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(写真)空母「ベニントン」より発進するF4U-1D「コルセア」戦闘機。「コルセア」や「ヘルキャット」の強力な対地攻撃能力は、米空母に「全戦闘機空母」という新しい選択肢を生み出した。

「全戦闘機空母」構想は正しいのか?

先日「世界の艦船」を読んでいて疑問に思ったことがある。確か空母戦特集か何かだと思うが、太平洋戦争期における空母搭載航空部隊の編成上に関する推移について、「艦上戦闘機の搭載割合が増加していった」という内容のことが書かれていた。この記事では、艦上戦闘機の割合増加を好意的に評価していたが、これを突き詰めると「全戦闘機空母」すなわち搭載機がすべて艦上戦闘機というのが究極の空母の姿となる(極論だが・・・)。

大戦末期の米空母群のように「相手が敵基地機」というような状況ならば、上記の発想は正しいと言えるかも知れない。しかし例えば敵が我と同程度の母艦航空兵力を有していたいた場合、果たして「全戦闘機空母」は有効なのであろうか。今回はそのことについて検証してみたい。

思考実験1

 青軍と赤軍がお互いに強力な空母部隊を有し、合間見えた場合を想定する。

前提条件

(1) 両軍とも6隻の大型空母を有する。
(2) 空母1隻当たりの搭載数は艦戦40、艦爆20、艦攻20とする。
(3) 艦戦は対艦攻撃力を持たない。艦爆は爆弾1個、艦攻は魚雷1本を搭載できるものとする。
(4) 艦爆、艦攻は対空攻撃力を持たない。

ルール

(1) 両軍は艦戦の半数を艦隊防空、残り半数の艦戦と、搭載する艦爆、艦攻のすべてが敵空母攻撃に投入される。
(2) 艦隊防空に当たる艦戦は、常時投入機数の半数を敵機迎撃に差し向けることができる。
(3) 攻撃隊は第1波と第2波に別れ、それぞれ攻撃機の半数づつが含まれる。
(4) 攻撃隊のうち1/3(33%)が航法ミスで敵空母上空に辿り着けないのとする。
(5) 空母上空の戦いは以下の手順で進む。
 (a) 艦隊防空戦闘機と攻撃隊援護戦闘機の戦い
 (b) 艦隊防空戦闘機と攻撃隊本隊との戦い
 (c) 艦隊と攻撃隊本隊との戦い。
(6) 艦隊防空戦闘機は、自隊を(a)敵戦闘機と戦うグループ、(b)敵攻撃隊本隊と戦うグループに2分する。その時グループ(a)には最低でも敵戦闘機と同数の戦闘機を割り当てる必要がある。
(7) 空中戦はファイアーパワーで解決される。戦闘機1機の射撃で、相手が戦闘機なら20%、相手が爆撃機・攻撃機なら40%の確率で敵機1機を無力化できる。
(8) 対空砲火は攻撃機1機づつに適用される。投弾前に20%、投弾後に20%が無力化される。
(9) 爆撃の命中率は20%、雷撃の命中率は10%とする。また空母以外を攻撃することはない。
(10) 魚雷4本の命中で空母1隻を無力化できるものとする。爆弾は2個で魚雷1本と判断する。

シミュレーション実施

上記の条件下でシミュレーションを実施した。なおシミュレーション中は計算を単純化するために端数はすべて四捨五入する。
(1) 攻撃隊の編成。
 青軍は自軍航空兵力を以下のように区分した。
 (a) 艦隊防空部隊:艦戦x120
 (b) 第1次攻撃隊:艦戦x60,艦爆x60,艦攻x60
 (c) 第2次攻撃隊:艦戦x60,艦爆x60,艦攻x60
 赤軍も同様の編成となる
(2) 第1次攻撃
 (a) 青軍第1次攻撃隊と赤軍防空戦闘機の交戦。
  投入兵力は以下の通り
   青軍:艦戦x40,艦爆x40,艦攻x40(航法ミスで1/3が脱落)
   赤軍:艦戦x60(保有機の半分)
  結果として両軍の損害は以下の通りになる。
   青軍:艦戦x8,艦爆x4,艦攻x4
   赤軍:艦戦x8
 (b) 艦隊攻撃
  青軍艦爆x36,艦攻x36が攻撃する。
  対空砲火で艦爆x14,艦攻x14が失われる。
  戦果は敵空母に爆弾6、魚雷3を命中させる。
  空母1撃沈、1小破といったところか?
(3) 第2次攻撃
  投入兵力は以下の通り
   青軍:艦戦x40,艦爆x40,艦攻x40(航法ミスで1/3が脱落)
   赤軍:艦戦x56(保有機の半分)
  詳細は省略して結果のみを記す。
   青軍:艦戦x8,艦爆x17,艦攻x17を失う。
   赤軍:艦戦x8,空母に爆弾6、魚雷3を命中
(4) 結論
  一連の航空戦で受けた両者の被害は以下の通り。
   青軍:艦戦x16,艦爆35,艦攻x35
   赤軍:艦戦x16,空母2沈没、2小破
  青軍は空母1隻強にあたる86機の航空機を失ったが、敵空母2を撃沈し、2を小破させたので青軍の航空攻撃は成功とみなすことができる。

つづく