200922_WorldWonderd

The World Wonder'd - What Really Happened Off Samar

Robert Lungren Nimble Book LLC

サブタイトル「What Really Happened Off Samar」(サマール島沖で本当に起こった事)で分かる通り、本書はサマール沖海戦について詳細に追った著作である。本書の白眉は、日本戦艦の砲撃に関する詳細な分析で、これまで「殆ど命中弾がなかった」とされている戦艦「大和」の砲撃についても新たな視点を提供している。本書の分析によれば、海戦開始時に「大和」が米空母「ホワイトプレーンズ」に対して実施した砲撃をして「戦艦の戦いの中で最も遠距離から命中を与えた事例」として賞賛し(実際には命中はなかったが、至近弾によって「ホワイトプレーンズ」は無視できない損害を被った)、さらに駆逐艦「ジョンストン」が雷撃実施直後に被弾した大口径砲弾についても、従来は「榛名」の14インチ砲弾とされていたが、筆者は入射角度から「大和」の18.1インチ砲弾であったとしている。このように本書は日本戦艦や巡洋艦の砲撃能力について比較的好意的な評価をしており、これまでの米側が描いたサマール沖海戦の戦史とはやや異なる印象を受ける。
本書では写真に基づいた詳細な分析を行っていることも特徴の一つで、「この着弾は大和の第3斉射目」とか「これは榛名の射撃」とか写真にキャプションをつけている様は爽快ですらある。
さらに本書の魅力は同海戦で米艦が被った詳細な被弾状況が示されていることである。先の「ホワイトプレーンズ」や「ジョンストン」は勿論、唯一の沈没空母である「ガンビアベイ」の被弾状況や多数の命中を受けて大破した「カリニンベイ」の被弾状況などは興味深い。
無論、本書の内容を全て鵜呑みにするのは危険であり、他の文献とのクロスチェックは必要であろう。しかし私の知る限りサマール沖海戦についてこれほど詳細に分析した著作は他にはない。そういった意味でも日米海戦に興味のある向きには必読書と言って良いだろう。

お奨め度★★★★★