永遠のゼロ
百田尚樹 講談社文庫
映画化されて有名になったので読んでみた。確かに面白い。前の大戦で戦死した祖父の後を追う中で、太平洋戦争の航空戦史やその中で苦闘するパイロット達の姿を描いている。本書は小説なので無論事実を描いた著作ではないが、所謂「仮想戦記」ではない。歴史の流れを大きく変えることなく、戦争という背景の中で人々を描いた小説なので、むしろ一般的な戦争小説といって良いだろう。主人公は戦時中の零戦パイロットで、真珠湾攻撃、ミッドウェー海戦、ラバウル航空戦、マリアナ沖海戦、フィリピン戦、沖縄航空戦、本土防空戦といった太平洋戦争における主要な海空戦に尽く参加している。凄腕のパイロットだが、生への執着が強く、所謂「勇敢なパイロット」ではない。そのため時に周囲と対立しながらも自らの信念を貫き通していく。読者は、主人公の生き方に共感しつつ、その一方で当時の軍上層部の愚劣な戦争指導に怒りを覚えていく。そのような本だ。
本書は戦史ではなく小説なので、戦史としての評価はあまり意味がない。小説としてみた場合、本書は極めて優れた作品であり、人間ドラマである。ただ敢えて戦史として評価してみた場合、筆者の主張に首肯できない部分があったのも事実だ。また映画を見たときに比べると、読後の爽快感が少なかったことも付記しておく。
お奨め度★★★★