210826_誰も

誰も語らなかったニッポンの防衛産業

桜林美佐 産経NF文庫

防衛問題研究家として知られている筆者が語る防衛産業の実態である。防衛産業といえば、「産軍癒着」とか「天下り」といった感じで悪く言われることが多い。しかし実際の防衛産業は決して「旨味」の多い仕事ではなく、むしろ経営面では不利な仕事である。そのような中、多くの防衛産業は「国を守るため」という使命感で仕事を続けているが、厳しい現実には勝てず、国防を担っていた多くの企業は倒産や防衛事業撤退を余儀なくされている。
筆者は戦車や火砲、弾薬や装甲といった防衛装備品を作る国内企業のいくつかを訪問し、その生産現場をリポートしている。そこで語られている事は、日本の防衛産業が直面している厳しい現実とその中で国防の重責を担うべく奮闘する人々の姿である。筆者は防衛を担うこれら企業の姿勢に暖かい視線を注ぐとともに、こういった防衛産業の将来に対して無策である我が国の政治や国内世論に対して厳しい視線を向けている。明治時代から操業し、1945年3月の東京空襲では30名の殉職者を出したとあるゴム工場の社長は言う。「平和とは自ら作るものだと思います」という言葉を発している。それを受けて筆者は言う。平和とは何かを誰も教えてくれない、教えることなどできないのだ。自らが自らの手で実現すること。努力して手に入れるものなのだ。と。
防衛産業の実態や防衛産業の今後と国防政策について考えさてくれる著作である。文章も平易で読みやすく、一気に読むことができる好著だ。万人にお奨めしたい著作である。

お奨め度★★★★