もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:読書 > ノンフィクション

4
210502_最悪の事故

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

ジェームズ・R・チャイルズ 高橋健次訳 草思社文庫

スペースシャトル「チャレンジャー」の空中爆発事故、スリーマイル島やチェルノブイリでの原発事故など、巨大システムによる事故は絶えない。本来は安全設計がなされている筈のシステムで何故事故が根絶できないのか。筆者は巨大マンマシーンシステムにおける事故発生のメカニズムを事例を交えて丁寧に説明している。
筆者は言う。人間は完璧ではなく、特に追い詰められた状況ではミスを犯す。さらに人はシステムが持っている筈の安全マージンをこっそり「つまみ食い」してしまう。そして巨大化したシステムは、一度事故を起こすと取り返しのつかない被害をもたらすものである。
本書は恐らく20世紀末か21世紀初頭に書かれたものと思われる。そのためその後に起こった巨大事故(スペースシャトル「コロンビア」の空中分解、福島原発事故、ニューヨークWTCビル倒壊等)は取り上げられていない。しかしこれらの事故にも筆者の述べる巨大システムの盲点が潜んでいることは疑いない。そういった意味で本書に内容は現在でも通用する内容である。そして残念ながら今度も巨大システムに起因する悲劇はなくならないだろう。
技術者であれば一度は読んでおきたい本である。

お奨め度★★★★

5
200909_汝2つの祖国に巡ず

汝、ふたつの故国に殉ず

門田隆将 角川文庫

日本人の父と台湾出身の母を持ち、日本統治下の台湾台南で生まれた坂井徳章(さかいとくしょう、台湾名=湯徳章)の半生を描いたノンフィクションである。本書は40歳の若さでこの世を去った徳章の凄まじいまでの正義感と行動力が描かれている。彼は日本人との側面も持ちながら日本統治時代の日本人と台湾人の格差に疑問を持ち、台湾で人権を確立するために弁護士になる。しかし太平洋戦争後の1947年に起こった二二八事件で中国国民党から事件の首謀者に仕立てられ、苛烈な拷問の末、台南市で公開処刑に処された。しかし徳章の凄まじい生き方と正義感は伝説になり、事件から約50年後の1998年に、当時の台南市長は徳章が最期を遂げた台南市民生緑園を「湯徳章紀念公園」と命名した。さらに徳章の命日である3月13日を台南市では「正義と勇気の紀念日」に制定した。
本書は様々な意味で読みどころの多い作品だが、特に二二八事件が発生してからの徳章が最期を迎えるまでの描写、さらに事件後の描写は涙なしには読めない。これほど男らしい人がいただろうか。日本人・台湾人の枠を超えて徳章の生き様に圧倒される思いがする。
日本と台湾の歴史や現在の東アジア情勢について考える際には極めて有益なノンフィクションだろう。読み物としても優れた作品であり、万人にお勧めしたい。

お奨め度★★★★★


湯德章律師

(Photo by Wikipedia)

4

200107_ながい旅

ながい旅

大岡昇平 角川文庫

陸軍中将岡田資(たすく)。終戦時東海軍司令官であった岡田は、戦後の戦犯裁判でB級戦犯として起訴され、有罪となった。彼の起訴内容はB-29搭乗員に対する処刑。戦時中に落下傘降下したB-29搭乗員を「戦争犯罪者」として斬首したのである。彼はその責任を一身に背負い、戦犯裁判で米軍による無差別爆撃の非道を告発した。戦犯裁判における岡田の堂々とした態度は、弁護側のみならず検察側の心をも打ち、後に死刑が確定した時に数多くの助命嘆願となって表れてくる。
本書は岡田資の戦犯裁判における戦いを克明に描いた著作で、一次資料を丹念に追いながら岡田の「法戦」を再現していく。本書はあくまでも冷静な筆致で戦いを描くことで、戦争裁判のあり方に疑問を投げかけている。
しかし冷静に考えてみると、戦時中における岡田の行為を全面的に擁護することもまた難しい。B-29搭乗員に果たして命令に拒否する権利があったのか。そのような搭乗員を犯罪者として裁判もなしに処刑したことについて、批判する余地がないとは言えない(そのことは岡田自身が認めている)。だから、所謂「A級戦犯」と岡田の事例とを同一視することはできない。「A級戦犯」に対する有罪判決は明らかに不当判決だが、岡田については必ずしも不当判決とは言えない面もあるのだ。
いずれにしても本書は、米国の戦後政策や戦犯問題について考えるきっかけを与えてくれる著作であることは間違いない。

お奨め度★★★★

イメージ 1

福島第1原発1号機冷却「失敗の本質」

NHKスペシャル「メルトダウン」取材班 講談社

NHKスペシャルで放送された内容の書籍版である。私は映像作品を見ていないので、この書籍に書かれていることしか知らない。
福島第1原発事故について分析している著作だが、本書ではまず1号機の冷却失敗に焦点を当てている。福島第1原発事故は、複数の原子炉が空間的、時間的に近接した状況でメルトダウン等の事態を引き起こした原子力史上空前の大事故だったが、その引き金になったのが1号機のメルトダウンであった。今日では良く知られているが、1号機は地震と津波による電源喪失によって冷却機能を失い、地震当日夜半にメルトダウン。さらには格納容器、圧力容器の損傷を引き起こしている。そして翌日15:36に水素爆発を起こし、折角復旧しつつあった電源系の復旧作業を大きく阻害した。あくまでも「もしも」の話だが、「もしも」1号機の冷却が正常に機能し、1号機のメルトダウンを阻止できていれば、福島第1原発事故がこれほどの大事故にならなかった可能性は高いと思われる。
本書では、1号機の冷却失敗を「イソコン」と呼ばれる冷却系の起動不良にあるとし、なぜ「イソコン」が起動しなかったかに焦点を当てている。
本書の内容は衝撃的だ。「イソコン」は福島第1原発が建造された当時から装備されていた古い冷却系であったが、なんと事故当時の運転員は1度も「イソコン」を動かしたことがなかったのだ。そして「イソコン」の動作状況について運転員は「動いている」と誤認識し、その誤った認識に基づいて運転員も免震棟で指揮を執っていた吉田所長も事故対応にあたってしまった。つまり運転員は「イソコン」の「動かし方」を「知らなかった」のだ。「恐るべき怠慢」と言えば言い過ぎだろうか。
本書では「イソコン」の起動失敗を軸に、危機対応に関する今回の問題点を抉り、さらには日米の危機管理に対する思想に違いにも踏み込んでいる。そこに図らずも示された日米の違いは、かつて「あの戦争」で我々の先輩たちが経験したものと同種のものが示されている。
福島第1原発事故で事故収束に当たった現場の奮闘には頭の下がる思いがある。しかしそのような考えとはまた別の視点で「あの事故はなぜ起こったのか」「あの事故を防ぐにはどうすれば良かったのか」という視点から、現場も含めた今回の事故対応全般について冷静な視点で問い直す必要があると感じた。

お奨め度★★★★★

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死の淵を見た男-吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日

門田隆将 PHP出版

2013年7月9日、1人の男が食道癌で死んだ。吉田昌朗。2011年3月10日までは全く無名であった人物である。今では知らぬ人が少ないであろうこの男は、あの福島第一原発事故の際、現場で陣頭指揮を執った男だ。本書はその吉田を中心として、福島第一原発事故に対して現場が如何に立ち向かったかを綴った著作である。
本書は主に筆者が関係者に対して実施したインタビューに基づいている。従って本来主人公である筈の吉田本人に関する記述よりも、その他の人物に関する記述の方が多くなっている(当時、吉田本人は病気療養中であった)。中でも原子炉間近のサービス建屋に踏みとどまって復旧活動を行った伊沢郁夫の戦いに多くのページが割かれてる。他にも消火や復旧に当たった東電、協力会社、自衛隊、消防関係の人々の戦いが克明に描かれている。
本書は原発の是非を問うものではなく、また原発事故の責任を追及する書籍ではない。原発事故という過酷な環境で戦った人々の戦いを記した著作だ。従って原発事故の全貌を知る上で極めて貴重な資料であると同時に、本書には敢えて描かれていない事故の原因や事故対処の問題点について他の資料で補う必要があるだろう。本書の主役である吉田にしても、事故前には10mを超える津波の襲来について「そんなことはあり得ない」として対策を拒んでいたことが知られているし、事故当時の対策についても3号機の冷却失敗は人為的なミスである面が否定できない。

お奨め度★★★★

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