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(写真1)戦艦「メリーランド」
(写真2)軽巡「デンバー」(「モービル」「コロンビア」等も同型艦)

米海軍公式レポートに見るレイテ沖海戦(3)


 興味深い史料を見つけました。

 タイトルは「BATTLE EXPERIENCE - BATTLE FOR LEYTE GULF」。訳すると「レイテ湾海戦における戦闘経験」とでもなるのでしょうか?。レイテ戦における米軍の戦訓をまとめた資料だと解釈できるように思います。日付は1945年4月1日ですから、レイテ海戦から半年以内にまとめた資料ということになるのでしょう。そういった意味からは極めて史料性の高い内容だと理解することができます。
 前回は、米軍が見た日本軍の砲雷撃戦技術について取り上げました。今回は別の視点から見てみましょう。

弾薬補給

 まずは以下のページを見て下さい。


 タイトルは「Ammunition」(弾薬)

 最初に軽巡「デンバー」(USS Denver)によるコメントが開催されています。

 1.今回の交戦では、僅か1200発の6in徹甲(AP)砲弾を搭載していた。この数は本級巡洋艦が火力支援任務において通常搭載する量である。加えて1120発の高性能(HC)砲弾が残っていた。1200発のAP弾というのは、通常戦闘距離(12000-18000ヤード)での「急速持続射撃」(rapid continuous)又は「急速一斉射撃」(rapid salvo)を行なった際には15分以下射撃に相当するものでしかない。このことは、敵水上艦船の行動可能性が高い海域において、このような少ない砲弾搭載は危険であることを示している。それゆえに、本級艦が敵水上艦船の行動可能性がある海域で火力支援任務に従事する場合は、1000発のAP弾を追加搭載することを勧告する。

 まあ、なんて素敵な「勧告」なんでしょ。我が国では考えられないことですね。1200発もの6in砲弾を「たった15分間に相当する量でしかない」と言い切ってしまうところは、さすがはアメリカ海軍です。ちなみに戦争初期のスラバヤ沖海戦で、我が重巡「那智」と「羽黒」は1海戦で2000発以上の8in砲弾を費消して「2000発の無駄弾」と批判されましたが、上記のデンバーの「勧告」と比べた時にそのアプローチの違いに驚かされます。

 さらに「デンバー」のコメントを続けます。

 2.この戦闘の後、我々のCVE部隊がサマール島東方にて有力な敵水上部隊の追撃を受けた時、本艦にはわずかに113発のAP弾が残っていただけであった。また、仮に再補給する時間が与えられたとしても、その海域には殆ど弾丸が残っていなかった。交戦終了後、「デンバー」は商船「ダーハン・ビクトリー」に横付けとなり補給を受けることになったが、その時レイテ湾内には「ダーハン・ビクトリー」に搭載されていた僅かに1100発の6inAP砲弾があるだけであった。それらは本艦と軽巡「コロンビア」にそれぞれ分配された。

 「もし栗田艦隊がレイテ湾に突入していればどうなっていたか?」という議論の際、米艦隊の弾薬不足が問題にされることがあります。本レポートを読む限りにおいては、米艦隊の砲弾不足はある程度は事実であったと言えるでしょう。ただ彼らの要求する「十分な量の砲弾」というのが、我々のそれと比べて桁違いに大量である、という事実にも目を向ける必要があるでしょう。


 次に戦艦「メリーランド」(USS Maryland)の砲術士官のコメントです。

 現在の砲1門あたり25発のAP弾の割り当ては、水上戦闘が生じたときには危険なほど少ない。この許容量を砲1門あたりAP弾40発まで増加し、さらにHC弾用の強装薬(full charges)を10セット追加することにより、艦は長距離射撃用に砲1門あたり50発の砲弾を得ることになる。この追加の強装薬は、長距離支援射撃の要求にも答えることができる。

 1門あたり25発ということは8門合わせて200発となります。200発という量が十分なのか否かは状況にもよりけりなのでなんとも言えません。


 次にTG 77.2のコメントを掲載します。TG 77.2はレイテ湾上陸作戦の火力支援部隊で戦艦6隻を中核とする有力な艦隊です。

 1.レイテ湾における戦闘艦隊は、これまでの経験から必要十分と考えられていたAP弾が与えられていた。これは平均約25パーセントのAP弾と75パーセントのHC弾である。AP弾は部分的にHC弾では効果がないような頑丈な敵施設を破壊するために使用され、またその一方で敵艦艇の襲撃に備えて保持された。この戦いの前までは、この搭載方式は全ての目的に対して満足すべき量であった。
 2.しかしレイテ作戦では、それは明らかに不適切であった。敵水上艦艇からの危険はそれほど高くなかったにも関らず、実際にスリガオ海峡海戦が戦われた。ここではAP弾の不足が戦闘における戦術思考に深刻な影響を与えた。すなわち射撃開始前までに敵艦隊をして比較的近距離まで進入されるという事態を招いた。これは我が水上部隊をして日本軍の魚雷射程距離内に位置することを余儀なくし、さらには日本の主要な火砲の射程距離内に位置することを意味していた。
 3.それゆれ将来の作戦において、砲撃グループが敵の大規模な水上戦闘部隊による攻撃に直面するような場合は、AP弾の供給量を50パーセントまで増加するように規定し、弾薬補給船を砲撃グループと同じ海域に連れ込むかあるいは可能な限り速やかに海域に進入できるように命令するかのいずれかの方法で速やかにHC,AP両方を再補給するように規定することを強く勧告する。
 4.重戦闘艦におけるAP弾の供給量は、通常20~30パーセントである。残りはHCである。この個艦毎に違っている20~30パーセントという割合は、砲撃支援目的のために減少されていた。それゆえに戦闘当夜における戦艦搭載のAP弾の数は不安材料であった。上記20~30パーセントのAP弾に加えて、約12パーセントのHC砲弾とその弱装薬(reduce charges)と、約40パーセントの5インチMark18が残っていた。駆逐艦群は彼らの5インチMark18の塔裁量を約20パーセントを消費していた。それゆえに弾薬保護に対する通常以上の注意が必要であり、そして戦闘期間が延びた場合は主砲用弾薬の変更が要求されていたことはは明白である。

 誤訳等についてはご容赦下さい。米軍が今回の海戦まで徹甲弾の搭載量を減らしてきたこと、この海戦で徹甲弾不足を痛感したこと等が記されています。

 その後に各艦の消費弾薬が記されていて、さらに戦艦「ウェストバージニア」のこの海戦での活躍について触れています。「ウェストバージニア」については、以前にこのブログでも紹介したことがありましたが、機会を見つけて再度取り上げてみたいと思います。

 次に軽巡「モービル」(USS Mobile)のコメントについて掲載します。

 1.15,000ヤード以上の距離においては、6in砲弾の曳光弾はしばしば目標到達以前に燃え尽きてしまった。この事実はとりわけ部分的斉射(partial salvos)を行った際に見られた。また小さな雲を通過したときに赤い曳光弾はオレンジのそれに比べると遥かに容易に追跡できた。

 今度は弾薬の再補給に関するコメントです。TG 77.2は弾薬の再補給について以下のようなコメントを残しています。

 4.将来の作戦については以下のことを勧告する。
  a.そのエリアの部隊の予想される必要性を満足するだけの弾薬を弾薬補給船に搭載し送り込まれるべきである。
  b.海軍船のみを荷揚げ作業の迅速さが致命的な問題となる前線地域に投入すべきである。

 これについては、レイテ作戦において予備弾薬の量が極端に不足していたという事実、そして弾薬補給で民間の船舶を使用したため、再補給に時間がかかってしまったという事実に基づいた勧告です。


まとめ

 弾薬補給に関する記述内容が多かったので今回はここまででご勘弁を。内容云々よりも弾薬補給についてだけでこれだけ多くの戦訓を書き残しているという点にまず驚かされました。このことはレイテ作戦における米軍の弾薬不足が単なる「噂」以上のものであることを示していると同時に、弾薬補給に対する米軍の重視姿勢が出ているようです。
 最初にも書きましたが、1200発もの徹甲砲弾を与えられた上で、それでも「徹甲弾が不足している」と「勧告」するあたりは、我が国では考えられないことのように思います。よく言われることに「日本人は如何にして上手く弾を命中させるかに腐心し、アメリカ人は如何にして弾を補給するかに腐心する」というものがあります。どちらが正しいという問題ではないのですが、両軍の砲術に関する考え方の違いを見るようで興味深いです。

 次回はもう少し米軍の砲撃について続けてみたいと思います。