白い。駒数が多いのでプレイ時間はそこそこかかるが、指揮系統のルールが比較的シンプルなので、部隊運用で細かい制約に悩むことは少ない。ただ、NATO側の国籍制限が厳しいので、その点はややストレスが溜るかもしれない。この戦略奇襲シナリオは、WP軍が様々な面で優遇されているので、序盤はWP側の一方的な展開となる。そのような状況下でNATO軍としては如何にして反撃の機会を掴み、そして主導権を奪い返すかが腕の見せ所と言えよう。

今回のプレイでもお互いにいくつかルールミスがあった。例えば避難民の影響についてはNATO側が完全に無視していたので、戦略移動について実際よりも多く移動できたきらいはある。逆に都市を巡る戦闘では、戦車師団の戦力を半減せねばならない所を、半減し忘れていた部分がある。例えば最終Turnのフランクフルトを巡る戦い等がそれで、あとで戦闘比を計算し直したら、戦闘比は1-3となり、WP側にとっては完全に勝ち目がない戦いであることが判明した。

今回を含めてこれまでは2度「戦略的奇襲シナリオ」をプレイしてみた。このシナリオは面白いのだが、NATO側としてはややフラストレーションがたまるシナリオでもある。機会があれば、別のシナリオ(例えば「神経戦」)等もプレイしてみたいと思う。

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NATO表紙


CompassGamesの「NATO: The Cold War Goes Hot - Designer Signature Edition 」(以下、本作)は、2021年に米国CompassGames社から発売されたSLGである。テーマは冷戦時代に欧州正面で想定されていた東西両陣営の直接軍事対決。設定年代は1983年と1988年の2種類があり、後者の方がNATOにとって有利である。

今回、「戦略的奇襲シナリオ」の1988年版をプレイしてみた。これはWP側が何の前触れもなくいきなり西ドイツに侵攻してくるというNATO側にとっては悪夢のようなシナリオである。しかしWP側も十分な準備をしないまま攻勢を仕掛けたので、兵力が十分ではない。果たして勝利を収めるのはどちらか?

今回、私はNATO側を担当した。

前回までのあらすじは --> こちら

2Turn

WP側手番

デンマークでは、首都コペンハーゲンにデンマーク軍2機械化旅団が入城した。これでコペンハーゲンが簡単に落ちることはないだろう。それでもWP側は航空兵力を投入して強引にコペンハーゲンを攻撃したが、所詮は軽装備の海兵隊と空挺部隊である。正規の機甲旅団であるデンマーク軍を撃破できる筈もなかった。

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西ドイツ領内でも防御を固めたNATO側の前線に対してWP軍はさらなる猛攻を加えてきた。例によって化学兵器と航空部隊が大量投入されたが、序盤の混乱から立ち直りつつあるNATO軍は化学兵器に対する抵抗力を増していた。また制空権もNATO側が早くも取り戻しつつあった。その状況を打開するため、西ドイツ各地のNATO側航空基地に対してソ連軍は中短距離弾道ミサイルに搭載した化学兵器を大量に散布し、相応の成果を得た。(2航空ポイント減少)

写真08_除染訓練


北ドイツ平原では、ハンブルクとブレーメンの間に布陣したオランダ、イギリス連合部隊が、WP第20親衛軍の3個戦車師団の猛攻を受けて後退を余儀なくされた。これでハンブルクとブレーメンの連絡線は遮断され、ユトランド半島とドイツ本土は事実上分断された。

写真09


ハノーヴァーの南北では、英軍部隊とベルギー軍部隊がWP第2親衛戦車軍と第3打撃軍の攻撃を受けて後退を余儀なくされた。これによりハノーヴァーは事実上孤立する。

写真10


NATO手番

北ドイツ平原では、ハンブルクへの連絡線回復は諦め、オランダ第1軍団はブレーメン以北のウェーザー川沿いに布陣した。その南ではハノーヴァを事実上放棄。撤退を諦めた米軍の第2機甲師団の戦車連隊を残し、残りはハノーヴァの西方に後退した。

フルダギャップ南部では、米軍第3機甲師団、第11装甲騎兵連隊等が突出してきたソ連軍戦車連隊(2-2-6)を包囲攻撃し、これを殲滅した。

写真11


3Turn

WP側手番

NATO軍の航空戦力が初めてWP軍を上回った。NATO軍が制空権を確保したのか?。ウェーザー川に突進するソ連軍、さらにニュールンベルグに集中攻撃を加えるソ連軍に対し、NATOの航空部隊が激しい攻撃を加えた。

A10


航空部隊の奮戦もあってウェーザー川防衛ラインは陥落せず。要域ブレーメンを守るオランダ軍部隊もWP側の猛攻を耐えた。ただし南方のニュールンベルグが陥落した。

写真12


NATO手番

兵力不足に苦しむNATO軍は、新たに前線に加わったフランス軍第1軍団を前線に投入した。わずか3個師団の小兵力だが、ないよりマシだ。早速フランス軍には、フルダギャップ、西ドイツ軍と米第5軍団の間隙に布陣させた。

写真13


そしてNATO軍は初めて本格的な反撃を行った。まず南方フルダ渓谷では、米第5軍団が東ドイツ第7戦車師団(8-5-6)を攻撃。航空機と化学兵器の支援を受けて同部隊を半減せしめた。

北方では、WP軍のスピアヘッドであったソ連第12親衛戦車師団(10-6-6)がウェザー側のすぐ手前まで進出。それに対してNATO軍は航空戦力を集中してこれを叩く。まず航空攻撃により戦力半減、混乱状態とした所で、オランダ第1軍団の4個旅団が包囲攻撃。第12親衛戦車師団を完全に撃滅した。これはWP軍にとっては初の師団規模部隊の壊滅であった。

写真14


4Turn

WP側手番

航空戦のダイスが1である。NATO側にとっては最低の出目だ。航空戦力の優越がNATO側のバックボーンになるので、航空戦力の出目が悪いのはちょっと痛い。

F15C


ここで本作の航空戦システムを説明しておこう。
本作での航空戦力は「航空ポイント」の形で与えられる。航空ポイントには、戦術航空ポイントと作戦航空ポイントの2種類があり、毎Turn開始時にダイスを振って両陣営が使用できる航空ポイントを決定する。航空ポイントの使用方法は、敵ユニットに対する直接攻撃で、結構強力である。例えば平地にいる無傷のソ連軍戦車師団を目標に爆撃を実施した場合、平均して0.67ステップが失われ、97%の確率で目標が混乱状態になる。これが例えば森に潜むNATO軍1個旅団を目標とすると、損害平均が0.17ステップ、67%の確率で混乱状態になる。平地で進撃するソ連戦車部隊が如何に航空攻撃に脆いか、おわかり頂けたと思う。

Su24


航空ポイントの量はダイスで決まるが、ダイスが小さいとWP側が有利、逆だとNATOが有利になる。例えば最もNATOが有利な出目の場合、NATO側が使用できる航空ポイントは計8ポイントに対し、WP側が使用できる航空ポイントは5ポイントとなる(戦略級シナリオの中盤戦の場合)。逆の場合は6対7なので、出目の差は結構大きい。

EF-111A_Raven


なお、記事の冒頭で化学兵器をNATO側飛行場に撃ち込む描写があったが、化学兵器を使ったNATO航空基地に対する直接攻撃もしっかりルール化されている。これは、化学兵器を1ポイント使用することで、NATO側が使用できる航空ポイント数が最大2ポイント減少するというもの。NATO側にとっては踏んだり蹴ったりだが、それでもVictory Games版では、WP側が化学兵器使用を宣言するだけでNATO側の航空ポイントが半減したので、それに比べればまだマシだと思える。ちなみにこのTurn、WP側はNATO航空戦力に対して化学兵器攻撃を仕掛けてきたものの、WP側の出目が悪かったので航空戦力に被害はなかった。助かり・・・。

WP軍はフルダ地区で空挺部隊による奇襲攻撃を仕掛けてきた。しかしNATO側戦闘機が事前にこれを発見。空中戦で撃墜したので、事なきを得た。(出目4で撃墜)

写真15


WP軍は攻撃の主軸を北ドイツ平原からその南、ミンデン、ビーレフェルト付近の西ドイツ軍に向けてきた。NATO側も防御航空支援を同方面に集中して迎え撃つ。NATO側を損害を出して一部後退を余儀なくされたが、WP側機械化部隊にも相応の損害を与えた。もう今までのように一方的にやられっ放しじゃないぞ。

写真16


一方、さらにその南、ニュールンベルグ付近では後退戦闘中の西ドイツ軍部隊をチェコ方面軍が追撃。米軍と西ドイツ軍各1ユニットが壊滅してしまう。局所的には未だに劣勢を覆い隠せないNATO軍であった。

NATO手番

NATO軍は戦線が拡大し反撃兵力の捻出が困難なので、部分的に戦線を後退させて戦線を整理した。反撃は専ら航空戦力を以て行う。狙い目は平地に展開するWP側のスタックだが、WP側もさるもの。条件に当てはまるスタックはそれほど多くはない。そこで最前線に前進している無傷のソ連戦車師団を次の目標として対地攻撃を行う。
一連の航空攻撃でWP軍2ステップを撃破し、戦車3個師団相当を混乱状態とした。

写真17


つづく



NATO表紙


CompassGamesの「NATO: The Cold War Goes Hot - Designer Signature Edition 」(以下、本作)は、2021年に米国CompassGames社から発売されたSLGである。テーマは冷戦時代に欧州正面で想定されていた東西両陣営の直接軍事対決。設定年代は1983年と1988年の2種類があり、後者の方がNATOにとって有利である。

本作は、元々1983年に米国Victory Games社から発売されていた「NATO: The Next War in Europe」(以下、旧作)を元に、同じデザイナーが約40年の時を経て再び出版した作品である。1Turnは実際の1日、1Hexは15マイルで、1ユニットは連隊、旅団、師団規模になっている。1Turnのスケールは旧作が2日だったので、その半分になっている。その他のスケールは旧作との違いはないが、旧作は1ユニット=1個師団であったNATO側が、1ユニット=1個旅団となり、NATO側の駒数が大幅に増えた。

基本的な進め方は旧作と変わりはなく、移動、戦闘を繰り返す方式である。予備移動といって予備指定したユニットが移動力の半分までを使って戦闘終了後に移動できるルールが追加になったぐらい。また航空攻撃のルールも旧作から大きくは変わっていない。

旧作から大きく変化したのは、まず化学兵器である。旧作では単なるコラムシフトに過ぎなかった化学兵器が(それでも上手く使えば相当な打撃が期待できるが・・・)、新作では目標Hex内の敵ユニットを直接攻撃できるようになった。これはNATO側の後衛地隊を攻撃して対応移動を妨害する際に威力を発揮する。さらに化学兵器にはある程度の持続性があり、化学兵器が散布されたヘクスでは敵味方問わずその移動を妨害する。だからWP側が散布した化学兵器のため、WP側自身がその前進を阻まれるような事態も起こり得る。また化学兵器の中には持続性の強いものもあり、例えば強持続性化学兵器をデンマークへの橋梁地域に散布すると、デンマークの島嶼部とユトランド半島との間の連絡を阻害することができる。序に言うとNATO軍の中でも米軍は化学戦能力があり、米軍が化学兵器でWP側を攻撃することも可能である。

話は少し戻るが、移動、戦闘システムについて、今回加わった概念に対応移動がある。これは攻撃目標に隣接するユニットが戦闘時に攻撃目標ヘクスにはせ参じて防御戦闘に参加すること。これはNATO側にとって防御の切り札となり得るルールで、逆にWP側はNATO側の反応移動を阻むため、航空攻撃や毒ガス攻撃を全縦深に叩き込むことになる。このあたりの展開は現代戦っぽさが出ていて興味深い。

今回、「戦略的奇襲シナリオ」の1988年版をプレイしてみた。これはWP側が何の前触れもなくいきなり西ドイツに侵攻してくるというNATO側にとっては悪夢のようなシナリオである。しかしWP側も十分な準備をしないまま攻勢を仕掛けたので、兵力が十分ではない。果たして勝利を収めるのはどちらか?

今回、私はNATO側を担当した。

写真00


事前移動

このゲーム、WP側の侵攻開始前にNATO側が前進配備を実施できる。前進配備の方法は、西ドイツ、アメリカ、イギリス、オランダ、ベルギーの順番でそれぞれダイスを1個振り、対応する各国のユニットが出目の移動力分移動できるというもの。ただし、固有の移動力を超過した移動はできない。またあくまでも前進配備なので、国境から離れるような移動は禁止されている。さらにダイスチェックは、各国の移動を行う直前に実施する必要があり、それぞれ国別に移動を完了させてから次の国をチェックする方式となっている。つまり西ドイツ軍のユニットは、他国のユニットがどの程度前進できるかを判断する前に移動を完了しておく必要があるのだ。

今回NATO側の前進移動ダイスは平均よりやや悪いぐらい。ただし悲観するような値ではなく、十分に前線を再構築することができた。今回の布陣は、部隊を散開させず、可能な限りスタックして守らせた。その意図は、バラバラに配置した場合、強力なWP側戦車師団によって各個撃破されることを恐れたからである。 スタックを組んで守らせたが、

果たしてNATO側の意図は吉とでるか、凶と出るか。

写真01
写真02

1Turn

WP側手番

1988年5月12日。突然戦争が始まった。
世界は驚愕した。昨日までの平和な生活は一瞬で失われた。ワルシャワ条約機構(以下、WP)の攻撃機とミサイル多数が、西ドイツ、デンマーク、イタリア、ベルギー、オランダ、ノルウェー、そしてイギリス本土上空に飛来した。いくつかの街は炎に包まれた。その炎に放射性物質が含まれていなかったのは、不幸中の幸いというべきか。

主戦場となった東西ドイツ国境地帯では、WP軍の前線砲兵部隊が激しい砲撃を浴びせかけた後、戦車部隊が国境線を超えて西ドイツ領内に突進していく。その後方からは歩兵戦闘車に乗車した歩兵が続く。

戦況は全般にNATO側に不利であった。
WP側は序盤から大量の化学兵器(毒ガス)を使用し、NATO側を混乱に陥れたのである。NATO側で化学兵器による反撃が可能なのは米軍部隊のみ。米軍部隊も即座に化学兵器による反撃を実施したが、その効果はWP側の化学兵器戦力に及ばなかった。

さらに序盤に制空権を握ったWP側航空部隊が密集隊形のNATO軍部隊に対して好餌とばかり猛爆撃を加える。WP側はNATOに比べて精密誘導兵器の配備が遅れていたので、航空攻撃の主役は通常型の無誘導爆弾やロケット弾が主体であった。そのためその多くがNATO側防空部隊の犠牲になったが、それでも数をものを言わせたWP側航空部隊は、繰り返しNATO側地上部隊を叩いた。

無論、NATO側もやられっ放しではない。前線航空部隊を出撃させ、密集隊形で進んでくるWP側戦車部隊をA-10サンダーボルトが叩く。ソ連第90親衛戦車師団(10-6-6)が米軍機の攻撃により戦力の半数を失い、バルト正面軍に所属する1個戦車連隊は、西ドイツ空軍機の攻撃で事実上壊滅した。

北ドイツ平原では、ハンブルク南方で西ドイツ軍第3装甲師団の主力を撃破したWP軍第20軍団が国境から30マイル(2Hex)の線まで進出した。その南では、西ドイツ第1装甲師団を撃破したWP軍第3打撃軍が、要域ハノーヴァーに近づく。

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フルダ正面では、米第3機甲師団がWP第8親衛軍の攻撃を受けて撃破され、WP軍の先鋒はウルツブルグに迫る。

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NATO側にとって明るい話題といえば、デンマーク戦線である。デンマークの奪取を狙うWP軍は、海兵旅団2個と空挺3個連隊を投入してデンマークの首都コペンハーゲンを含むシェラン島に着上陸を仕掛けてきた。しかしソ連第336親衛海兵旅団(3-3-4)は、西ドイツ海軍航空隊のトーネード攻撃機による対艦ミサイル攻撃を受けてバルト海に沈み、その結果、楽勝であったはずのコペンハーゲン攻略作戦はまさかの失敗。デンマーク軍がコペンハーゲンの守備を固める機会を得た。

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NATO側にとって失敗だったのは、初期配置でスタックに依る防御を採用したことかもしれない。そのため、航空攻撃や化学兵器の攻撃による損害を増加させた感は否めない。ただ散開させた場合、個々のHexの防御力が弱体化するので、強力なWP側の攻撃で各個撃破される危険性もある。いずれにしても難しい所だ。

NATO手番

NATOは先ほど密集隊形で損害を大きくしたことに鑑み方針を変更。各部隊を広く散開させて相互支援できるようにした。さらに防御スクリーンの後方に予備を配置し、状況に応じて即座に前線にかけつけられるようにした。

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米軍戦線ではささやかながら化学兵器を使って反撃を実施。さらにフルダギャップでは突出してきたソ連軍独立戦車連隊(2-2-6)を西ドイツ第5装甲師団が包囲反撃し、これを排除した。

つづく



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