(写真1)サマール沖海戦で砲火を浴びる米護衛空母。この海戦での日本側の砲雷撃戦技術は優秀とは言えず、後に米海軍から失笑を買うことになってしまう。
(写真2)米駆逐艦「ホエール」。サマール島沖海戦では奮戦したが、40発以上の砲弾を浴びて撃沈された。
(写真3)米巡洋艦「ウィチタ」。エンガノ岬沖海戦で日本空母「千代田」と駆逐艦「初月」撃沈に大きく貢献した。
(写真2)米駆逐艦「ホエール」。サマール島沖海戦では奮戦したが、40発以上の砲弾を浴びて撃沈された。
(写真3)米巡洋艦「ウィチタ」。エンガノ岬沖海戦で日本空母「千代田」と駆逐艦「初月」撃沈に大きく貢献した。
興味深い史料を見つけました。
タイトルは「BATTLE EXPERIENCE - BATTLE FOR LEYTE GULF」。訳すると「レイテ湾海戦における戦闘経験」とでもなるのでしょうか?。レイテ戦における米軍の戦訓をまとめた資料だと解釈できるように思います。日付は1945年4月1日ですから、レイテ海戦から半年以内にまとめた資料ということになるのでしょう。そういった意味からは極めて史料性の高い内容だと理解することができます。
前回は、米軍が見た日本軍の兵力とその損害量見積もりについて取り上げました。今回は別の視点から見てみましょう。
前回は、米軍が見た日本軍の兵力とその損害量見積もりについて取り上げました。今回は別の視点から見てみましょう。
タイトルは「Enemy Gunnery」(敵の砲撃)。
最初に駆逐艦「ホエール」のコメントが掲載されています。同艦はサマール島沖海戦で日本艦隊の集中砲火を浴びて撃沈されてしまったのですが、そのコメントは興味深いものがあります。
最初に駆逐艦「ホエール」のコメントが掲載されています。同艦はサマール島沖海戦で日本艦隊の集中砲火を浴びて撃沈されてしまったのですが、そのコメントは興味深いものがあります。
「敵水上射撃能力は我々の標準よりも相当劣るように見えた。これは日本軍が使用する非常に小さなrange patternによるものかも知れない。敵のrange patternは、砲弾の種類を問わず、9000ヤードまでは50ヤードを超えることがなかった。このことは、艦に実害を与えないニアミスが異常に多いという事実からも裏付けられる。」
ここでいうrange patternは、俗に言う「散布界」のことでしょう。興味深いことに、彼らの見解によれば「散布界が狭い」=「命中率良好」ではないのです。これは某黛治夫氏が「日本軍は散布界が小さいから命中率が米軍の3倍だ」(笑)という主張と比較した場合、より興味深く思えます。この話はまた後で出てきます。
次に護衛空母「カリニンベイ」の証言。同艦はサマール島沖海戦で戦艦級の主砲弾を含む十数発の命中を受けながらも致命傷を被らずに生還した強運艦です。
「敵の一斉射撃は距離精度は良好である。しかし方向精度は貧弱である。「カリニンベイ」が連続的な命中弾を受け始めたのは、先頭の敵巡洋艦が約15000ヤード以内に接近してきてからである。」
これもまた興味深い証言です。というのも、目視観測が頼みの日本軍の場合、距離方向の精度は電探に比べるとどうしても落ちます。一方で方向精度は光学観測でも電探に劣りません。だから「距離精度が悪い」というのなら理解できるのですが「方向精度が悪い」というのは意外でした。ひょっとしたら交戦距離が近かったために、距離精度の劣化が小さかったのかも知れません(光学照準の場合、距離方向の精度は一般に観測距離の2乗に逆比例します)。
次は第6巡洋艦戦隊の証言です。同部隊はエンガノ岬沖海戦で日本空母「千代田」及び駆逐艦「初月」と交戦しました。以下の証言は恐らく「初月」と交戦した際のものです。
「敵巡洋艦からの砲撃は明らかに効果がなかった。確認されたいくつかの着弾は数千ヤードも近弾であった。手元にあるレポートから判断できる範囲においては、敵巡洋艦は無発光火薬を使っていたのは明らかである。Whchitaは多くの至近弾と共に2度にわたって夾又されてたと報告している。敵艦艇の中で、射撃管制用レーダーを使用した艦の存在は認められない。Wichitaのパルス受信機(AN/SPR1)とパルス解析装置(AN/SPA1)には何らの表示も認められなかった。」(一部省略)
実は駆逐艦である「初月」を彼らは巡洋艦と誤認してますね。夜戦なので慌てていたのかも知れませんが、駆逐艦にしては大きめの排水量と安定感のあるシルエットを持つ秋月型駆逐艦を巡洋艦と誤認したのは、ある意味仕方がないことなのかも知れません。このレポートからは当時米軍が日本側の射撃管制用電探導入を非常に警戒していた事実を伺わせます。
そのレーダーについては、次の「Enemy Rader」(敵のレーダー)に詳しく記載されています。
再び駆逐艦「ホエール」の登場です。
「1,大和級戦艦は火器管制用レーダーを装備していて、それは測距儀の上にマウントされて方位盤と一緒に回転する。そのアンテナは、一部を除けば、外見上は我々のFDレーダーと良く似ている。
2.敵駆逐艦については、レーダーアンテナを示す証拠はない。
3.敵の火器管制レーダーの性能はとても貧弱である。我が艦隊がスコール雨の中にいる時は、敵は我々が有効射程距離内にいるにも関らず射撃を中止している。
2.敵駆逐艦については、レーダーアンテナを示す証拠はない。
3.敵の火器管制レーダーの性能はとても貧弱である。我が艦隊がスコール雨の中にいる時は、敵は我々が有効射程距離内にいるにも関らず射撃を中止している。
大和級の「火器管制用レーダー」とは、恐らく21号対空電探のことだと思われます。「大和」は他にも22号、13号等の電探を当時は搭載していましたが、米駆逐艦はその事実に気づかなかった模様です。また大和以外でも例えば日本の各駆逐艦は前檣の22号電探、後檣に13号電探を持っていましたが、米艦は気づかなかったのかそれとも知っていて無視したのかはわかりませんが、記録上は残っていません。
「日本レーダーの性能が貧弱」云々については、彼らの指摘通りだと言わざるを得ません。
「日本レーダーの性能が貧弱」云々については、彼らの指摘通りだと言わざるを得ません。
再び護衛空母「カリニンベイ」の証言です。
1.1944年10月25日における日本艦隊水上艦艇とT.U.77.4.3との間の交戦において、5隻のテルツキ級駆逐艦が交戦終了間際に魚雷を発射した。(以下略)
2.魚雷攻撃の最初の兆候は、Kalinin Bay後方のTBMが機銃掃射をするために真っ直ぐ降下したときだった。その機銃掃射に続いて大きな爆発が起こった。それはその機が魚雷を破壊することに成功したことを明確に示していた。後の報告によれば、その同じ機体が2回目の魚雷攻撃も始末したそうである。TBMが魚雷を撃破した後、魚雷の航跡が艦の両側で見つかった。最も正確な見積もりによれば、12~16発の魚雷が一斉に発射された。魚雷の1つまっすぐこちらに向かってきて、明らかに命中しそうであった。その魚雷は5インチ砲の砲火を浴びた。その魚雷は飛行甲板の下に消えた。しかし爆発は続かなかった。5インチ砲の装填手は、魚雷が正面に5インチ砲の直撃を受けて最後の瞬間に右に旋回した、と報告した。
2.魚雷攻撃の最初の兆候は、Kalinin Bay後方のTBMが機銃掃射をするために真っ直ぐ降下したときだった。その機銃掃射に続いて大きな爆発が起こった。それはその機が魚雷を破壊することに成功したことを明確に示していた。後の報告によれば、その同じ機体が2回目の魚雷攻撃も始末したそうである。TBMが魚雷を撃破した後、魚雷の航跡が艦の両側で見つかった。最も正確な見積もりによれば、12~16発の魚雷が一斉に発射された。魚雷の1つまっすぐこちらに向かってきて、明らかに命中しそうであった。その魚雷は5インチ砲の砲火を浴びた。その魚雷は飛行甲板の下に消えた。しかし爆発は続かなかった。5インチ砲の装填手は、魚雷が正面に5インチ砲の直撃を受けて最後の瞬間に右に旋回した、と報告した。
我ながら良く判らない翻訳文になってしまいましたが(苦笑)、要するに「日本軍から魚雷攻撃を受けたこと」「日本軍の魚雷2本が米艦載機によって破壊されたこと」「"カリニンベイ"に命中しそうになった1発は"カリニンベイ"自身の砲火によって処分されたこと」が書かれています。
なんでわざわざ項目を別にしているのかがわかりませんが、ここにも日本側の射撃能力についてのコメントがあります。
CTG 77.4とは栗田艦隊と交戦した護衛空母戦隊のことですが、日本艦隊の射撃管制について興味深い証言を残してくれました。そのいくつかを紹介しましょう。
1.サマールでの実績から、日本軍は射撃管制の公理の1つを学び損ねたと結論できる。それは「一斉射撃においては散布界は十分に広くなければならない」ということだ。それは管制エラーを許容できるぐらいに、また一旦平均距離を確立した場合に命中を保証するために。彼らの散布界は極端に小さく、200ヤードから300ヤードである。この散布界サイズは小さすぎて命中を期待できないことがこの戦いの後に証明された。
2.彼らが適切な弾薬選択を行わなかったことは我々にとっては幸運で、彼らにとっては許容できないミスであった。
3.その他に興味深い発見は、日本軍が自ら持つ駆逐艦用長距離魚雷に対する過剰な信頼である。それ以外に彼らの無様な雷撃失敗の理由を説明できない。(以下略)
2.彼らが適切な弾薬選択を行わなかったことは我々にとっては幸運で、彼らにとっては許容できないミスであった。
3.その他に興味深い発見は、日本軍が自ら持つ駆逐艦用長距離魚雷に対する過剰な信頼である。それ以外に彼らの無様な雷撃失敗の理由を説明できない。(以下略)
ここでも再び散布界の話が出てきますね。彼らは興味深いことに「有効な射撃を行う場合にはある程度の広さを持つ散布界が必要」としていることです。それが「射撃管制の公理の1つ」とまで言い切っています。このあたり、散布界の縮小に異常なまでに拘りを見せた日本海軍との違いを見るようで興味深いものがあります。
感想
全般的に日本軍の砲雷撃戦技量に対しては手厳しい評価になっています。これは実際の戦例を考えれば致し方がないことでしょうね。その中で興味深かった点をいくつか上げてると、(1) 砲撃散布界についての考え方が日米で少し異なっている。
(2) 米側が日本軍の射撃管制用レーダー配備に対してかなり神経質になっている。
という2点です。
次回は米軍の対水上射撃能力について取り上げます。
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