ソフトウェア職人気質
ピート・マクブリーン著 村上雅章著 ピアソン・エデュケーション
本書は野心的な著作である。従来のいわゆる「ソフトウェア工学」を真っ向から否定し、ソフトウェアとは職人的気質に基づいて作られなければならない、と説く。考え方から言えばエクストリーム・プログラミングに代表されるアジャイル開発に近いが、アジャイルよりもより人間的側面を重視した内容になっている。本書ではいわゆるソフトウェアを「管理する」という考え方は否定される。それに代わるものとして職人気質を掲げ、それを実践するための手段として少人数グループ、徒弟制度、継続的学習といった方法を取り入れている。
本書の示すプラクティスには興味深い点も多いが、全面的に首肯することはできない。例えば本書では「親の敵」のように扱われている「ソフトウェア工学」についていえば、混乱の極みにある我が国のソフトウェア開発現場においてソフトウェア工学がその改善に一定以上の役割を果たしていることは明らかである。また本書が理想とする「スーパースターのようなソフトウェアエンジニア」は確かに存在するかもしれないが、一般企業がそのようなスーパースターを多数保有しているとは考えにくい。本書が提示する「職人」のレベルは、一般企業が普通に保有しているソフトウェアエンジニアの技術レベルを遙かに超えているように思える。
「将来このような開発スタイルが定着すれば良いな」という話なら理解できるが、現時点で職人気質的開発手法は、現実的ではないと思えた。
お奨め度★★★★