マハン海上権力史論
アルフレッド・T・マハン 北村謙一訳
米海軍大学校第2代校長であるマハン大佐が著したThe Influence of Sea Power upon History,1660-1783(1660年~1783年におけるシーパワーの歴史に及ぼした影響)の日本語版である。マハン大佐といえば日本でも「坂の上の雲」等で登場してきて有名であり、海軍戦略思想史の中で重要な人物であることはよく知られている。彼は海軍の役割を戦時下に限定せず、平時にまで拡張し、いわゆるシーパワーこそが国家の発展に不可欠であるとしている。彼はシーパワーを確立するための手段として敵海上兵力への攻撃を最優先とし、所謂通商破壊戦を軽視した。これが時に批判されることもあるが、これは正しくない。彼はシーパワーを確立するための「目標」として敵海上兵力への攻撃を重視したのであって、それを「目的」化したのではない。その点が戦前期の日本海軍に見られるような「艦隊決戦至上主義」とは根本的に異なっている。また通商破壊戦よりも敵兵力攻撃を重視する思想そのものは、海国としての英国の繁栄と、それに対する仏国の没落を見れば、その正しさは明白であろう。今日においても戦略的な意味においてマハン思想は正しいといえる。
訳本であること、また我々にとってあまり馴染みのない17~18世紀の海戦を扱っていること、等もあって必ずしも読みやすい本ではない。しかしボリューム的には手頃であり、海軍戦略に興味のある向きには一読をお奨めしたい。
お奨め度★★★★
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