211105_日本陸海軍


なぜ日本陸海軍は共に戦えなかったのか

藤井非三四 光人社NF文庫

今や「海軍善玉説」は色褪せて久しいが、本書でもいわゆる「海軍善玉説」に対する反例が次々と提示されている。例えば昭和時代に軍部が暴走した件について、満州事変や2.26事件は陸軍が「主犯」と言えるが、5.15事件は海軍が主犯である。さらに昭和初期に急進的な先軍思想に走ったのは、海軍の特に航空関係者だったというのは驚きだ(あの真珠湾攻撃の戦闘隊指揮官、板谷茂も危険人物としてマークされていたという)。
本書では明治、大正、昭和という時代の中で、陸海軍の統合作戦思想がどのように育まれ、どのように崩壊していったかを記している。特に重要なのが日露戦争末期から大正時代にかけての海軍予算偏重で、八八艦隊という分かりやすい「宣伝」を行った海軍が予算の多くを取得していたという。それは八八艦隊がワシントン条約で廃棄された後でも続いていた。その結果、日本陸軍の装備更新は進まず、旧態依然とした装備のままであった。
よく日本陸軍の旧式装備が批判されるが、海軍が予算の大半を独り占めしている状況で、しかも装備品以外の予算が多くを占める陸上部隊にとって、装備更新が進まなかったことを陸軍のみの責とするのは一面的過ぎるといえる(いわんや「日露戦争で史実よりも日本陸軍が大敗したから海軍の発言権が増えて八八艦隊が実現した」等という仮想戦史等は寓話に等しい、というか寓話そのものだけど・・・)。
さらに本書では太平洋戦争における戦いぶりにも触れ、その中で陸海軍の統合作戦が崩壊していく様を記している。本書によれば、第2段階作戦以降では主に海軍側の作戦構想に陸軍が引っ張られる形となり、しかもそれが失敗を繰り返したために陸軍部隊の多くがその犠牲になったという(ガダルカナルやアッツ島)。陸軍は失敗を繰り返す海軍に不信感を抱き、それが感情的なしこりとなって統合作戦の阻害要因になったとしている。つまり「陸海統合作戦失敗の主要因は海軍側の作戦失敗だが、それに対して「大人の対応」ができなかった陸軍も褒められたものではない」というの本書の出張と言えるかもしれない。

お奨め度★★★★