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米軍式意思決定の技術 中村好寿 東洋経済新報社

困ったことを頼まれてしまいました。
いつもお世話になっている某W氏(仮名)から「この本を是非紹介してくれ」とある一冊の本を手渡されました。
今回紹介する本がまさにその本なのですが、さてさてどうしたものか。面白い本だったら良いけど、もしつまらない本だったらどうしよう?。正直に「つまらなかった」と書く訳にもいかないし、かといって嘘を書くのも気が引けるし・・・・・。とまあ、色々考えながらとにかく読んでみました。

結論から書きます。先の心配事は全て杞憂に終わりました。
とても面白い本でした。特に情報革命とその軍事面での利用、あるいは軍事RMAとは何か、といったテーマに対してヒントを提示してくれています。軍事RMAや指揮・幕僚活動といったことに興味がある方は一読して損はないと思います。

本書は大きく3部構成になっています。
第1部「軍隊の意思決定とは何か」。ここでは軍隊とは何か、指揮官とは、幕僚とは、といった軍隊及びその基幹要員の機能や技能について紹介しています。また本書の主要なテーマである「分析的意志決定法」と「ループ型意志決定法」にも簡単に紹介しています。

第2部「軍事意思決定とビジネス」。ここが本書の核になる部分です。ここでは従来の軍事意思決定方法を「分析的意思決定法」と呼び、それに対比する形でボイド大佐が提唱した新しい意思決定方法を「ループ型意志決定法」を紹介しています。

従来型の意思決定法とは、

「作戦実施前にあらゆる可能性について詳細に検討し、利点・欠点を比較検証した上で最適と思われる行動指針を決定。一度決定した行動指針は命令という形で麾下の部隊に与えられ、麾下の部隊は原則としてその命令に従わなければならない。」

といったものでした。この方法は「正しい」答えを導き出すためには優れた方法であったが、時間がかかりすぎるという問題があった。そのために機動性に優れた敵(北ベトナム軍、アルカイダ等)に対しては常に後手に回る危険がありました。

これに対してボイド大佐が提唱した「ループ型意思決定法」では、「分析的意思決定法」に見られるような複雑かつ詳細な意思決定の手順は踏みません。もっと簡単に「観察」「状況判断」「決断」「実行」という流れ(これをOODAループと呼びます)を速やかに実行し、さらにこれを早い速度で回転させていくことで時間軸上で敵を圧倒し、物理的な敵の破壊ではなく精神面で敵の抵抗力を破壊しようとする方法論です。簡単に言えば

「次週実施できる完璧な計画よりも、今すぐ実行できる良さそうな計画」

を重視したドクトリンと言えるでしょう。それを実現するための具体的な手段として、相互信頼(阿吽の呼吸、IT化)、部隊のコンパクト化(ボイド大佐の言葉によれば「戦略的伍長」)、契約型指揮法、直観力とリスクの4点を筆者は挙げています。

第3部「軍事意思決定の手順」。ここでは今までとは少し趣が変わり、筆者がボイドループに対比させる形で紹介してきた「分析的意思決定法」の手順について紹介しています。今まで何気なく読んでいた私は、ここで急に「あれ、なんか面倒なことを始めたぞ」と思ったのですが、あとで読み返してみると、ここからは従来の意思決定方法の紹介をしよう、という場所だったみたいです。「まあそんなものかな」という程度に読んでおけば問題ないかと思います。

本書を読みながら感じたことは、

「これって、ソフトウェア開発でのアジャイルソフトウェア開発の考え方に似ているな」

ということです。
従来のソフトウェア開発は、ウォーターフォール法といわれる手法が主流でした。ウォーターフォール法は優れた開発方法論でしたが、現在のように変化の激しい市場を前にしたとき「動きの鈍さ」が問題となってきました。ウォーターフォール法では、激変する市場要求に対して迅速に対応することが難しかったのです。

そういった状況から新たに発生してきたのがエクストリーム・プログラミングに代表される「アジャイルソフトウェア開発」です。アジャイル、すなわち「俊敏」という言葉から想像されるように、この方法は変化の激しい市場要求に速やかに対応することを目的とした開発手法です。その中で述べられていることは、
・計画に従うよりも変化を受け入れる
・短い時間間隔による繰り返し開発
・意欲に満ちた人々を集めて開発チームを編成
・開発チームを信頼する
・自主性の尊重
等等です。これってボイド大佐が提唱する「ループ型意思決定法」と似ているとは思いませんか?。

ただ本書の読んで疑問に思うことがあります。筆者は「敵の物理的な抵抗力を排除するのが消耗戦、精神的な抵抗力を排除するのが機動戦」としていますが、果たして両者はハッキリと区分できるものなのでしょうか?。筆者の言う「消耗戦」の中にあっても、相手の指揮・通信能力の破壊は最優先課題でした。あの湾岸戦争(筆者はこれを「米軍が消耗戦を戦った」としています)においても、米空軍の第1目標はイラクの指揮・通信網の破壊でした。筆者は戦争形態を「消耗戦」と「機動戦」にハッキリと区別していますが、私は「そんなにハッキリとは区別できないんじゃないの」と思ってしまいました。

お奨め度★★★★