第5艦隊(VG)
概要
「第5艦隊」は、Victory Gamesから発売されたフリートシリーズの第4弾です。フリートシリーズとは、20世紀末における海上戦闘を擬似再現するシミュレーションゲームシリーズで、第1作の「第6艦隊」から最終作の「第3艦隊」まで計5作品がVictory Gamesから出版されました。我が国ではHobby Japanがライセンス権を獲得し、初期3作品(第6、第2、第7)が日本語版として発売されました。1ターンが実際の8時間、1ヘクスが約50海里を表し、複雑な現在海戦を比較的簡単なルールで再現した好ゲームです。今回「第5艦隊」の舞台はインド洋。東はシンガポールから西はペルシャ湾までの広大な海域をフルマップ3枚で表現します。主役はいつもの通り米国海軍で、その敵役はこれもまたいつものソ連海軍です。脇役達は多彩な顔ぶれで、まず最有力なのがインド。空母2隻や潜水艦、ミサイル駆逐艦等を持つ有力な海軍です。これはシナリオの指定によって西側についたり東側についたりする蝙蝠のような存在です。またインドのライバル=パキスタンも登場しますが、海軍力が中心のこのゲームではパキスタン軍はやや影の薄い存在です。それでもF-16を持ち、潜水艦、フリゲート艦、ミサイル艇等を持つパキスタン軍は、地域勢力の中では強力な方かも知れません。
その他、この地方フランチャイズのサウジアラビア、イラン、イエメン、バーレーン、オマーン、クウェート、マレーシア、カタール、タイ、UAE、インドネシア等があります。いずれも空軍1ユニットとかミサイル艇1隊といった御登場ですが、サウジだけは(生意気にも)フリゲート艦等を持ち、空軍もトーネードやイーグル(米軍のよりも少し弱いのが笑える)を持っています。そういえばイランの空軍も数だけは多いのでそれなりに有力です。あとインドネシアが潜水艦を保有しているのも少し笑いました。
さらにさらに、遠く遠征軍として、オーストラリア、イギリス、フランス、イタリア軍も登場します。特にイギリス、フランスは空母まで投入するという気合の入れ様です。空母の数では米3、露2、英1、仏1、印2の合計9隻というのは、フリートシリーズでは最大の数ではないでしょうか?。(「第7艦隊」は両軍合わせてたったの5隻!)
システム
基本的には前作「第7艦隊」のルールをそのまま踏襲しています。しかし細部ではかなり手を加えています。まず戦闘結果表が変わりました。低火力欄が今までよりも細分化され、その結果小さい火力でも敵に損害を与える可能性が高まりました。潜水艦探知表も改訂され、今までよりもより潜水艦が探知し辛くなりました(ただし捜索側のASW値が大きいとダイス修正を得られるため、単純に探知し辛いとも言えないのですが・・・)。そのASW値も、水上艦のそれが大きく減ぜられ、「第7艦隊」では「15」を誇ったロシア「キエフ」級軽空母もここでは「10」になっています。対艦ミサイルの種類で今までのシースキマーに加えて高速ミサイルが登場しました。ロシア製ミサイルの大半がこの種類です。また対艦ミサイルに対する防空能力が改正され、シースキマータイプ相手の場合は広域防空力1/2、高速ミサイル相手の場合は近接対空火力1/2になります。結果として、対艦ミサイルは「落としにくく」なりました。
巡航ミサイルのルールも改訂され、上空にCAPがついている基地に対する巡航ミサイル攻撃は不利な修正が適用されることになりました。
選択ルールには米海軍のスタンドオフ対潜兵器「シーランス」が登場します。これは3ヘクス離れた距離の敵潜水艦を攻撃できる兵器で、改ロス級とシーウルフ級のみが搭載しています。でも現実の世界では、確か「シーランス」はその後にキャンセルされたと思います。
シナリオ
9本の中級シナリオと3本のキャンペーンシナリオが用意されています。中級シナリオは今までのゲーム同様に短時間で楽しむことができます。キャンペーンはマップ3枚を利用する大規模なものですが、規模に応じて大中小の3段階が用意されており、一番小さいシナリオなら長さ12ターンなので1日あれば十分終わらせることができます。登場兵器
米軍
「第7艦隊」から大きく変わっていません。空母3隻、戦艦1隻、イージス巡洋艦2隻という布陣も前回同様です。ユニットのレーティングも大きな変化はありません。今回新たにシーウルフ級の潜水艦が登場しました。しかしその性能は改ロス級を大きく上回ることはなく、性能向上著しいソ連新鋭原潜相手に劣勢を強いられることになります(余談ですが、シリーズ最終版「第3艦隊」で再登場した「シーウルフ」は、ロシア新鋭原潜を上回る性能を獲得し、再び世界最強の原潜となりました。メデタシメデタシ)。1つ忘れていました。このゲームでは初めて米国のオハイオ級戦略原潜が登場します。ソ連の基地から遠く、またソ連主要部をその射程距離に収めることができるインド洋は、米戦略原潜にとって格好の隠れ場だったようです。そしてソ連原潜が米戦略原潜を追いかけるシナリオもあります。
ソ連
初めて空母「トビリシ」が登場しました。前前作の第2艦隊で「クレムリン」という火葬戦記に出てきそうなソ連空母が登場しましたが、今回の「トビリシ」は実艦の姿がかなり明白になってきたということで、レーティングの精度も高くなっています。搭載機は、Su-27とMig-29の艦載機型がそれぞれ2ユニット。その他に電子戦機と早期警戒ヘリを搭載しています。搭載ユニット合計6枚は米空母の8枚に拮抗しうる数ですが、個々のユニットを構成する機数が少ないのでしょう。ユニット単体の能力は米軍機に比べてかなり低く設定されています。あとこの「トビリシ」には対艦ミサイル能力がありませんが、今ではこの空母「クズネツォフ提督」(「トビリシ」の現在名)が大型対艦ミサイル発射機を搭載されていることが確認されています。軽空母「キエフ」も健在です。しかしその搭載機Yak-36は航続距離6、空戦力3と殆ど「使えない」レベルにまで性能を下げられてしまいました。実機に対する評価としては妥当だと思います(「キエフ」ファンは泣くかな?)。というよりも今までが良すぎたのでしょう。
巡洋艦はキーロフ級の「カリーニン」とスラバ級2艦(「マーシャル・ウスチノフ」「チェルボナ・ウクライナ」)が登場します。第7艦隊に比べれば随分豪華な布陣ですね。それでもスラバ級の広域対空火力がソブレメヌイ級駆逐艦以下なのは納得できないところです。これは数値を逆にすべきでしょう。駆逐艦以下については、第7艦隊からあまり変わり栄えしてません。
とまあソ連水上艦の充実ぶりは旧ソ連海軍ファンにとって感涙モノなのですが、それ以上に旧ソ連海軍ファンを泣かせるのは、第5艦隊に登場する「赤衛潜水艦隊」の精鋭達です。今回新たに登場するのは、シエラ型が2艦、アクラ型が2艦です。シエラ型はヴィクター3型に巡航ミサイル搭載能力を付与しただけの平凡な潜水艦に過ぎませんが、アクラ型は違います。防御力9、速力4は、帝国主義者共が誇らしげに語る改ロス級やシーウルフ級を凌駕し、文字通り「世界最強」の原潜となりました。しかも「深深度潜行潜水艦」ということで静粛性もカウボーイ達のそれを上回っています。ロシアの艦船研究家アンドレイVポルドフ氏が、その著書「ソ連/ロシア原潜建造史」の中でアクラ型について「ソ連原潜の静粛性が初めて米原潜のそれを上回ることになった」と誇らしげに記していますが、その気持ちがわかるように思います。また同時にこの時期米国海軍がソ連潜水艦の急激な静粛化に如何に頭を痛めていたかもわかります。アクラ型と共に巨大なオスカー型原潜も防御力9と深深度潜行能力が与えられました。対艦ミサイル火力も30に強化され、今までに比べてより一層沈めにくい「海のモンスター」になったのです。ただ残念なことに「第7艦隊」で用意されていた65式航跡追尾魚雷のルールは、本作ではなくなってしまいました。
インド
当時アジアでは唯一の空母保有国であるインド海軍。空母といってもシーハリアー搭載の軽空母に過ぎませんが、それでも洋上艦隊にエアーカバーを提供する貴重な存在です。シーハリアーの性能は、航続力8、空戦力3とYak-36に毛が生えた程度です。一応対艦ミサイル携行能力があるので、防御の弱い艦隊相手には有効です。護衛艦艇も充実していて、ソブレメンヌイ級やカシン改型といった駆逐艦、リアンダーや国産のフリゲート等、その装備(やや小粒ながらも)は米ソの艦隊に比べて左程見劣りしません。潜水艦はヴィクター3型の原潜2隻と、ソ連製、西ドイツ製等のディーゼル潜数隻があります。当時インド海軍の原潜購入プロジェクトは、その実体があまり詳しく判明しておらず、このゲームでも半ば推測で1992年~1994年の間に2隻のヴィクター3型原潜をインドは保有することになるであろう、としています。実際にインド海軍が手にしたのは、ヴィクター3型ではなくチャーリー1型で、リース契約によってインド海軍が入手したことが今日では知られています。
インド空軍は、Mig-25、Mig-29、Mirage2000、Jaguar等を装備する有力な戦力です。ただ航続距離に難のある機体が多い関係上、広大なインド洋で作戦行動するのはやや荷が重いかも知れません。
英、仏、豪
イギリスは軽空母「アークロイヤル」と護衛艦艇3隻、そして原潜「タービュラント」が登場します。「タービュラント」は1984年就役の新鋭艦ながら、その性能は米海軍の旧式潜水艦「スタージョン」級と同程度でしかありません。フランスは空母「クレマンソー」と護衛艦艇3隻、原潜「カサビアンカ」、そして若干の基地航空兵力が登場します。旧式空母「クレマンソー」の搭載機は、しかし新鋭のラファール戦闘機になっています。原潜「カサビアンカ」は、これまた1987年就役の新鋭艦なのですが、そのゲーム上での評価は悲惨なもので、特に対潜戦能力は皆無に等しいです。
オーストラリアは、水上艦艇数隻とディーゼル潜1隻が登場します。ディーゼル潜は西側の新鋭艦共通の性能で、原潜と戦うにはやや力不足ですが、敵旧式潜水艦や対水上阻止戦ならば十分使えます。航空兵力はF-111とP-3Cが登場します。余談ですが、F-111の空戦力6は、Su-24の空戦力4と並んで本ゲームで納得できないレーティングの1つです。アードバーグでどうやって空対空戦闘するんだあ・・・?。
最後に
うーん、もう少し各国の兵器に触れたかったのですが、もう紙面がなくなってきました。最後に一言。この「第5艦隊」は、フリートシリーズで培ってきたノウハウが集大成された、いわばフリートシリーズの決定版とも言えるゲームです。舞台となるインド洋は一見地味ではありますが、そこには多種多様な国家があり、多種多様な海軍があります。古いゲームなのでデータの古さは否めませんが、逆にこのゲームがテーマとしている1990年前後は、米ソ対決という「ゲーマーの夢」(おいおい)を実現できる可能性があった最後の機会です。「第5艦隊」をプレイし、今や過去となった冷戦時代に思いを馳せるというのも、悪くないのではないでしょうか。
追伸1:第5又は第3艦隊のシステムで「第2艦隊」を作って欲しいと思うのは、私だけではないでしょう。
追伸2:せっかくだからインド洋にJMSDFの補給艦と護衛艦を出しましょうか・・・?
追伸2:せっかくだからインド洋にJMSDFの補給艦と護衛艦を出しましょうか・・・?
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