もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:読書 > 小説

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220808_小隊

小隊

砂川文次 文藝春秋

1990年生まれの元自衛官が書いた現在兵士の物語。3編の小編からなり、主人公はいずれも自衛官又は元自衛官である。舞台は、ロシア軍の侵攻に晒された根室~釧路地区で遅退戦闘を行う陸自第5旅団。イラク又はアフガニスタンに派遣された元自衛官の傭兵が行う警固任務。そして最後は自衛官の監部候補生達が経験する過酷な行軍演習である。いずれも主人公は前線に立つ1人の下級指揮官であり、彼らの目から見た「戦場」の赤裸々な姿が描かれている。
個人的に一番面白かったのは、表題作「小隊」で、現代戦の猛烈な火力戦闘に巻き込まれた主人公達の葛藤や苦しみがリアルに再現されている。小隊規模の歩兵戦闘がどのような形で行われているか、そしてその中で個々の幹部や曹士たちがどのように考え、行動したのかが克明に描かれている。
他の2作品は、より主人公の内面に入っていくような作品である。ちゃんと「読める」人には面白い作品だとは思うが、字面を丹念に追いかけるのがやや苦手な私にのっとては、やや面倒臭く感じる作品であった。

お奨め度★★★

3

210322_たかが殺人

たかが殺人じゃないか

辻真先 東京創元社

たまには、と思い推理小説読んでみた。どこかの真田さんみたいに「俺は推理小説の良さはわからない」とでも書こうと思ったが、意外と面白かった。どちらかといえばじっくり読むのが苦手で早く読みたくなる私。推理小説でもじっくり読まないで流し読みなので、トリックをじっくり考えながら読むことができない質である。そんな私でも本書は結構楽しめた。
本書の設定は昭和24年の名古屋。GHQの命令によって無理矢理男女共学にさせられた高校生たちを主人公とする推理小説だ。高校生たちの描き方も秀逸だが、それよりも戦争直後の名古屋周辺の描写が楽しい。さらにいえば、戦争と敗戦によって価値観の急激な変化に直面して戸惑う登場人物たちがリアルに描かれていて、フィクションながらも当時の息吹を感じることができる。そして日本人にとって戦争や敗戦は何だったか、といった点についても考えさせてくれる作品であった。

お奨め度★★★

4
190825高熱隧道


近代史における様々な事件を小説の形でまとまた吉村昭氏。彼の作品の1つが「高熱隧道」である。1936年から開始された黒部川第3発電所の建設は、難渋を極め、実に300名以上が犠牲になるという日本土木史上最悪レベルの難事業であった。特に仙谷谷と阿曽原の区間は、摂氏100度を超える高熱の岩盤を有する灼熱地帯で、そこを突破するトンネル工事は過酷そのものであったという。さらに泡雪崩と呼ばれる現象によって冬季宿舎が2度に渡って大損傷し(一度は雪崩対策を施した筈の鉄筋コンクリートの建物が約600m吹き飛ばされた)、それによって100名以上が命を落としている。
本書はそのような困難を極めた工事を小説の形を借りて表現したものである。本書の登場人物は架空の人物だが、そこで繰り広げられた出来事は史実に基づいたものであり、戦前期における土木工事の過酷な実態を我々に示してくれている。
読み物として読んでも勿論一級品だが、史実を考えるきっかけとしても良いだろう。

お奨め度★★★★

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神様のカルテ

夏川草介 小学館文庫

結構有名な本なので読んでみた。まあまあ面白かった。
私の場合、本書を読み始めたのは手術入院で入院したその日。点滴の針を刺してもらっていよいよという夜であった。読み終えたのは手術直後の苦悶の時間が過ぎ、少し余裕が出来た夜に読んだ。術後の眠れない夜にも読めるぐらい平易な内容であった。
終末医療に関する内容が主なテーマだが、過度に生々しい話でもなく、かといって荒唐無稽な話でもない。「心に浸みる」という程でもなかったが、素直に「良い話」だと思った。

お奨め度★★★

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マネーボール

マイケルルイス 中山有訳 早川書房

セイバーメトリクスという言葉は、近年メジャーリーグやNPB(日本プロ野球)でも時々使われる言葉である。私も正確な意味を知っている訳ではないが、一言で言えば「野球選手の能力を今までよりも正確に評価しようとする際の指標」とでも言うだろうか。だからスタッツと呼ばれる従来の指標(打率、防御率等)が全く役に立たなくなった訳ではなく、これらの指標の価値を認めながらもこれらの指標では表現できていない選手の能力を表す指標(あるいはそのような指標を探し出す試み)と表現しても良いだろう。例えばセイバーメトリクスを代表するOPSという指標にしても、出塁率と長打率を合計しただけの数値だが、そのような数値で選手の能力全てを評価できるかというと、そうではない。結局の所セイバーメトリクスが万能なのではなく、「選手にとっての価値とは何か、それに最も寄与する能力は何か、その能力を端的に示す指標は何か」という問いかけがセイバーメトリクスなのではないかと思っている。
前置きが長くなった。本書「マネーボール」は、そのようなセイバーメトリクスを導入する立役者となったメジャーリーグ球団「オークランド・アスレチックス」とそのGMビリービーンの物語である。彼は自身のメジャーリーグ体験(彼自身前途を有望視されたメジャーリーガーだった)等から基づき、これまでのスカウト制度や選手の評価が全く実情に合っていないことに気づく。そこで彼は野球チームの役割とは何か、といった点から分析を始めていき、勝ために必要な人材とそのために投資効果の高い投資を求めて選手を探す。そしてその一方で投資に見合わない選手はどんどん切り捨てていき、チームを強化していく。
彼の考え方はユニークである。まず球団の役割とは勝つことと定義する。何だかんだ言っても強いチームには客が集まるし、弱ければ集まらない。次に勝敗に最も寄与するファクターは何かを定義する。それは得点と失点である。多くの得点を獲得し、失う失点を減らした球団が勝てるという論理だ。彼はそこで野球というゲームの仕組みに目を向けていく。野球とはつまりアウトを3つ取られる間に多くの走者をホームベースに迎え入れるゲームである。そこで彼が着目したのが出塁率。つまり何らかの形で塁に出る能力である。その一方で彼は犠牲バントや盗塁を嫌った。何故ならこれらの作戦は、相手にアウトを与える危険性がある(あるいはその必然性が高い)からだ。野球の本質を「アウトにならないこと」とした彼は、出塁率の高い選手を求めてチームを作っていく。
本書にはビーン以外にも多くの実在の人物が登場してくる。その多くはメジャーリーガーで、我々が知っている人物もいるが、多くの選手は我々の知らない選手たちであろう(メジャーリーグに詳しい人は別として・・・)。そういった面で残念ながら日本人の我々は本書の魅力を十分に味わうことはできない。
しかしそれでも本書は読者に対して新しい野球観を提供せずにはいられないだろう。

お奨め度★★★★

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