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ヨーロッパ史における戦争

マイケル・ハワード 奥村房夫/奥村大作訳 中央公論

ナポレオニックゲームをプレイすることになり、当時の軍事的な背景について少しでも理解を深めておこうと思って購入した著作である。しかし本書は当初の期待を遙かに超える素晴らしい内容であった。
タイトルを見てわかるとおり、本書はヨーロッパ史における戦争について論じている。これだけなら単に「ヨーロッパ戦争史」又は「欧州戦闘戦史」と思われがちであるが、本書はそういった類の本ではない。本書では、ヨーロッパ世界において戦争が人々にとってどのように扱われ、人々の生活にどのような影響を与えたか、あるいは人々の生活からどのような影響を受けについて論じている。大袈裟に言えば「当時の人々の息遣いが聞こえてきそう」な内容なのだ。
本書の目次を列挙してみよう
・封建騎士の戦争
・傭兵の戦争
・商人の戦争
・専門家の戦争
・革命の戦争
・民族の戦争
・技術者の戦争
これだけを並べてみても、ヨーロッパにおける戦争で何が主要な役割を果たしたかについて明瞭に示している。
さらに本書の中でハワード教授が展開している戦争に対する様々な見解は、我々の戦争に対する理解に新たな刺激を与えてくれる。例えば、既に18世紀のヨーロッパでは、「明察な人々に支配され、組織化されれば、戦争は回避できる」という今でいう「平和主義」のような思想も出ていたのである。それがフランス革命により国民戦争に進化し、さらに第1次大戦で民間人を含む総力戦へと発展した。戦間期に様々な国で「小さな専門家チームによる戦争」が提唱されたが、実際の第2次世界大戦は前大戦に輪をかけた総力戦となり。軍人たちの夢は破れることになる。こういった一連の流れをハワード氏は当時の人たちの視線から描いている点に本書の価値があるといえる。
最後に本書冒頭に記されているハワード氏の言葉を持って締めたい。
「戦争を戦争が行われている環境から切り離して、ゲームの技術のように戦争の技術を研究することは、戦争それ自体ばかりでなく戦争が行われている社会の理解にとって不可欠な研究を無視することになります」