210620_修羅の翼

修羅の翼

角田和男 光人社NF文庫

海軍第12航空隊、第2航空隊(582空)、第252航空隊、第201航空隊等に所属し、日中戦争からラバウル・ソロモンの航空戦、1944年硫黄島上空の戦い、そしてレイテ、沖縄等での特攻作戦などに参加し、辛くも生き残った筆者が綴った戦争体験の著作。開戦から終戦まで零戦搭乗員で通し、ほぼ戦争全期間に渡って最前線で戦い抜いた筆者が生き残ったのは奇跡に近い。彼の戦歴は以前に紹介した岩本徹三のそれに似ているが、岩本徹三には一匹狼的な雰囲気が漂うのに対し、筆者はあくまでもチームとしての立場を重視している。従って岩本のように撃墜数の大小に対する拘りはない。(最終撃墜数は9機と伝えられている)
本書は単なる戦史ではなく、筆者なりの零戦搭乗員たちに対する鎮魂の意味が大きいように思う。特に筆者自身が特攻隊員となり、数々の特攻隊員たちが敵艦に突入していく姿を見ているので、「死に遅れてしまった」という思いが強かったのかもしれない。さらに筆者は大西瀧治郎が何故特攻という作戦に踏み切ったのか、所謂「特攻の真意」について独特の見解を持っている。本書の主張については、巷間伝えられている大西の戦争継続への行動と相容れないものがあり、個人的には同意し難い。しかし当事者の発言は貴重であり、そういった意味で筆者の主張は興味深いものがある。

お奨め度★★★★