もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:読書 > 小説

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210322_たかが殺人

たかが殺人じゃないか

辻真先 東京創元社

たまには、と思い推理小説読んでみた。どこかの真田さんみたいに「俺は推理小説の良さはわからない」とでも書こうと思ったが、意外と面白かった。どちらかといえばじっくり読むのが苦手で早く読みたくなる私。推理小説でもじっくり読まないで流し読みなので、トリックをじっくり考えながら読むことができない質である。そんな私でも本書は結構楽しめた。
本書の設定は昭和24年の名古屋。GHQの命令によって無理矢理男女共学にさせられた高校生たちを主人公とする推理小説だ。高校生たちの描き方も秀逸だが、それよりも戦争直後の名古屋周辺の描写が楽しい。さらにいえば、戦争と敗戦によって価値観の急激な変化に直面して戸惑う登場人物たちがリアルに描かれていて、フィクションながらも当時の息吹を感じることができる。そして日本人にとって戦争や敗戦は何だったか、といった点についても考えさせてくれる作品であった。

お奨め度★★★

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190825高熱隧道


近代史における様々な事件を小説の形でまとまた吉村昭氏。彼の作品の1つが「高熱隧道」である。1936年から開始された黒部川第3発電所の建設は、難渋を極め、実に300名以上が犠牲になるという日本土木史上最悪レベルの難事業であった。特に仙谷谷と阿曽原の区間は、摂氏100度を超える高熱の岩盤を有する灼熱地帯で、そこを突破するトンネル工事は過酷そのものであったという。さらに泡雪崩と呼ばれる現象によって冬季宿舎が2度に渡って大損傷し(一度は雪崩対策を施した筈の鉄筋コンクリートの建物が約600m吹き飛ばされた)、それによって100名以上が命を落としている。
本書はそのような困難を極めた工事を小説の形を借りて表現したものである。本書の登場人物は架空の人物だが、そこで繰り広げられた出来事は史実に基づいたものであり、戦前期における土木工事の過酷な実態を我々に示してくれている。
読み物として読んでも勿論一級品だが、史実を考えるきっかけとしても良いだろう。

お奨め度★★★★

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神様のカルテ

夏川草介 小学館文庫

結構有名な本なので読んでみた。まあまあ面白かった。
私の場合、本書を読み始めたのは手術入院で入院したその日。点滴の針を刺してもらっていよいよという夜であった。読み終えたのは手術直後の苦悶の時間が過ぎ、少し余裕が出来た夜に読んだ。術後の眠れない夜にも読めるぐらい平易な内容であった。
終末医療に関する内容が主なテーマだが、過度に生々しい話でもなく、かといって荒唐無稽な話でもない。「心に浸みる」という程でもなかったが、素直に「良い話」だと思った。

お奨め度★★★

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マネーボール

マイケルルイス 中山有訳 早川書房

セイバーメトリクスという言葉は、近年メジャーリーグやNPB(日本プロ野球)でも時々使われる言葉である。私も正確な意味を知っている訳ではないが、一言で言えば「野球選手の能力を今までよりも正確に評価しようとする際の指標」とでも言うだろうか。だからスタッツと呼ばれる従来の指標(打率、防御率等)が全く役に立たなくなった訳ではなく、これらの指標の価値を認めながらもこれらの指標では表現できていない選手の能力を表す指標(あるいはそのような指標を探し出す試み)と表現しても良いだろう。例えばセイバーメトリクスを代表するOPSという指標にしても、出塁率と長打率を合計しただけの数値だが、そのような数値で選手の能力全てを評価できるかというと、そうではない。結局の所セイバーメトリクスが万能なのではなく、「選手にとっての価値とは何か、それに最も寄与する能力は何か、その能力を端的に示す指標は何か」という問いかけがセイバーメトリクスなのではないかと思っている。
前置きが長くなった。本書「マネーボール」は、そのようなセイバーメトリクスを導入する立役者となったメジャーリーグ球団「オークランド・アスレチックス」とそのGMビリービーンの物語である。彼は自身のメジャーリーグ体験(彼自身前途を有望視されたメジャーリーガーだった)等から基づき、これまでのスカウト制度や選手の評価が全く実情に合っていないことに気づく。そこで彼は野球チームの役割とは何か、といった点から分析を始めていき、勝ために必要な人材とそのために投資効果の高い投資を求めて選手を探す。そしてその一方で投資に見合わない選手はどんどん切り捨てていき、チームを強化していく。
彼の考え方はユニークである。まず球団の役割とは勝つことと定義する。何だかんだ言っても強いチームには客が集まるし、弱ければ集まらない。次に勝敗に最も寄与するファクターは何かを定義する。それは得点と失点である。多くの得点を獲得し、失う失点を減らした球団が勝てるという論理だ。彼はそこで野球というゲームの仕組みに目を向けていく。野球とはつまりアウトを3つ取られる間に多くの走者をホームベースに迎え入れるゲームである。そこで彼が着目したのが出塁率。つまり何らかの形で塁に出る能力である。その一方で彼は犠牲バントや盗塁を嫌った。何故ならこれらの作戦は、相手にアウトを与える危険性がある(あるいはその必然性が高い)からだ。野球の本質を「アウトにならないこと」とした彼は、出塁率の高い選手を求めてチームを作っていく。
本書にはビーン以外にも多くの実在の人物が登場してくる。その多くはメジャーリーガーで、我々が知っている人物もいるが、多くの選手は我々の知らない選手たちであろう(メジャーリーグに詳しい人は別として・・・)。そういった面で残念ながら日本人の我々は本書の魅力を十分に味わうことはできない。
しかしそれでも本書は読者に対して新しい野球観を提供せずにはいられないだろう。

お奨め度★★★★

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永遠のゼロ

百田尚樹 講談社文庫

映画化されて有名になったので読んでみた。確かに面白い。前の大戦で戦死した祖父の後を追う中で、太平洋戦争の航空戦史やその中で苦闘するパイロット達の姿を描いている。本書は小説なので無論事実を描いた著作ではないが、所謂「仮想戦記」ではない。歴史の流れを大きく変えることなく、戦争という背景の中で人々を描いた小説なので、むしろ一般的な戦争小説といって良いだろう。
主人公は戦時中の零戦パイロットで、真珠湾攻撃、ミッドウェー海戦、ラバウル航空戦、マリアナ沖海戦、フィリピン戦、沖縄航空戦、本土防空戦といった太平洋戦争における主要な海空戦に尽く参加している。凄腕のパイロットだが、生への執着が強く、所謂「勇敢なパイロット」ではない。そのため時に周囲と対立しながらも自らの信念を貫き通していく。読者は、主人公の生き方に共感しつつ、その一方で当時の軍上層部の愚劣な戦争指導に怒りを覚えていく。そのような本だ。
本書は戦史ではなく小説なので、戦史としての評価はあまり意味がない。小説としてみた場合、本書は極めて優れた作品であり、人間ドラマである。ただ敢えて戦史として評価してみた場合、筆者の主張に首肯できない部分があったのも事実だ。また映画を見たときに比べると、読後の爽快感が少なかったことも付記しておく。

お奨め度★★★★

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