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敵対水域--ソ連原潜浮上せず

ピーター・パクソーゼン他共著 三宅真理訳 文春文庫

今から振り返ると、1986年は実に多難な年であった。スペースシャトル・チャレンジャー爆発事故。チェルノブイリ原発事故。本書が描くK-219沈没事故もそのような悲劇の1つである。
ナワガ級、西側ではヤンキー級と呼ばれる戦略ミサイル原潜は、旧ソ連が開発した初の本格的戦略ミサイル原潜である。それまでのゴルフ級ディーゼル潜、ホテル級原潜があくまでも試験艦的性格の強い艦であったのに対し、ナワガ級は弾道ミサイル16基を搭載した本格的なミサイル原潜で、その能力は米海軍のジョージ・ワシントン級戦略ミサイル原潜とほぼ拮抗していた(ちなみにナワガ級はソ連側でも「リトル・ジョージ」「イワン・ワシントン」等と揶揄されていた)。
本書は、そのナワガ級の1艦であるK-219が、1986年10月にバミューダ沖で沈没に至った事故の経緯を描いたノンフィクションである。本書はあくまでも事実を描いた著作だが、事実とは思えない程ドラマチックである。本書を読んだ後なら、先に絶賛した「アポロ13」でさえも霞んで見えてしまうほどだ。
貴方は信じられるだろうか?。
暴走した原子炉を停止させるべく燃え盛る原子炉内で制御を下した無名の水兵のことを。彼の活躍がなければ、間違いなくK-219の原子炉はメルトダウンを起こし、第2のチェルノブイリ(あるいは・・・)となっていたことは間違いない。
実は「敵対水域」は本ブログでも一度取り上げている。だからそこで触れたことをもう一度書くつもりはない。ただ、この言葉だけは繰り返して書いておきたい。これは先に触れた勇敢な水兵について筆者が語った言葉である。

 「栄光のためでも、報酬のためでも、他のためでもなく、ただ彼がその場にいて、彼だけがその方法を知っていたから、彼はそれをやり遂げたのだ」

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