「長元記」(以下、本作)は、Game Journal#80の付録ゲームだ。テーマは日本の戦国時代で、四国での戦いを作戦レベルで描いている。
本作のシステムは所謂「戦国群雄伝シリーズ」で、1Turnは実際の1週間、1Hexは実際の約6kmに相当し、マップには四国全域と淡路島の南端、山陽地方の沿岸地帯の一部が描かれている。1ユニットは500~1000人程度の兵力を表している。
今回、本作に挑戦してみた。
前回までの展開 --> こちらく
シナリオ4.中冨川原
前回のシナリオ3は仮想戦だったが、今度はヒストリカルシナリオである。本能寺で織田信長が討たれたことで小康を得た長宗我部勢は、この機会に一気に四国平定を図る。本シナリオは長宗我部元親の四国平定戦、その一部である讃岐・阿波方面での長宗我部元親と十河存保の戦いを描いたものである。私は劣勢の十河勢を担当した。兵力は、長宗我部元親率いる長宗我部勢は計46ユニット。対する十河存保勢は16~17ユニット。長宗我部勢が約3倍の優勢を得ている。まともに戦えば長宗我部勢の優位は動かない。が、今回は勝利条件にハンディキャップが付けられており、長宗我部勢は相手方よりも6点以上多いVPを獲得しなければ勝てない。
この状況で十河方の戦い方を考察すれば、自らの失点をできる限る押さえつつ、遅退戦術で時間稼ぎをする。まともに戦えば勝てないので、長宗我部勢の時間切れで勝機を見出す。
実際の展開を簡単に記す。
長宗我部勢は二手に分かれて阿波領内に攻め込んでくる。その主力は白地城から吉野川沿いに東へ向けて進んでくる。十河方の防衛ラインは吉野川中流域にある岩倉城。岩倉城前面に攻め込んできた長宗我部勢と十河勢が大規模な合戦を戦う。後の世に言う「岩倉の戦い」である。
この戦いでは兵力に勝る長宗我部勢が十河勢を圧倒。出目の悪さも手伝って十河勢は全軍崩壊して後退していく。不幸中の幸いは一方的な敗北にも拘らず十河勢の失ったユニット数は2ユニットのみ。何とか回復の可能性を残した敗走であった。
ここで十河側は馬鹿正直に合戦に応じたが、自城のヘクスに位置していた場合、合戦を拒否することができる。ただし通常の野戦は拒否できない。合戦ではなく野戦の場合、1部隊同士の戦いになるので、長宗我部勢の数的優勢をある程度緩和できる。また地形効果や指揮官の能力で十河側が勝っているので、今回のような惨めな大敗を喫することなく遅退戦術が可能であったと思われる。
その後、十河勢は本城である勝端に後退。十河方の武将で牛尾城を守る新開実綱は、長宗我部勢の奸計により暗殺されてしまい、牛尾城は長宗我部の元へ。先に合戦が戦われた岩倉城も長宗我部勢が奪取した。さらに長宗我部勢は、主力の長宗我部元親と同信親の部隊が十河氏の本城である勝端城に迫る。勝端城危うし。
その時、十河氏は奇策を取った。勝端城をワザと解放状態にして長宗我部勢を誘い出す。そして折からの大雨で吉野川の水嵩が増したことを見計らって十河勢主力を長宗我部勢の背後に集結させる。先の「岩倉の戦い」で敗北した十河勢であったが、合戦から約1ヶ月経過した後ということもあり、十河方の兵力は決戦が可能なレベルまで回復していた。
大雨による増水で連絡線を断たれた長宗我部勢は浮足立つ(士気-1)。そこへ立ち直った十河勢が猛攻撃を加えた。後に言う「中富川の合戦」である。今回も兵力では長宗我部勢が優位にたっていたが、前回とは違って兵力の半数が城攻めに回っていた長宗我部勢に対し、十河勢は稼働兵力のほぼ全部をこの合戦につぎ込んだ。その結果兵力比は前回の「岩倉の戦い」よりも十河勢に有利になっていた。
指揮能力の違い(十河存保は長宗我部元親よりも野戦能力が1つ高い)と連絡線切れによる混乱により長宗我部勢は十河勢の猛攻を阻止できなかった。さらに戦場が敵地であり背後を押さえられていることから、長宗我部勢はこの戦いで大敗北を喫した。これにより継戦能力を失った長宗我部勢は阿波の国内から下がるしかなかった。
感想だが、小粒ながらも色々と考える所の多いシナリオである。兵力的には長宗我部勢が圧倒的に優勢だが、吉野川沿いの急峻な地形、十河勢の指揮能力の高さなどを加味すると、十河勢にも付け入る隙はありそうだ。実際、今回のシナリオで十河勢が勝利を収めたように・・・。
全体の感想
小粒ながらも良くまとまった作品である。練習用のシナリオである1,2はとにかく、その他のシナリオはいずれも遊べそうな内容だと思う。兵力差が結構ハッキリしている上、質的な優劣が少ないため、兵力の大きい側が一方的に押す展開になりがちだ。しかし内線と外線の使い分け、シナリオでのハンディキャップの設定等もあって劣勢側でもある程度は戦えるようになっている点は評価したい。さらに言えば、各シナリオの長さが最大でも20Turnと短く、登場するユニット数も手頃なので、1日あれば十分にフルターンをプレイできる。四国の戦役自体はややマイナーだが、登場する武将たちは、長宗我部元親、羽柴秀吉、丹波長秀といったメジャー所なので、そういった意味からでも楽しめる作品だ。