もりつちの徒然なるままに

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カテゴリ:読書 > ノンフィクション

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カウントダウン・メルトダウン(上下)

舩橋洋一 文藝春秋

この本も福島第1原発事故を扱ったノンフィクションである。以前に紹介したメルトダウン(大鹿靖明)が原発事故のみならず、その後の復旧や損害補償、さらには大飯原発の再稼働問題にまで範囲を広げているのに対し、本書はほぼ原発事故そのものに絞った書き方をしている。逆に「メルトダウン」ではあまり深く触れていなかった3月16日以降の事故対策については、本書の方がより詳しく紹介されている。
もう一点、本書の特徴をあげるとすれば、本書がほぼ政治的には「無色」だということである。本書の著者は、原発に対して賛成とも反対とも言っていない。筆者はただ事故が起こり、それに対して様々な人々がどのように振舞ったか。そして事故がどのように拡大・収束していったのか、それだけを淡々とした筆致で描いている。従って読み物としてみた場合、「メルトダウン」に比べると本書はやや退屈に感じるかもしれない。しかし原発事故という未曽有の災害の実相と、それに対して立ち向かった人々の戦いを見るという点では本書の方が勝っていると思う。

お奨め度★★★★

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福島原発事故はなぜ起こったのか-政府事故調核心解説

畑村洋太郎他 講談社

福島第1原発の事故について、政府の事故調査・検証委員会(政府事故調)がまとめた報告書の内容に基づき、事故が何故起こったのか。その原因を究明し、再発防止のための提言をまとめた著作である。
本書の構成は6章構成になっており、第1章、第2章では福島原発事故の内容と事故調の活動について触れ、政府、地方自治体の失敗、東京電力の失敗、被害拡大を防止できなかった理由、そして第6章で「福島事故の教訓をどう生かすか」とまとめている。
本書は事故調の報告をベースとしているだけに政治色(反原発あるいは原発推進的な議論)は極力排し、純粋に技術論や危機管理の視点から福島原発事故を捉えている。従って本書では反原発という視点はなく、原子力と人類はどのようにして共存していくのか、あるいは原子力の危険性をどのように捉えていくのか、という視点に立っている。そういった意味では技術者としては「変な色がついていない」だけに読みやすい。
福島原発事故という未曽有の事故を経験した我々日本人にとって、この事故の教訓をどのように生かしていくかは今後の課題となるだろう。

本書の最後で筆者は
「あり得ることは起こる、あり得ないと思うことも起こる。」
「見たくないものは見えない。見たいものが見える」
としている。
今回の事故は「あり得ないと思うことが起こる」ことを証明し、また安全神話は「見たくないものは見えない」ことを証明した。原発事故の教訓を生かしていくためには、「あり得ないと思うこと」を「見える」ようにすることが必要であろう。これは原発に限らず、航空機や新幹線といった運輸関連、巨大建造物、さらにはテロや戦争といった事態をも含めて考える必要がある。

某国による首都圏への核攻撃は決して「あり得ない話」ではない。

お奨め度★★★★★

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メルトダウン

大鹿靖明 講談社

2011年3月11日、未曽有の大地震が東日本一帯を襲った。東日本大震災である。この時の地震と津波の影響により東京電力福島第1原子力発電所は電源喪失の事態となり、冷却機能を失った原子炉は次々と炉心融解(メルトダウン)を引き起こした。世界最大規模の原子力災害となった福島第1原発事故である。
本書は地震発生及び津波による被害発生から電力喪失、炉心融解に至る事故の過程を追い、地震発生後1週間における福島第1原発と東京電力、そして日本政府の動きを明らかにしている。また本書は地震直後の状況のみならず、事故発生後の東電再生やエネルギー政策の推移、さらには大飯原発再稼働問題まで話を広げている。本書を読むと、地震発生後の東電及び日本政府の混乱した状況や東電の体質的欠陥が明らかになり、福島原発事故が単なる天災というよりは人災の面を強く持っていたことがわかる。
本書を書いた大鹿氏は朝日新聞系のライターなので、どちらかといえば「反原発」の姿勢が強い。しかし筆致は全般的に中立的な視線を保っており、その点は好感を持てる。ただ(これは好みの問題だが)福島原発の現場に関する記述が事故直後およそ1週間(自衛隊機による空中放水とその後の自衛隊、消防庁による地上からの放水まで)に限定している点、やや残念だ。一般に「危機を脱した」と認識された事故後1週間後以降について、もう少し詳しく知りたいと思った。
原発については賛否両論があり、国民的な合意形成はできていないと思う。私個人についていえば、事故前は原発推進派であった。しかし事故によりいわゆる「原発安全神話」が崩壊し、個人的な考え方も変えなければならないと思っている。勿論左翼的な「反原発運動」に与するつもりは毛頭ない。しかし東京電力を始めとする電力各社の時代錯誤的な体質や政府の無策ぶりを見るにつけ、原子力という「危ういエネルギー」をこんな人達に委ねるのは「危うい」と感じている。「原発を直ちにゼロ」というのは現実的な解とは思えないが、原発への依存度は減らしていく必要があるだろう。

お奨め度★★★★

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アポロ13

ジム・ラベル/ジェフリー・クルーガー 新潮文庫

本書については説明の必要はないだろう。アポロ13号の事故とそこからの生還を果たすべく苦闘するクルー達と地上スタッフ、さらにはクルーの家族達を描いたノンフィクションである。本作については、トム・ハンクス主演の映画が大ヒットし、そちらが有名である。かく言う私もCTVで上映していた映画版の「アポロ13」に感動し、原作を読み直してみたいと思って手に取ったのが本当の所である。
本書は映画版と同じ事件を元にしているとはいえ、細部においてかなり違っている。映画版が時間的な制約によって省略したりやや不正確に描いたりしている部分(例えば司令船再起動手順の件やPC+2噴射の場面等)は本書の方がより正確に描かれている。またクルーの心理描写の部分、例えば映画版で描かれているジャック・スワイガードと他のクルーとの確執等は、本書では殆ど登場しない。アポロ13のクルー達はあくまでもプロフェッショナルな集団として描かれており、映画版のような罵り合う場面は出てこない。どちらがより正確なのかは不明だが、映画版の方が観客に分かりやすくするように脚色して描いている可能性が高い。
本書はアポロ13の事故に携わった人々の苦闘の物語と読んでも勿論興味深いが、終章に描かれている事故原因を合わせて読むとより興味深く読める。宇宙空間における酸素タンク爆発という重大事故が発生するに至った経緯は何か。それはあまりに初歩的なミスや不注意の積み重ねによって起こり得たことを知る時、科学技術の持つ盲点を知る思いがする。しかしその後もスペースシャトルは爆発し、ジャンボジェットは墜落し、原発からは放射能が漏れている。一体人類はいつになったら科学技術に対して謙虚になれるのだろう、と、暗然たる思いを禁じ得ない。

お奨め度★★★★★

剱岳<点の記>

新田次郎 新潮文庫

以前に「孤高の人」を紹介しましたが、今回紹介する「剱岳<点の記>」も「孤高の人」と同じく新田次郎氏による山岳小説です。こちらは最近映画にもなっているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
今回紹介する「剱岳<点の記>」は、明治時代末期における測量隊による剱岳登頂の物語です。剱岳は当時「登ってはならない山」とされ、日本国内の多くの山々が制覇されていく中、剱岳だけは未だに制覇されていない山でした。本書は測量隊が剱岳を制覇するまでの苦闘を描いています。

本書は「孤高の人」と同じく山岳を扱った小説です。ただ本書と「孤高の人」は読後感がかなり違います。本書はどちらかといえば「乾いた」感じなのに対し、「孤高の人」は「湿った」読後感です。これは、それぞれの作品における女性の扱いの違いに起因するように思えます。本書「剱岳<点の記>」には女性の登場人物が少ないです。唯一主人公の新妻が登場しますが、これは作者のサービス(そうでもしないと男ばかりの作品になってしまう)ではないかとも思えてきます。本書のテーマは測量隊による剱岳制覇であり、それ以外の些事には殆ど目を向けていないともいえます。ちなみに「孤高の人」には女性が沢山登場します。

測量隊による山岳測量という地味なテーマを扱った小説ですが、その面白さは折り紙付きです。機会があれば是非一読されることをお奨めします。山好きであれば間違いなく楽しめる作品ですが、山好きではなくても楽しめる作品であると思います。

お奨め度★★★★

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