もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:読書 > ノンフィクション

3
220320_デスゾーン


デス・ゾーン-栗城史多のエベレスト劇場

河野啓 集英社

栗城史多という登山家の名前は知っていた。またその彼がヒマラヤ山中で遭難死したことも知っていた。しかし彼がどのように死んだのか、また彼の登山歴がどのようなものだったのかについては詳しく知らなかった。入院中、彼が4度目のエベレスト登山で凍傷によって右手親指を除く9本の指を失った事を知り。さらにその後も山の登り続けていたことをネット情報で知り、俄然興味が湧いてきた。
本書は、栗城史多という登山家が、どのような生い立ちで登山を志し、どのような登山を行ったのか。そして周囲はそれをどのように見ていたのか。さらに言えば、彼の標榜していた「無酸素単独登頂」の実態がどのようなものであったのか。多くの証言や映像情報等を通じて明らかにしていくノンフィクションである。ネット時代の寵児ともてはやされ、一時は時の人となっていた栗城史多。しかし彼の内面には深い闇があった。それが何であったかは本書を読めば明らかになるだろう。

お奨め度★★★

4
210826_誰も

誰も語らなかったニッポンの防衛産業

桜林美佐 産経NF文庫

防衛問題研究家として知られている筆者が語る防衛産業の実態である。防衛産業といえば、「産軍癒着」とか「天下り」といった感じで悪く言われることが多い。しかし実際の防衛産業は決して「旨味」の多い仕事ではなく、むしろ経営面では不利な仕事である。そのような中、多くの防衛産業は「国を守るため」という使命感で仕事を続けているが、厳しい現実には勝てず、国防を担っていた多くの企業は倒産や防衛事業撤退を余儀なくされている。
筆者は戦車や火砲、弾薬や装甲といった防衛装備品を作る国内企業のいくつかを訪問し、その生産現場をリポートしている。そこで語られている事は、日本の防衛産業が直面している厳しい現実とその中で国防の重責を担うべく奮闘する人々の姿である。筆者は防衛を担うこれら企業の姿勢に暖かい視線を注ぐとともに、こういった防衛産業の将来に対して無策である我が国の政治や国内世論に対して厳しい視線を向けている。明治時代から操業し、1945年3月の東京空襲では30名の殉職者を出したとあるゴム工場の社長は言う。「平和とは自ら作るものだと思います」という言葉を発している。それを受けて筆者は言う。平和とは何かを誰も教えてくれない、教えることなどできないのだ。自らが自らの手で実現すること。努力して手に入れるものなのだ。と。
防衛産業の実態や防衛産業の今後と国防政策について考えさてくれる著作である。文章も平易で読みやすく、一気に読むことができる好著だ。万人にお奨めしたい著作である。

お奨め度★★★★

4
210502_最悪の事故

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

ジェームズ・R・チャイルズ 高橋健次訳 草思社文庫

スペースシャトル「チャレンジャー」の空中爆発事故、スリーマイル島やチェルノブイリでの原発事故など、巨大システムによる事故は絶えない。本来は安全設計がなされている筈のシステムで何故事故が根絶できないのか。筆者は巨大マンマシーンシステムにおける事故発生のメカニズムを事例を交えて丁寧に説明している。
筆者は言う。人間は完璧ではなく、特に追い詰められた状況ではミスを犯す。さらに人はシステムが持っている筈の安全マージンをこっそり「つまみ食い」してしまう。そして巨大化したシステムは、一度事故を起こすと取り返しのつかない被害をもたらすものである。
本書は恐らく20世紀末か21世紀初頭に書かれたものと思われる。そのためその後に起こった巨大事故(スペースシャトル「コロンビア」の空中分解、福島原発事故、ニューヨークWTCビル倒壊等)は取り上げられていない。しかしこれらの事故にも筆者の述べる巨大システムの盲点が潜んでいることは疑いない。そういった意味で本書に内容は現在でも通用する内容である。そして残念ながら今度も巨大システムに起因する悲劇はなくならないだろう。
技術者であれば一度は読んでおきたい本である。

お奨め度★★★★

5
200909_汝2つの祖国に巡ず

汝、ふたつの故国に殉ず

門田隆将 角川文庫

日本人の父と台湾出身の母を持ち、日本統治下の台湾台南で生まれた坂井徳章(さかいとくしょう、台湾名=湯徳章)の半生を描いたノンフィクションである。本書は40歳の若さでこの世を去った徳章の凄まじいまでの正義感と行動力が描かれている。彼は日本人との側面も持ちながら日本統治時代の日本人と台湾人の格差に疑問を持ち、台湾で人権を確立するために弁護士になる。しかし太平洋戦争後の1947年に起こった二二八事件で中国国民党から事件の首謀者に仕立てられ、苛烈な拷問の末、台南市で公開処刑に処された。しかし徳章の凄まじい生き方と正義感は伝説になり、事件から約50年後の1998年に、当時の台南市長は徳章が最期を遂げた台南市民生緑園を「湯徳章紀念公園」と命名した。さらに徳章の命日である3月13日を台南市では「正義と勇気の紀念日」に制定した。
本書は様々な意味で読みどころの多い作品だが、特に二二八事件が発生してからの徳章が最期を迎えるまでの描写、さらに事件後の描写は涙なしには読めない。これほど男らしい人がいただろうか。日本人・台湾人の枠を超えて徳章の生き様に圧倒される思いがする。
日本と台湾の歴史や現在の東アジア情勢について考える際には極めて有益なノンフィクションだろう。読み物としても優れた作品であり、万人にお勧めしたい。

お奨め度★★★★★


湯德章律師

(Photo by Wikipedia)

4

200107_ながい旅

ながい旅

大岡昇平 角川文庫

陸軍中将岡田資(たすく)。終戦時東海軍司令官であった岡田は、戦後の戦犯裁判でB級戦犯として起訴され、有罪となった。彼の起訴内容はB-29搭乗員に対する処刑。戦時中に落下傘降下したB-29搭乗員を「戦争犯罪者」として斬首したのである。彼はその責任を一身に背負い、戦犯裁判で米軍による無差別爆撃の非道を告発した。戦犯裁判における岡田の堂々とした態度は、弁護側のみならず検察側の心をも打ち、後に死刑が確定した時に数多くの助命嘆願となって表れてくる。
本書は岡田資の戦犯裁判における戦いを克明に描いた著作で、一次資料を丹念に追いながら岡田の「法戦」を再現していく。本書はあくまでも冷静な筆致で戦いを描くことで、戦争裁判のあり方に疑問を投げかけている。
しかし冷静に考えてみると、戦時中における岡田の行為を全面的に擁護することもまた難しい。B-29搭乗員に果たして命令に拒否する権利があったのか。そのような搭乗員を犯罪者として裁判もなしに処刑したことについて、批判する余地がないとは言えない(そのことは岡田自身が認めている)。だから、所謂「A級戦犯」と岡田の事例とを同一視することはできない。「A級戦犯」に対する有罪判決は明らかに不当判決だが、岡田については必ずしも不当判決とは言えない面もあるのだ。
いずれにしても本書は、米国の戦後政策や戦犯問題について考えるきっかけを与えてくれる著作であることは間違いない。

お奨め度★★★★

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