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Avalon Hill社のVictory in the Pacific(以下「VITP」)は、私が生まれた初めて購入し、プレイしたウォーゲームである。その後約30年の時を経て、久しぶりにVITPに触れる機会があった。改めてプレイしてみると、新たな発見があった。例えば勝敗ラインをゃんと計算し、日本軍をして「勝つために最適な手段」をゲーム上で実践してみる意外と史実に近いイメージの展開になることもわかってきた。
よし、それならVITPを一度通してプレイしてみよう。ルールは標準ルールのみ。当然キャンペーンだ。私自身の問題として、、ゲームそのものは保有していなかったが、VASSALを使えばソロプレイは可能だ。

第1回目-->こちら
第2回目-->こちら
第3回目-->こちら
第4回目-->こちら

感想1

今回は僅差で連合軍の勝利となったが、勝因、敗因を分析してみたい。
イメージ 7まず日本側の敗因であるが、一言で言えば「貯金の貯えが足りなかった」ということ。良い線まで行ったのだが、結局最後はボロボロ。これは両軍の戦力比を考えれば仕方がない。日本軍としては、後半ボロボロのサンドバック状態になることを前提とした時、一体どの程度までPOCを蓄えておけるかが勝負といえよう。第1Turnについては日本側にミスがあったとは思えないが、第2Turn以降はどうなのだろうか。第2Turnにハワイ作戦に固執した結果、ミッドウェー、中部太平洋の支配権を失った。これだけなら差し引きしてもハワイの分でお釣りが来るが、その南にある珊瑚海を制圧できなかったことは大きかった。珊瑚海を制圧していればPOCで4点差がついていたので、結果論としては逃げ切れた筈だ。さらに珊瑚海の制圧は米豪連絡線の遮断を意味し、そのために米軍の機動防御に著しい困難を引き起こしたことは疑う余地がない。勿論真珠湾で沈んだ旧式戦艦を何もせずに放置し、米国の巨大な再生能力によって復活させるのは惜しい。できれば真珠湾の泥の中で再生不能なまでに叩きたいと思うのも道理。しかし実際の所、戦術的価値がそれほど高いとは思えない旧式戦艦に対して、それほど拘る必要があったのかは今から思えば疑問を感じている。

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第2Turn終了時の状況

イメージ 5第3Turn以降の展開については、第2Turnでやり残した事の再チャレンジであった。しかし結局は当初の絶対防衛線を守るのが精一杯。珊瑚海や米委任統治領といった美味しい海域は1つも支配できなかった。結果論になるが、ここで上記のどちらかを支配していれば、最終TurnにPOCで逃げ切れたのに・・・。

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第3Turn終了時の状況

イメージ 6そんな中、サモア沖海戦の結果が興味深い。日米空母部隊同士が戦い、日本側4隻、米側3隻の空母を失った。日本側の失った空母は「翔鶴」「瑞鶴」「蒼龍」「飛龍」といった最有力艦である。一見すると日本側にとって不利な結果とも思えるが、実際はそうではない。隻数から言えば、日本軍は12隻あった空母から4隻を失い、米軍は4隻中3隻を失った。差し引き8対1。日本軍が圧倒的に優勢である。次Turnに「ワスプ」が増援として登場するので実際の戦力比は8:2だが、日本側の優勢は揺るがない。これがもし第2Turnに達成されていれば、日本側は外郭防衛線を遥かに低コストで達成でき(基地航空隊を1個置くだけでほぼ十分)、かつ機動兵力をもっと攻撃的な任務に使用できただろう。そのことがPOC獲得にどのように影響したかは想像に難くない。

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イメージ 9もう1点興味深いのがインド洋方面の扱いである。例えばPacific Fleet(HJ/SSG)の場合、インド洋作戦には殆ど魅力はない。英艦隊を潰した所で本命の対米戦には全く影響しないからだ。しかしVITPの場合、インド洋作戦は極めて有意義である。
その1つはPOCの獲得源として。特にベンガル湾は他の海域と航空基地を共有していないため一旦占領してしまえば、敵基地航空隊の脅威を受けることはない。VITPでは基地航空隊が強力で、正規空母相手でも1対1なら優位に立てる。基地航空隊1個で正規空母1隻を圧倒できるという計算だ。だから敵基地航空隊の威力が及ばない海域は友軍基地航空隊の独壇場となり、相手から見れば極めて厄介な存在となる。一旦セイロン島を含めたベンガル湾を日本軍が制圧したら、連合軍はその奪回に苦慮するだろう。仮に第3Turn終了時にベンガル湾を制圧し、最終Turnまでその状態を維持すれば、POCに換算して18POCが日本側に動く。これは大きい。
さらに無視できない点がもう1つ。インド洋方面からの英艦隊の跳梁を抑え込めるという点だ。英艦隊は航続距離に難があるのでそれほど脅威にはならない。しかし日本のPOC源というべきインドシナ海域にちょっかいを出してくることがあるので、放置しておくと厄介である。それなりの兵力をインドシナ方面に張り付けておく必要がある。それがセイロンを制圧することで英艦隊をインド洋から排除できる。その結果、インドシナ防衛用の機動戦力太平洋正面に投入できる。これは無視できない。

無論、インド洋作戦を敢行するためには、英艦隊と戦って勝たなければならない。太平洋正面に投入すべき兵力のかなりの部分をインド洋作戦に投入するのはそれなりのリスクがある。しかし得られるメリットを考え合わせると、インド洋作戦は検討に値する作戦だと思う。

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感想2

イメージ 11まず驚いたのが、今回私自身が書いた記録の量である。VASSALでプレイしながら並行して記録をつけていたので、内容が詳細になり、文章量が増えたという面は否定できない。しかし、それよりも大きかったのは、VITPの持つディテールの細かさである。重巡以上に限定されているとはいえ、1隻1ユニット。それが個々に移動、戦闘をするので、それぞれの艦の動きを追うだけでかなりのボリュームが書けてしまう。VITPは簡単なゲームだが、簡単=大雑把ではないということを改めて感じた。

イメージ 10今回のプレイでVITPは「結構太平洋戦争っぽい感じが出ている」と思った。勿論細かい点でケチを付けることは可能である。軽巡、駆逐艦が出てこない(重雷装艦は別)。陸上戦闘は限定的に再現されているだけ。母艦航空戦はブラッディ過ぎる。旧式戦艦大活躍何それ?・・・・。とまあこんな感じだ。しかしこれらの批判は所詮は瑣末事に過ぎない。
南方作戦の重要性。米豪連絡線遮断の意義、支作戦としてのインド洋作戦の位置づけ、両軍にとってにMI作戦の意味、そして北方作戦の全戦局に占める割合等が「それっぽく」再現されている。後発の「Pacific Fleet」(SSG/HJ)が、より再現性の高いルールや戦闘序列を誇りながらもインド洋作戦や北方作戦の意義を再現できているとはいえない点を考慮すると、VITPの再現性の高さが伺える。また砲撃力、装甲値、速度、空襲力という4つのファクターに凝集された個々の艦艇ユニットからは、ややデフォルメされた形ではあるが当時の海軍戦略の一般的な姿とその中での個々の艦艇の役割を見事に再現していることが伺える。マップやターンの区切りからも太平洋戦争の流れを帰納的なデザイン手法で再現しようとする意図が感じられる。

イメージ 12そしてVITPはゲームとしての面白さも十分に担保している。「火力分だけダイスを振って"6"の目の数だけ命中とし、命中の数だけダイスを振ってダメージポイントを決める」という戦闘システムは、極めてシンプルでありながらも大いに盛り上がる。いくつかのフェイズに分割して行われる移動システムも、シンプルながらも駆け引きという要素を十分に楽しめる。4~5時間程度でキャンペーンを完遂できる簡便さも良い。

イメージ 13そう。VITPが目指したものは「表面的な精確さ」ではない。「戦略ゲームとしての面白さと正確さ」なのだ。それを演繹的なデザイン手法ではなく帰納的なデザイン手法で再現しようとしている。しかも可能な限りシンプルなルールで。いわば「大人のホビー」としてのウォーゲームの面目躍如といった所であり、かつて中学生であった私が理解できなかったのも無理なからぬ所だ。

まさに「現在でも通用する傑作」と評しても良いVITPが入手困難であることは実に惜しまれる。どこかで再販されることを期待したい。

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