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(写真上)971型(アクラ級)原潜。本級ははじめて米原潜に匹敵する静粛性を獲得したソ連原潜である。

ソ連/ロシア原潜建造史



 ロシアの艦船研究家アンドレイVポルドフ氏が「世界の艦船」誌に連載していた同名記事を1冊にまとめたもの。ロシア側から見た自国の原潜建造史ということで内容的には非常に興味深いものがある。今まで西側の情報機関経由で知るしかなかったソ連/ロシアの原潜建造の実態が、当事者の視点から、しかも日本語で読めるということは素晴しいことだと思う。本書では、ロシア原潜にまつわる技術的な特徴、数多くの栄光、あるいは数多くの悲惨な事故が紹介され、その内容はどれも新鮮であり興味深いものがある。
 技術的な注目点を1つ上げると、従来「騒々しい」と言われていたロシア攻撃型潜水艦が、実は静粛性においても米原潜にそれほど見劣りしていなかったということ。671(ヴィクター)型はその静粛性を生かして何度も米英の対潜部隊を出し抜くことに成功し、971(アクラ型)は米ロス級原潜よりも静かであるという。氏自身の自国兵器に対する身贔屓があるかも知れないが(でも本書を読む限りその種の「身贔屓」は殆ど感じさせない)、実際ロシア製の原潜が静粛性の点においても極めて優秀であり(その一因が例の東芝スキャンダル)、米原潜に比べても今やその個艦性能はほぼ拮抗していると考えてよいのではないだろうか。
 一方ロシア原潜にまつわる事故については、近年になって大型原潜クルスクの沈没事故やミサイル原潜K-19、K-219の悲劇的な最期が映画や文書で紹介され、ロシア潜水艦の危険な実態が次第に明らかにされてきた。しかし本書を読めばそれらの事故が実は氷山の一角に過ぎず、ロシアにおける潜水艦開発がある意味で事故の戦いであったことを知らされることになる。また事故を防ぐためにロシア潜水艦の設計が、次第に居住性や乗員の精神衛生を配慮したものに変化していったという点は興味深かった。
 いずれにしても現在海戦に興味のある方には必読の1冊だと思う。
 余談だが、筆者はロシア人だが、日本語で書かれた彼自身の文章は非常に読みやすく、氏の非凡な語学力を感じさせてくれる。

評価★★★★★