戦史叢書第46巻-海上護衛戦
防衛省戦史室
前大戦時に旧海軍が海上護衛を軽視し、そのことが敗戦の大きな原因となった、とは巷でよく言われている。では、その実態はどうだったのか。そのことを防衛省戦史室の立場で論じたのは本書である。
本書は戦前から、開戦時、そして戦争中における海上護衛戦の実態について、史料に基づいて記した著作である。戦史叢書の類にもれず、本書は主に日本軍における組織や人事、兵器整備といった観点を中心に描いている。また海上護衛戦という性格上、具体的な護衛戦について記述はやや乏しく、強いてあげるなら1944年前半に実施された中部太平洋方面兵力輸送作戦「松作戦」と1945年1月に起こった米機動部隊艦載機による「ヒ86船団」の壊滅が取り上げられているに過ぎない。そういった意味で海上護衛戦の現場がどのようなものだったかを知るにはやや寂しい内容であった。
最初に取り上げた「前大戦で旧海軍が海上護衛戦を軽視した」という命題について、本書は否定的な見解を示している。本書によれば旧海軍でも海上護衛の重要性は認識していたが、予算上の制約からより重要度の高い決戦兵力整備に重点を置かざるを得ず、結果的に海上護衛に対しては手当てが遅れたとしている。また旧海軍が戦前に想定した対米1国戦では、護衛の範囲はせいぜい台湾までで、前大戦のように全世界を相手に西太平洋全域で戦うような戦争は想定していなかったという。また決戦兵力重視という批判についても、そもそも決戦兵力が敗れて制海権が失われてしまえば海上護衛そのものが成り立たない。だから決戦兵力への重点を置くという兵備も間違いではなかった。事実、レイテ海戦で聯合艦隊の決戦兵力が事実上壊滅するまでは、米機動部隊といえども南西航路の海上交通線を攻撃できなかったではないか。
本書の主張に同意するか否かは読者の判断に委ねたい。
お奨め度★★★
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