福島第1原発1号機冷却「失敗の本質」
NHKスペシャル「メルトダウン」取材班 講談社
NHKスペシャルで放送された内容の書籍版である。私は映像作品を見ていないので、この書籍に書かれていることしか知らない。福島第1原発事故について分析している著作だが、本書ではまず1号機の冷却失敗に焦点を当てている。福島第1原発事故は、複数の原子炉が空間的、時間的に近接した状況でメルトダウン等の事態を引き起こした原子力史上空前の大事故だったが、その引き金になったのが1号機のメルトダウンであった。今日では良く知られているが、1号機は地震と津波による電源喪失によって冷却機能を失い、地震当日夜半にメルトダウン。さらには格納容器、圧力容器の損傷を引き起こしている。そして翌日15:36に水素爆発を起こし、折角復旧しつつあった電源系の復旧作業を大きく阻害した。あくまでも「もしも」の話だが、「もしも」1号機の冷却が正常に機能し、1号機のメルトダウンを阻止できていれば、福島第1原発事故がこれほどの大事故にならなかった可能性は高いと思われる。
本書では、1号機の冷却失敗を「イソコン」と呼ばれる冷却系の起動不良にあるとし、なぜ「イソコン」が起動しなかったかに焦点を当てている。
本書の内容は衝撃的だ。「イソコン」は福島第1原発が建造された当時から装備されていた古い冷却系であったが、なんと事故当時の運転員は1度も「イソコン」を動かしたことがなかったのだ。そして「イソコン」の動作状況について運転員は「動いている」と誤認識し、その誤った認識に基づいて運転員も免震棟で指揮を執っていた吉田所長も事故対応にあたってしまった。つまり運転員は「イソコン」の「動かし方」を「知らなかった」のだ。「恐るべき怠慢」と言えば言い過ぎだろうか。
本書では「イソコン」の起動失敗を軸に、危機対応に関する今回の問題点を抉り、さらには日米の危機管理に対する思想に違いにも踏み込んでいる。そこに図らずも示された日米の違いは、かつて「あの戦争」で我々の先輩たちが経験したものと同種のものが示されている。
福島第1原発事故で事故収束に当たった現場の奮闘には頭の下がる思いがある。しかしそのような考えとはまた別の視点で「あの事故はなぜ起こったのか」「あの事故を防ぐにはどうすれば良かったのか」という視点から、現場も含めた今回の事故対応全般について冷静な視点で問い直す必要があると感じた。
お奨め度★★★★★