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Panzer Leader(以下、本作)は、米国Avalon Hill社(The Avalon Hill Game Co)が1974年に発表したシミュレーションゲームである。テーマは1944~45年の欧州西部戦線における戦術戦闘である。1Turnは実際の6分間に相当し、1Hexは250m、1ユニットは1個小隊に相当する。
今から約半世紀前の古いゲームであり、システムは比較的シンプル。両軍とも射撃、移動の順でプレイヤーターンを繰り返すシステム。射撃が移動の前に実施されるが、射撃を実施したユニットは原則として移動できない。従って防御側は通常敵よりも先に発砲できるものの、その場に留まっていれば生き残った敵から痛烈な反撃を食うことになる。

本作は東部戦線における戦術戦闘を扱ったPanzerBlitz(以下、PB)の姉妹編である。ただしPBよりも後発のため、いくつかの点でルールに改良が加えられている。まず制限付きであるが、臨機射撃が可能となった。PBでは臨機射撃ルールがなかったため、自身の移動中に敵から撃たれる心配がなかった。そのために物影から出てきて敵の目の前を横切った後、物影の向こうに姿を消す、という芸当が可能であった。しかし本作の場合、臨機射撃が可能なので、ノンビリ敵の目の前を横切っていると、敵から臨機射撃を浴びて酷い目に合う可能性が出てきた。

スポッティングに関するルールも変更になっている。PBでは市街地や森林などの障害地形にいる敵に対しては、そのヘクスに隣接しているユニットからしか見えない。本作でもその点は同じだが、森林や障害地形によるユニットが一度発砲すると、スポッティングマーカーがそのヘクスに置かれ、それ以降はどのヘクスに対する射撃が可能となる。従って本作では非力な偵察部隊を敵に接敵し、敵が発砲した所でスポッティングマーカーを載せて射撃を加える、という芸当が可能になっている。

その他、間接射撃、空爆、上陸作戦などのルールが用意されれおり、西部戦線における様々な戦術場面を再現できるようになっている。

今回、本作を対人戦でプレイすることになった。私にとっては正真正銘の初プレイとなる(PBはプレイ経験あり)。追加ルールの臨機射撃は採用したが、選択ルールは採用しなかった。

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S.17 セルの転回点

最初にプレイしたのは1944年12月25日におけるセルの戦い。米第2機甲師団とドイツ軍第2装甲師団の「第2対決」である。私はドイツ軍を担当した。

ドイツ軍の任務はセルに突入してくる米運を撃退すること。中央のマップに森があり、その間に道路が走っている。その森が戦場を南北に分けているので、南北それぞれで戦線が構築される。

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米軍は3つに分かれて全戦線で攻勢を仕掛けてきた。ドイツ軍は北部にパンター戦車を主力とする装甲部隊、中央の森林地帯には輸送車両と少数の歩兵、そしてそれを支援する自走砲などある。そして戦線南部には歩兵部隊を展開する。

ドイツ軍は防御側なので米軍の前進を待つのみ。対する米軍は徐々に前進してくるが、積極的に交戦せず、徐々に後退して時間を稼ぐ。

戦線右翼で米独の歩兵部隊同士が接触する。歩兵戦力で勝るドイツ軍が有利に戦いを進めているが、米軍も増援部隊を送り込んで攻勢を強める。

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結局3Turn頃までプレイしてみたが、両軍とも色々ミスをしたので、このシナリオはここでいったんお開きとした。

S.16 バストーニュ戦序章

次に選んだシナリオは、シナリオ16「BASTOGBE PRELUDE」。米第101空挺師団がバストーニュ東部で防衛線を構成し、それをドイツ軍戦車教導師団が攻撃するというシナリオである。両軍とも歩兵兵力が中心で、米軍にはM7プリースト自走砲が2ユニットとM5軽戦車が3ユニット、ドイツ軍はヘッツァー駆逐戦車と装甲車等数ユニットが機甲兵力の全てとなる。私は米軍を担当する。

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歩兵同士の白兵戦合戦になったが、ドイツ軍が押し切る形で勝利した。

S.18 バストーニュ戦包囲戦

次に選択したのはシナリオ18「BASTOGNE: SIEGE」。ドイツ軍戦車教導師団がバストーニュを守る米第101空挺師団に対して最後の総攻撃を敢行する。両軍とも機甲兵力を含む大規模な部隊が登場する。ドイツ軍の戦車は4号戦車とヘッツァー駆逐戦車。米軍はM10とM18ヘルキャット駆逐戦車を含む。またこのシナリオでは米軍に航空兵力(P-47サンダーボルト10機、L-5観測機1機)が登場する。私は独軍を担当した。

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このシナリオの勝利条件は独軍が米軍の戦線を突破して一番右端のマップに部隊を突入させることである。独軍は当初中央の森林地帯を歩兵で突破する作戦に出た。しかし米軍が装甲車の残骸で森林の道路を封鎖する「ダーティーな」戦術を実行。このゲーム、道路に残骸が3個残ると、その道路は使えなくなる。また車両は道路を使わず森林地帯を通過できない。かくして米軍は自軍装甲車の犠牲によって中央部の道路封鎖を達成する。うぐぐ・・・。

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ドイツ軍は攻撃目標を南のST.ATHANに変更する。その時、上空に米軍機が飛来した。4号戦車の車体に20mm4連装機関砲を搭載したヴィルベルヴィント対空自走砲が火を噴いた。1機のサンダーボルトが火を噴いて落ちていく。残った2機のサンダーボルトはヴィルベルヴィントを狙って急降下。ロケット弾の斉射を見舞ったが、出目は(米軍にとって)最悪の"6"。ヴィルベルヴィントは辛うじて生き残った。

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航空機による視認ルールには注意が必要である。我々が参照したHobby Japanの和訳ルールにはスッポリと抜け落ちているからだ。英文ルールで確認すると、航空機と地上部隊の視認は別として扱う、とある。つまり地上部隊が敵を「発見」しても、航空部隊が発見したことにはならないのだ(当時の貧弱な空地通信システムを考慮すれば納得できる話だ)。航空機同士で情報を共有することは可能である。また航空機が敵を発見するためには、平地の場合は30ヘクス以内なら自由、障害地形の場合は敵が射撃を行った場合に敵の10ヘクス以内にいる場合のみ、とある。要するに航空機が狙いたい敵が障害地形にいる場合には、その敵部隊の近くをマッタリと飛行し続けていなければならない。その間当然対空射撃の目標にはなってしまう。だから米軍としては最初に空爆で対空陣地を制圧した方が得策かもしれない。

ドイツ軍の機甲部隊はST.ATHANの市街地に向けて偵察用の装甲車を前進させた。ST.ATHANを守る米軍の砲火が装甲車に命中。装甲車は一撃で残骸と化す。しかし敵の発砲によって位置を掴んだドイツ軍は機甲部隊の全火力をSt.ATHANに集中した。4-1攻撃が見事に成功してST.ATHANの入り口を守っていた米軍守備隊は壊滅する。これによって突破口を得たドイツ軍は、バストーニュへ向けた突破が可能となった。

この時点で勝利を諦めた米軍の投了によって本シナリオは終了となった。

感想

かなり古いゲームなので、アラを探せばいつくも見つかるだろう。しかし好意的に見ると、様々な欠点があるにしても「現時点でも十分に遊べる好ゲーム」という印象を持った。また近年の同種作品に比べるとルールの軽さが圧倒的である。従って盤面一杯に広がるような大部隊を指揮していても、いわゆる「重さ」は殆ど感じない。むしろこのような大軍を縦横無尽に扱えるというのは、ウォーゲーマー冥利に尽きる。本作やPBが現時点でも数多くのファンの心を掴んでいる意味がわかったような気がした。

ちょっと議論になりそうなのはレーティング。確かに米軍が少々強い。特にシャーマン戦車の評価が高い。国防軍のパンターと76mmシャーマンがほぼ同性能と書けば、独軍ファンなら怒りを禁じ得ないかもしれない。本作の後に発表された国産の「装甲擲弾兵」が逆に極端に米英戦車を弱く設定しているのは、本作に対するアンチテーゼかもしれない。

いずれにしても本作は面白かったので、姉妹編のPBや「アラブ・イスラエル・ウォー」なんかもプレイしたいと思う今日この頃である。

M4 76mm